私の読書日記 2020年9月
17.すごい片づけ はづき虹映 河出文庫
片付けについての心がけを述べる本。
冒頭に掲げられている「あなたが片づけられない、たったひとつの理由とは……?ズバリ!片づけたくないからです。」(17ページ)、これは至言だと思います。潜在意識のレベルで片づけたくないと思っていれば、いつまでも片づけられないし、いったん片づけてもすぐにリバウンドする。それはなるほどなと思います。
しかし、この本でなるほどと思うのはそこまでで、あとは神社や日本の伝統になぞらえた精神論、例えば片付いていない家には貧乏神や疫病神がやってくる(71ページ)などの脅しや、著者の好みの押しつけ、例えば「トイレのフタを開けっぱなしにしておくと、折角の福の神のエネルギーが逃げていく」「トイレに人工的な香りを置くのは、あまりおススメできません」(159ページ)とか、運気、エネルギー、パワーとか、語呂合わせを駆使した、例えば「拭く」は「福」に通じる(75ページ)などの根拠もなく内容に乏しい語りが続けられます。この種の話に感心できる人(まぁこれだけ根拠のないことをもっともらしく自信を持って断言できるのは一つの才能と言えるでしょうけど)にはいいのでしょうが、私には苦痛に思える本でした。「仕事で使うデスクの上の空白のスペースと、仕事の能力は比例します。」(196ページ)というのが、耳が痛かったためかも知れませんけど。
16.ふたりぐらし 桜木紫乃 新潮社
定収がなく脚本を書いて応募するが採用されずにいる元映画技師の信好と35歳の看護師紗弓の夫婦の日常、親との付き合い、仕事上のできごとなどを描いた短編連作。
赤貧というはどではないものの、定収入がなく妻に食わしてもらっていることを引け目に感じ、発泡酒を1日に2本とは贅沢なと思い、老いた母にへそくりで鰻をおごってもらったことを後ろめたく思い妻には言えない信好と、貧しさの中で慎ましく暮らしながらもささやかな幸せを見いだし夫の周囲にいる特に男女関係にあるわけでもない女の存在に嫉妬を露わにしつつけなげに夫に愛情を寄せる紗弓の姿は、微笑ましく切ない。信好の隠し事や紗弓の嫉妬が、互いに相手に悪いという思いに通じ、結局は相手に対する愛情を深めいたわりに向かうというあたりが、しみじみといいなぁと思います。
先行きの見えない時代にあって、自分自身ももう高齢者と呼ばれる歳になってきた零細自営業者なので、貧しさに圧迫され将来に不安を持つ信好と紗弓の暮らしぶりは、他人事には見えませんが、その中でも仲睦まじく生きる2人の姿には、力づけられます。
久しぶりに、いいものを読ませてもらったなと思いました。
15.未来からの脱出 小林泰三 角川書店
食事や本、映画、スポーツ中継等の娯楽は提供され、職員が入居者の健康状態を把握して対応してくれるが、職員は日本語を話さず入居者からのコミュニケーションは取れず、ソフトに管理されて外出はできない施設に入居している脚力の弱った老人サブロウが、自分が入居した経緯等についてどうしても思い出せず、他の入居者も同様であることに疑問を感じて、職員の目をかいくぐって脱出を試みるという展開の小説。
入居に至る経緯の記憶がなく、脱出方法についてのヒントのような印や道具が自分の身近に隠されていることをめぐっての検討や推理を重ねる前半は、ある種のミステリーになっていて、楽しく読めます。
他方で、施設に関する謎の部分というか、世界の設定は、ちょっと大がかりに過ぎる(だからSFと位置づけたのですが)ように思えますし、論理を弄んでいる感じで、私には読み味を悪くしているように感じられました。
「未来からの脱出」というタイトルは、主人公が「未来から」脱出しようとしているとは読めませんし、脱出しようとしているとすれば今ある未来から別の未来へということでしょうから行こうとする先もまた「未来」なわけで、この作品の内容にはそぐわないと思いました。
14.カエルの小指 道尾秀介 講談社
詐欺師から足を洗って口先の巧さを活かし実演販売士として稼働する武沢竹夫の前に現れたキョウと名乗る中学生が、不幸な境遇を語り責任を取れと言って、武沢から実演販売を習ってビデオを撮り「発掘!天才キッズ」という番組に出演し…という計画を話して武沢に協力を迫るという展開のサスペンス小説。
冒頭で、武沢らが墓の前で、死者に謝りもう一回だけ派手な詐欺をやらせてくれと話すシーンがあり、プロローグ的な位置づけなので、当然どこかで説明があるだろうと思っていたら、最後までその墓で眠る死者と武沢が詐欺師から足を洗った経緯の説明はありませんでした。そういうことならそうなのだろうと思って調べたら、「カラスの親指」という作品の続編なのだそうな。サブタイトルが「 a murder of crows 」(カラスの群れ)なので気がつけということなのでしょうけど。
ちょっと子どもができすぎ・頑張りすぎの感はありますが、よくひねられた展開が楽しめる作品です。
13.アタラクシア 金原ひとみ 集英社
盗作疑惑からなかなか立ち直れずにいるラノベ作家水島桂と婚姻しているがパリ時代の知人のシェフ蓜島瑛人と不倫中の元モデルのライター由衣、浮気を繰り返す夫拓馬が帰らぬ家で同居する母に苛立ち口汚く罵りながら反抗的になってきた息子信吾と暮らし雇い主の蓜島や同僚にもとげとげしく接するパティシエの藤岡英美、人気が落ちて酔って荒れるギタリスト俊輔と婚姻しているが同僚の荒木とのセックスにいそしむ由衣の担当編集者佐倉真奈美、ホストのヒロムにいいようにあしらわれながら援交に励む由衣の妹枝里らの思い、気まぐれ、怒り、戸惑い、恋愛、セックスなどを描いた群像劇。
由衣と瑛人の甘いラブアフェアを描いた冒頭から、自分のことを棚に上げてひたすら周囲を恨み罵る英美の落差で驚かせ(不愉快でもありますが)、周囲の人物へと話を拡げ、誰もがひねてどこか異常な感性・感情の壊れたところがあり、また意外に寛容で純朴なところも見せという形に落とし込んで行く展開の手際のよさに、最終的には感心しました。
12.判例に学ぶ婚姻を継続し難い重大な事由 本橋美智子 日本加除出版
離婚訴訟の大半で争点となる民法第770条第1項第5号の離婚事由「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の解釈について判例を検討し解説する本。
前半では民法の規定や解釈上の論点についての沿革や判例の推移、学説等を解説しています。学説を並べないと違う考えとの利害得失が議論しにくいということはあるのかもしれませんが、実務的には、あるいは特に裁判業界関係者以外の読者にとっては、そこは省いて判例の推移と現在の裁判実務の主流の考え方の説明に集中した方が読みやすくわかりやすくなるのではないかと思います。
後半は、判決の紹介です。弁護士の立場で読むには、もう少し事案の事情の説明があった方がいいように思えますが、他方で、通して読むことを考えると、1つ1つの判決の紹介の長さとしてはこれくらいが望ましいとも思えます。各判決紹介の最後に「キーポイント」というコメントがあり、判決紹介で触れられていない事案の事情や判決の考慮事項についての指摘があり、助かります(本当は、その部分に関する判決文の引用や事実関係の具体的な紹介の方が、弁護士にとっては助かるのですが、あまりに長くなるとか、判決文ではそこがうまく書かれていないとかの事情があるのでしょう)。
必ずしも明確でない、また判決により裁判官により揺れ動く部分がある「婚姻を継続し難い重大な事由」の理解に有用な本だと思います。もっとも、読みやすくする配慮は見られるものの、裁判業界関係者以外の読者が読み通せるかどうかは疑問ではありますが。
11.歴史を変えた100の大発見 生物 生命の謎に迫る旅 トム・ジャクソン編 丸善出版
生物学上のテーマや歴史上のできごと・学説から100のキーワード・ことがらを選んで、1項目最大でも見開き2ページでイラストや写真付きで説明する本。
ヴィジュアルで説明がシンプルでとっつきやすくはなっているのですが、生物学の歴史という観点から、かつては信じられていたが現在では誤りと考えられている現在一般人にはあまり知られていない学説が少なからず紹介されているのが、一面では興味深いのですが、読者の目からは必要のないことにページを割きすぎという印象を持たれかねません。シリーズタイトルの「歴史を変えた100の大発見」(原書でもそういうシリーズタイトルのようです)からすれば、ふつうの読者は、現在の科学/生物学につながっている真実の発見が紹介されているという期待を持って読むと思うのですが、その点ではタイトルにフィットしていない、生物学の歴史の専門家のマニアックさ/自己満足を優先させた本とも言えます。
そういう観点から、テーマについての説明よりも学者/研究者に焦点が当てられることが少なくなくて、ウィルスを発見しウィルス学の創始者の1人とされるマルティヌス・ベイエリンクは、ウィルスの発見に加えて窒素固定(ある種の細菌が気体中の窒素を取り込んで植物が使用できるようにする)も発見したが風変わりな人物で同僚からも感じが悪いと評価されていてノーベル賞を受賞できなかった(67ページ)とか、DNAの二重らせん構造の解明を決定づけたX線回折を実施したロザリンド・フランクリンは業績を認められる前に死にその上司がノーベル賞を受賞した(90ページ)などが勉強になりました。
10.ある晴れた日に、墓じまい 堀川アサコ 角川文庫
44歳のバツイチで古書店「時書房」を経営する赤石正美が、乳がんが発見されて右乳房切除手術を受け抗がん剤治療を受けることになったのを契機に、子もおらず墓守をする者もいなくなるので無縁墓になる前に墓じまいをしようと決意し、頑固者の父やジコチュウの兄らと摩擦を起こしつつ、墓じまいを進めるという小説。
墓じまいをどう進めていくかという、現実的な話のうんちくもあり、それはそれで勉強になりますが、そこを掘り下げている作品でもなく、私には、どちらかと言えば、零細自営業者があまり儲からない事業をどう維持し、体力がなくなってきたときに力仕事や雑務をどうこなしていくかという悩みの方に、やはり歳をとってきた零細自営業者として共感してしまいました。
09.逃亡小説集 吉田修一 角川書店
市役所での対応にいらだって市役所の駐車場を出てすぐ一方通行を間違って逆走し警察官に見つかって質問されるうちに嫌気がさしてそのまま車を発進させて逃亡した男の思いを描く「逃げろ九州男児」、高校生男子とその中学のときの担任女性教師の交際と逃避行を交換日記を通じて描いた「逃げろ純愛」、大麻使用疑惑を受けて逃走中の元アイドル歌手とそれをドッキリカメラと誤信し続ける元アイドルの大ファンだった山奥の温泉宿経営者のドタバタを描く「逃げろお嬢さん」、行方をくらませた日本郵便の下請け会社の運転手のゆくえと失踪の動機を追う「逃げろミスター・ポストマン」の4編からなる短編集。
これら4編の中では、2者の視点が交錯する「逃げろ純愛」が、微笑ましい内容と相まってよい読み味を出していると思いました。
逃げろ九州男児で、主人公の叔父が死亡した交通事故についての「裁判」が話題になっています。「被告人が」と言っている(46ページ)のですから、刑事裁判だと思うのですが(民事裁判なら訴えられた人は被告人ではなく、被告です)、「頼りにしていた弁護士は」「裁判のやり直しには腰が重い」(47ページ)とされています。刑事裁判なら被告人に有利な判決(被害者に不本意な判決)が出たときに控訴するのは検察官であって、弁護士が控訴をするというわけではありません。主人公のいらだちの原因となる市役所の対応が詳しく書かれないのも、人間が些細なことで暴走するその性を書きたいのかも知れませんが、こういう粗さがあると、ただ雑に書いてるんじゃないかというふうに読めてしまいます。「逃げろお嬢さん」のいかにものりピーの事件を使った安易さ加減も続けて読むことになるわけですし。
08.京アニ事件 津堅信之 平凡社新書
アニメーション研究家の著者が、京アニ事件からしばらくの自分のマスコミ対応、他の評論家の対応、アニメ界における京都アニメーションの独自性、過去の事件でアニメ(アニメファン:オタク)が受けてきた理不尽な扱いとの比較、被害者実名報道の是非、国内外からの多額の寄付への驚き等について説明し論じた本。
事件そのものについては、報道を超える情報はありません。タイトルから、事件そのものについて調査して書かれていると期待すると、不満が残ります。事件に対するマスコミ等の対応を論じ、事件を契機としてアニメ界、京都アニメーションの社会における位置づけを語る本として読むべきでしょう。
京都アニメーションについては、丁寧な仕事と高いクオリティ、従来のアニメファンの好みを外さない可愛らしい造形のヒロインを数多く登場させつつアニメの新しい楽しみ方を提供し人気を拡大してきた、非正規雇用・業務委託(フリーランス)の過酷な労働に依存する業界の中で京都アニメーションは正社員雇用で福利厚生も充実していたなどと持ち上げています。求人情報では期間1年の契約社員雇用で正社員登用ありとされている(122ページ)のが、実際どの程度正社員として登用されるのか、本当にきちんとした労働条件が確保されているのか、それならなぜに事件前から「秘密主義」で社内のことは表に出さない(58ページ、120ページ)のか、疑問に思えますが。
07.続・日本人はこうして歯を失っていく 日本歯周病学会、日本臨床歯周病学会 朝日新聞出版
歯周病の恐ろしさ、治療と定期的な歯科受診の必要性を語る本。
歯周病が悪化すると歯を失うだけでなく、動脈硬化や糖尿病、アルツハイマー病など様々な病気を引き起こしたり悪化させるとして恐怖感を煽り、歯周病の治療とプラークの除去等のために定期的に歯科受診することを勧めています。
歯科受診以外で自分でできることとしては、第6章で歯磨きについて書かれているくらいで、歯周病が悪化するかどうかについては口の中の細菌の攻撃力の他に、患者自身の抵抗力、生活習慣その他が絡みあっている(39ページ)としながら、生活習慣に関してタバコをやめろ(40ページ等)というのと乳酸菌の一種のロイテリ菌が歯周病菌を抑制する効果がある(70ページ)というくらいです。基本的には、歯医者に来てねという本です。
「日本歯周病学会」の他に「日本臨床歯周病学会」というのもあるというのは初めて知りましたけど、東京に「東京弁護士会」「第一東京弁護士会」「第二東京弁護士会」があるのと似たような事情なんでしょうか。
06.段取り上手のメール さくさく仕事が進む超速文章術 中川路亜紀 文藝春秋
ビジネスメールを簡潔で要領よくする、相手に不快感・困惑を感じさせないという観点からのアドバイスをする本。
記載上の無駄を省いて短くするということの他に、お願いで過剰に遠慮することがメールのやりとりを無駄に多くするという指摘があり、なるほどと思いました。私も、相談や打ち合わせの日程調整をするときに、最初から可能な候補日を挙げておけばすぐに決まるのに、来週あたりどうですかなんてところから始めて無駄にメールの回数を増やしていることがありますし。
こちらのメールを読んだ相手は何をしようとするかを考えて、そのために必要な情報が欠けていないか、相手の対応をサポートする/楽にできる情報を付けておいた方がよくないかを検討するというのもなるほどです。
あと、相手が間違っているときでも、相手のメンツを潰さないよう、角を立てないようにやんわりとというのも、耳が痛いところです。
日頃、基本的に書けるときにできるだけすぐに応答するクセが付いている私にとっては、少しゆっくり検討しようねということでもあります。時間的というか、精神的な余裕の関係で限界がありますが、心がけておきたいと思います。
05.燃える波 村山由佳 中央公論新社
ラジオの深夜番組のパーソナリティも担当している42歳のスタイリストの三崎帆奈美が、大女優水原瑶子の撮影で中学のとき同級生だった「カメラマン」(フリーランスの女性を主人公にした小説で、今どき珍しいお言葉。作者のか、「婦人公論」のメンタリティか…)澤田炯とともに仕事をしたのを機に、水原瑶子に気に入られて澤田とともに様々な仕事にチームとして呼ばれるようになり、夫との諍い、夫の浮気の発覚を経て、言い寄る澤田と関係を持ちという不倫・離婚・再出発小説。
主人公の不倫を正当化するのに、仕事に理解のない夫の傲慢な言い草、夫を甘やかす義母との確執、夫に対して自分が譲ることへの不満の鬱積、夫の浮気の発覚、男からの強引な誘いと積み重ね、自分勝手な夫と思いやりがあり自分に理解を示す男との対比をして見せるというのが、読者への配慮というか、読者のニーズなのでしょう。同性のというか、私の目には、夫から愛人との間に子どもができたというメールが来て動揺している帆奈美を、それも高熱を出していることを知り心配してホテルの部屋に訪ねて来たところを、強引に押し倒す澤田は、ずいぶんと小ずるい卑怯な男に見えますし、その澤田が思いを遂げた後の別の機会に拒否されてその日は諦めるという際に「俺が、大人でよかったね」なんていう(289ページ)のは笑えますし、この人物の独りよがり(勘違い)ぶりを示唆していて、いやこの先に暗雲が垂れ込めているようにさえ見えるのですが、そっちはこの際目をつぶるというかまぁいいやってことなんでしょうかね。
04.俺の残機を投下します 山田悠介 河出書房新社
かつて世界大会でベスト8に入ったことがある自己中でプライドばかり高いプロゲーマーの上山一輝が、盛りを過ぎ好成績を出せず所属事務所でも冷遇されていらだっていたところへ、自分と同じ容姿の3人組と出会い、自分たちは一輝の残機(ゲーム上のライフのようなもので一輝が致命傷を負うと身代わりに消滅する者)だと言われるが信用せずに、容姿が同じことを利用して身代わりにバイトや別れた妻の元にいる息子の世話をさせるなどしていたが、一輝が事故に遭ってその1人が実際に消滅したり、身代わりとしてバイトや子どもの世話をする者が自分より遙かに適切に対応する様子を見るうちに、自己中で破綻した自分の生活を見直していくという人間ドラマ小説。
一輝のあまりの自己中で独りよがりの思い上がった言動には、読んでいてあきれ果て、途中からようやく思い直していく様には、確かに共感してしまいます。しかし、他方において常人ならぬ突出した能力を持つ者は常識的な思考方法や行動様式に囚われないからこそその能力を獲得するということもままあるわけで、時代の要請とは言え、一律に丸くすることを良しとするというか異端の尖った存在を許さない世の中の傾向/方向性にも大きな不安を感じてしまいます。
03.ホワイトラビット 伊坂幸太郎 新潮社
誘拐をして人質と交換に何かをさせるなどで利益を得ている組織に所属し誘拐を実行している兎田孝則、その組織の経理を言いくるめて大金を引き出して逃げているコンサルタントのオリオオリオこと折尾豊、経験豊かな泥棒の黒澤と黒澤に依頼した空き巣家業の中村と抜けた弟子の今村、暴君の父親の支配下で悩む高校生の勇介とその母親が、仙台市内の一軒家で出会い行き違い事件が進展するというミステリー小説。
作者が「あなたの知人で小説版を全巻通じて精読したという方は、無情にも限りなく少ない」と表紙カバー見返しで言及している「レ・ミゼラブル」を読んだことが執筆の動機になっているのか、そこかしこで「レ・ミゼラブル」が引用され、その世界観が語られます。それを心地よく感じるか、うっとうしく思うかが作品に対する評価に影響しそうです。
兎田の新妻綿子に対する誘拐組織幹部の暴力が、作者自身が言い訳しているように、描写の必要性に疑問を感じ、不愉快ですが、ミステリーとしては、うまく予想をずらす展開が図られ、飽きずに読め感心させてくれます。
02.海の極小!いきもの図鑑 星野修 築地書館
伊豆大島でネイチャーガイドをする著者が、大島の海で撮影した写真で、海中の岩や砂地で生息する小さな生物たちを紹介した本。
クラゲやウミウシレベルではなく、もっと小さな、単体では肉眼で探すことが難しいレベルの生物、他の生物に寄生する生物たちを重点的に紹介しています。
水中写真で、これほどの小さな生物を美しく、明るくカラフルに、ピントを合わせて撮影できることに、技術の進歩と撮影者の技量と苦労を感じます。名前やその生態の解説からはおどろおどろしく思えたり、関心を持ちにくい生物が、写真の美しさで愛らしく思えたり関心を惹きます。
研究者として給料をもらっているのではなくネイチャーガイドとして生計を立てている著者が、毎日海の小さな生き物を観察し続け水中で写真を撮り続けていることに感心しました。
01.サラリーマン、刑務所に行く! 影野臣直 サンエイ新書
刑務所での処遇、日常生活、食事、懲罰、仮釈放等の実情について解説した本。
公式の説明ではわからない受刑者の刑務所内での創意工夫(刑務所側から見れば明らかな違反行為)、隠れて作り食べる「創作料理」や火をおこす方法とか刑務所内でのおしゃれとかが大変興味深く読めました。
居酒屋でけんかをして傷害罪で有罪となり服役した坂本くんの刑務所暮らしをレポートするというフィクションの形をとっていて、具体的な情報源の記載がなく、他方で著者の経歴で1999年から2002年まで服役したことが書かれているため、著者自身の実体験に基づいて書いているのか、その人脈で最近出所した受刑者を取材して書いているのかがはっきりせず、その結果書かれていることがいつの話なのか、どの程度の信憑性があるのか、今でもそうなのかの判断がしにくいのが難点です。
13ページに「起訴状」の写真が掲載されているのですが、起訴状の宛先(裁判所名)や、公訴事実の記載から明らかな罪名及び罰条など、隠す必要がまったくないところが墨塗されている一方で、被告人の氏名と生年月日が墨塗されていないというのはいったいどうしてなのでしょう(大丈夫なのか?)。
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