庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2021年12月

20.知らないと恥をかく世界の大問題12 池上彰 角川新書
 現代の世界各国の政治の問題点を取り上げて論じるシリーズの12冊目。
 トランプ政権からバイデン政権へと政権交代したアメリカの現状と今後、イギリスのEU離脱をめぐる経緯と今後、プーチン政権の現状と今後、アラブ諸国から見放されつつあるパレスティナとイランをめぐる確執でさらに混沌となっている中東情勢、覇権主義志向を強める中国、安倍政権下の日本などについて論じています。コロナ対応では、評価を上げたアンジェラ・メルケル(ドイツ首相)、ジャシンダ・アーダーン(ニュージーランド首相)の国民への呼びかけを紹介し(259~263ページ)、それに引き換え…と論じています。まぁ、いうまでもないことですが。
 日本のマスコミは、基本的に中国人の名前は漢字で日本語読み、韓国人の名前は原音読みにしています(例えば「NHK放送ガイドライン2020」24~25ページでは「中国・台湾の地名・人名などは、原則として、漢字で表記し、日本語読みとする」「韓国と北朝鮮の地名・人名・企業名などは、原則としてカタカナで表記し、原音読みとする」とされています。韓国人は原音読みにしたのは、自分の名前を日本語読みしたのは氏名権侵害だと在日韓国人牧師が裁判を起こしたからなんでしょうけど)。この本でも、文在寅大統領は「ムンジェイン」とルビを振り(193ページ)、習近平(シーチンピン)首相は「しゅうきんぺい」とルビを振っています(44ページ)。元NHKの著者は、退職後もNHKのやり方ということかもしれませんが、「エイブラハム・リンカン(現在の教科書では、リンカーンではなく、現地の読み方に近い表現で表すことが増えています)」(69ページ)というのなら、原音読みにした方がいいんじゃないかと思います。教科書が変わるまで待つことはないんじゃないかと…

19.Q&A 誰でもできるブラック企業対策 明石順平編著 ブラック企業被害対策弁護団監修 集英社インターナショナル
 労働問題について、シンプルなQ&Aと若干の解説、マンガ・イラスト等で解説した本。
 わかりやすさを旨としているため、具体的にどういう場合が闘えるのか、どうやって闘うのかが今ひとつわからないといううらみはあります。労働者に闘えるよ、諦めるなと励ますのが目的なので、最高裁判決の読み方や紹介する下級審裁判例もちょっと楽観的に思えるところもあります。この本を読んで、自分の場合も当然に勝てるはずと思い込み言い張る相談者の姿が目に浮かびますが、まぁ、闘えば勝てる労働者にまずは諦めずに弁護士に相談してもらう方が優先ですから、それは、この本の性格上、いいかなと思います。
 他方で、有期契約の雇止めで、不更新条項が入った更新契約書に署名してしまった場合(170~171ページ)については、逆に悲観的な書きぶりに思えます。もちろん、気をつけようはいいんですが、不更新条項を見て拒否したらその時点で雇止めされるリスクがあるから仕方なく署名する労働者は少なくないわけで、そうなったときにも、自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在するか(28~30ページ)で闘う余地があることは、今どきは、指摘しておくべきだろうと思うんです。
 なお、わかりやすさ・読みやすさの観点では、労働基準法や育児介護休業法の長々しい条文をそのまま載せているところは、どうかなぁと思います。

18.観戦&プレーで役に立つ バドミントンのルール 審判の基本 [改訂新版] 日本バドミントン協会監修 実業之日本社
 公益財団法人日本バドミントン協会監修のバドミントンのルールやストロークの基本、審判のコール等について説明した本。
 私がバドミントンをしていた頃(1970年代!)とは、得点方法が大きく変わっています。昔はサーバー側しか得点できませんでしたし、ダブルスでは「セカンドサーブ」もあってサーバー側は2回負けないとサーブ権を失わないというルールでしたが、今はラリーポイント制でレシーバー側もラリーに勝てば得点できるようになりました。バドミントンは他の競技と違って攻撃的なサーブができず、サーバーは有利とは言えません。レシーバーが得点できるとなると、サーバー側にはプレッシャーが大きくなりむしろ負担になります。また、ラリーポイント制になると、ゲームの進行が格段に早くなります。それもあってか、昔は15点ゲームが基本でしたが、今な21点ゲームが基本となっています。そして、サービスのルールでも、昔はインパクト時点でシャトルがウェストより下(ウェストの上で打つと「オーバーウェスト」)、かつ手首より下(手首より上で打つと「オーバーハンド」)でなければなりませんでしたが、今は床から1.15m以下になっているそうです。
 ストロークの紹介では、ドロップの打ち方が「カット」と「リバースカット」の2パターンで終わっています(100~103ページ)。これはどちらもラケットの親指側の面でシャトルをカットする(リバースカットは手首を返してその面を体の外側に向ける)ものですが、私たちがやっていた頃にはカットのフォームのまま裏面でカットする(ストレートのフォームでクロスに落とし、クロスのフォームでストレートに落とす)というテクニックを弄していました(決まると快感!)。そういうのは全然紹介されていませんが、やる人いないんでしょうか。

17.ダチョウはアホだが役に立つ 塚本康浩 幻冬舎
 日本で500羽、アリゾナで3000羽のダチョウを飼っているという著者が、ダチョウの生態と、ダチョウから作った数多の製品を紹介する本。
 「ダチョウはアホだが」というタイトルに関連するのは、家族(コロニー)のメンバーを識別していない(入れ替わっても気がつかない)、人が乗っても気にしない、毛繕いをしない(汚れても気にしない)などです。アホというのではなく、鷹揚・寛容と評価してあげてもよさそうな気もしますが。
 ダチョウの特性は、鈍感なこととケガをしても死なない/すぐ治る免疫力の強さだとかで、ものすごいスピードで抗体を作り、それが巨大な卵に移行するそうです。そうすると、ウィルス等への抗体製造が迅速かつ安価でできるということで、それが「役に立つ」となって、著者は抗体入りマスク、抗体スプレー、抗体入りグミ、抗体入りだし醤油、抗体入り化粧品、薄毛抗体配合シャンプー、抗体入り飴ちゃん、抗体入りサプリなどさまざまな製品を商品化済みだそうです。
 軽いタッチで難しくなく書かれていますが、学習や教養よりも、著者の商売・商品紹介の色彩が強いのが難点です。
 高卒で工員となったが、一念発起して大学に行って獣医となり、ダチョウの卵による抗体の大量生産を売りにしてたくさんの企業を立ち上げて商売に励みながら、今は京都府立大学の学長という著者の人生・経歴の方が、やり直し人生物語めいて読みでがあるかも知れません。

16.久遠の島 乾石智子 東京創元社
 世界中の書物のコピー/アバターを見ることができる久遠の島がそこで暮らすジャファル氏族もろとも海の藻屑とされ、その惨禍を「誓いの書」とともに免れたシトルフィとヴィニダルらが、久遠の島を破壊した後も「誓いの書」を追い続けるサージ国の王子セパターから逃げつつ復讐を図るファンタジー。
 著者の出世作「夜の写本師」のエピソード0の位置づけのようですが、7年前に読んだ本なのでもう記憶がつながらないためかもしれませんが、ラストがそう書いている以上にはその点はよくわかりませんでした。その世界観、指輪物語風でもあり、上橋ワールドより少し怨念をはらみ、ゲド戦記に近いタッチ、羊皮紙の本へのこだわりと愛着、ヴィニダルの心の中に伸び成長する黒い枝などに、共通のあるいは近いものを感じさせるのですが…
 書き出した災厄と怨念の割には比較的軽やかな結末は、救いと見るか、欲求不満を残すか。好みの分かれるところでしょう。

15.続 横道世之介 吉田修一 中央公論新社
 大学を一年留年して卒業し、バブル最後の売り手市場に乗り遅れて52社受けて全て不採用となってバイトとパチンコで食いつないでいる24歳のフリーター横道世之介と、同期生で証券会社に就職したコモロン、コモロンの部屋から双眼鏡で覗きをやってて見つけた「目が離せなくなるほどの美人」のシングルマザーで世之介らがストーカーまがいの訪問中に子どもがビー玉を飲み込んだところを助けたことがきっかけで世之介とつきあうことになった日吉桜子、パチンコ屋で新台を取り合った縁で知り合った鮨職人になりたい居酒屋の女性店員浜本らの1993年4月からの1年と、東京オリンピックのマラソンレースに沸く2020年の東京を交差させて描いた青春小説。
 前作では大学1年生の1年と、友人たちが駅で線路に転落した客を助けようとして死んだ世之介を振り返る現在を交差させていましたが、その6年後の写真に目覚めつつある世之介を描いているところを見ると、作者が世之介の死を実在の新大久保駅での事件とダブらせるならそこまでも6年。もう1作くらい続編を書くつもりでしょうか。
 書かれた頃には東京オリンピックが1年延期になるとか、マラソンは東京では行われないとか、到底想像もできなかったでしょうから、作者には罪はありませんが、銀座や国立競技場でのマラソンシーンを感動的に描かれてもなぁ…

14.朔が満ちる 窪美澄 朝日新聞出版
 酔って暴力を振るう父親に対し、13歳の時斧で頭を割って父親を半身不随にし、その後伯母の家で暮らして、今は東京で建築写真家の助手をしているものの時折父親を殺す夢を見てうなされている横沢史也が、かかった整形外科で看護師をしている生まれてすぐ施設前に捨てられ施設で育った過去を持つ梓と名乗る女と出会い、目を背けてきた過去と向き合っていくサバイバー青春小説。
 底辺層でもがき懸命に生きる人・カップルの姿を掬い出すのがうまい作者だと、思う。そしてそういう人たちが、手放しでは喜べないとしても前向きになって終われる話は、どこかホッとする。そういう読後感を持ちました。
 「不幸な家のパターンってどうして似ているんだろ。幸福ほどバリエーションがないのがまた不幸だよね……」(125~126ページ)という梓の台詞は、アンナ・カレーニナ(「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。」)への異議申立なんでしょうね。目立たせずにさらっと入れているのに好感を持てました。

13.コロナ狂騒録 海堂尊 宝島社
 「チーム・バチスタの栄光」に始まる「田口・白鳥シリーズ」とも「東城大学シリーズ」とも「桜宮サーガ」とも呼ばれるシリーズの体裁と登場人物を使った新型コロナウィルス感染拡大とそれに対する安倍政権と官僚・医療専門家たちの対応のまずさ・無策ぶりをあざ笑う政治小説「コロナ黙示録」の続編。
 安倍晋三の辞任から東京オリンピック開会までが描かれています。作者としては、オリンピック中止を期待して書き続けてきたがどうも強行されそうだというところで見切って出版したというところでしょうか。これも、菅首相の辞任直前に出版された(前作は安倍首相の辞任直前に出版された)のは、狙ったものだったのでしょうか。
 前作よりもさらに東城大学関係はどうでもよくなった感じで政界官界の話に集中しています。
 登場する人物の中で、白鳥の暗躍の一つの場である「政策集団・梁山泊」の総帥村雨弘毅の描き方に疑問を感じます。作者は、村雨を浪速府で医療最優先の行政システムの構築(医療立国)を目指した浪速の風雲児と位置づけ、安倍政権打倒のために活動し、公文書偽造を命じられて自殺した官僚の無念を晴らすために「梁山泊」の活動をする人望がある元浪速府知事と描いています。村雨は、「ナニワ・モンスター」(2011年)からの登場人物だそうで(私は読んでいません)、その経歴から橋下徹を指していると一般に受け止められています。ところが、作者は前作の「コロナ黙示録」以来、「弁護士で、人気テレビ番組『注文が多い法律事務所』出演で知名度を上げ、2008年に第17代浪速府知事になり、2010年に白虎党を結党して、代表に就任」した(64ページ)というより明確に橋下徹を示す人物「横須賀守」(前作・コロナ黙示録では「橋須賀守」でしたが…:「コロナ黙示録」43ページ、246ページ等)を登場させた上で浪速府の医療を破壊し府民を騙した政治家としてこき下ろしています。期待を寄せて持ち上げた人物が、裏切って変節・堕落したり、あるいはその人物はもともと信を寄せるに足りない人物で以前の評価が誤っていたという場合、作家はどうすべきなのでしょうか。以前書いたキャラクターは維持したままで別人物だったことにするというのは、スッキリしない感じがします。ここは村雨が実は見下げ果てた人物だったとして悪役で登場させるか、もう登場させないかではないかと思うのです。そこを過去に持ち上げた幻想のキャラは架空の人物にすり替えて登場させ今でも理想的だとするのは、無理が出てくるように思えます。結局、前作でも今作でも、「梁山泊」は重要な位置づけがあるように見えながら、実際には大したことは行わず、別に梁山泊も村雨もいなくても作品が成り立つように、私は思います。作者の村雨へのこだわりは、空回りし、何のために村雨が出てくるのかわかりません。作者はさらに続編を書いてそこでは村雨が何かを成し遂げるという構想を持っているのかも知れませんが。

12.コロナ黙示録 海堂尊 宝島社
 「チーム・バチスタの栄光」に始まる「田口・白鳥シリーズ」とも「東城大学シリーズ」とも「桜宮サーガ」とも呼ばれるシリーズの体裁と登場人物を使った新型コロナウィルス感染拡大とそれに対する安倍政権と官僚・医療専門家たちの対応のまずさ・無策ぶりをあざ笑う政治小説。
 医師である作者の目から、政治家と官僚の無能ぶりとともに口先では国民の命を守るなどと言いながらその実医療体制の充実や感染拡大防止のための実効的な措置、ワクチンの開発などには精力も予算も振り向けず、お友達と大企業の利益のためにだけ予算を使っている様子が辛辣に描かれていて、なるほどなと思いますし、安倍政権と維新が嫌いな者にとっては溜飲が下がるところはあります。検査・免疫・ワクチン関係の話も勉強になります。
 また、安倍・菅への忖度で提灯報道ばかりのマスコミの現状を見るとき、このような作品が安倍晋三の首相在任中に(何とか間に合って)出版されたことは、それ自体快挙なのかも知れません。
 しかし、小説としてみたときには、作者の年来の主張・悲願のAi (Autopsy imaging) (死亡時画像診断)の普及がコロナによる死亡の判定や診断に役立つという話がそろりと出ているとか、シリーズの登場人物を登場させてかろうじてエピソードは作って話は進めているというくらいで、中途半端感があります。Aiの利用の話は作者の情熱が下がったか飽きられていると自覚しているのかこの情勢下では不謹慎と受け止められると考えたのかでしょうけれど。
 作品の終わりが中途半端な感じがするのは、現在進行中のことがらを描いているためという面もあり、また中途半端な時期までの話にしたから安倍首相在任中に出版できたという面もあり、仕方ないかなと思いますが、それにしても、作品の中枢であるかのように扱った「政策集団・梁山泊」を解散するという理由とタイミングは、現実世界ではさまざまな要素で判断されることではありますが、小説の世界では全然スッキリしないし、ぶつ切れ・唐突感に満ち、説得力を感じません。

11.最新版 オールカラー 個人事業の経理と節税 益田あゆみ監修 西東社
 個人事業主が帳簿付や会計処理、決算書作成や確定申告をどうすればいいかについて解説した本。
 初歩的なところからイラスト・図表付きで複式簿記・帳簿付(仕訳:勘定科目)等を説明してくれていて、これまで読んだ本では一番わかったような気になれました。だからといって、自分でちゃんと帳簿をつけて来年から青色申告するぞと決意するには至らないのですが。
 仕入れと経費の区別は、それぞれの売上に関係があり粗利計算に使えるものは経費ではなく仕入れに仕訳してよいと説明されています(80~81ページ)。弁護士業務の場合、仕入れなんてないと思っていましたが、そう考えると、個別事件のために支出する費用は、仕入れと位置づけることができそうです。
 個人事業主が法人成りした方がいいかについての考慮事項として、ある程度の儲けがないとそもそものコストが高くなって損することにもなりかねないとか、個人より法人の方が税務調査を受けやすいと実務的なアドバイスもなされています(124ページ)。
 個人事業をやっていても、ああそういうことがあるのか(本当はそういうこともしなきゃならないのか)と気づかせてくれるところが多い本でした。

10.あの人はなぜ恋人とめぐりあえるのか 中谷彰宏 主婦の友社
 女性向けに、「出会える人」になるにはどう心がけていればいいかを「指南」する本。
 明るく、感じ悪くなく、相手の表情に合わせ、サングラスとイヤフォンとスマホを避け、答えるときに間を空けず、知り合いがいないときでも不機嫌な顔をせず気配りをした行動で(誰が見てるかわからないし…)、積極的にアタックする(受け入れてくれなさそうな相手にも告白してみる:137~139ページ。恋人がいる相手にもエントリーしておく:150~152ページ)とか、いうことを勧めています。そうかなと思うところもありますが、大丈夫か?と思うところも多々…
 さまざまな場面で、「男性は」という語りが出てきます。男性はにおい(香水)が苦手(74ページ)とか(私も、香水のにおいはあまり好きではないですが)。自分もそうだと思うところもありますが、男性一般がそうだというのは本当かなと思うことの方が多いように思えます。単に著者の好みを「男性は」って言ってるように感じるのですが。「男性は、少なくとも女性なら誰でもOKです。」(140ページ)とか、「女性は共感を求め、男性はビックリさせたいのです」「これも男女の脳の違いです」(198ページ)とか言われると、勝手に男性代表みたいな顔していい加減なこと言わんといてと言いたくなります。

09.あさひは失敗しない 真下みこと 講談社
 超過保護で過干渉の母親の元で、着ていくものも母親に相談して決め、母親の勧めでスマホの現在位置を検索できるアプリも入れている大学生の間宮あさひが、友人みちるの彼の谷川と初体験した挙げ句に妊娠・中絶し、そのことを相談した友人の律子にたかられ続けという事態に困って…というサスペンス小説。
 私の失敗はお母さんの失敗になる、だからお母さんは私の失敗を認めない、お母さんがいる限り私は一生失敗をすることができない(171~172ページ)という母子関係、そしてお父さんは私のことを見ているようで見ていない、お父さんにならばれても私は全然気にならないと思う、知らない人にどう思われても何とも思わないのと同じ(172~173ページ)という父子関係とも、ちょっと気持ち悪い。さらっと書かれている「女の子がメイクをするのは、かわいい顔をしたときに目の奥を闇を見せないようにするためなのに」(85ページ)というフレーズ、その感覚も怖い。
 あさひを自分の部屋に呼んで酒を飲ませ、目の前でカクテルに睡眠薬を入れて、飲む?と聞き、飲むと答えたあさひにそのまま飲ませて眠らせてセックスする谷川(52~55ページ)って、そんなことがあってその後はLINEを送っても一切返事がない谷川の子を身ごもって1人で中絶した挙げ句それを友人の律子に相談したときに律子は処女で自分は処女じゃないと優越感を持つあさひ(70~80ページ)って…いったいどういう感覚なんだろう。
 そういう気持ち悪さがあるので、ラストまで重苦しい違和感がつきまといました。

08.飛べないカラス 木内一裕 講談社文庫
 父親の死で受け継いだ実家の工場から1億円を持ち逃げした元経理部長を捕まえたがその経理部長が拘束中に持病の狭心症の発作で薬を飲めなかったがために死んでしまい、3年4月の刑務所暮らしの上釈放された俳優加納健太郎が、恩師の脚本家大河原俊道からかつて愛人だった女優仲宗根みどりの娘沙羅が幸せに暮らしているかを見てきて欲しいという依頼を受けて、早々に探し当てたものの、沙羅は「とんでもなく美しい女性」で加納が「いままでに出会ったどんな女優よりも美しい」のになぜか加納を知っていて話しかけてきて、その後加納が次々と事件に巻き込まれるというミステリー小説。
 「五番街のマリー」みたいな依頼を受け、周りから繰り返し沙羅とやったか(Hしたか)と聞かれ続ける「ゴールデンスランバー」の青柳くんのような境遇の中を、たぶん本人には不本意ながらも通す加納のどこか昭和っぽいノスタルジックな侠気(ダンディズムというべきか)が切ない作品です。

07.なぜあの人は40代からモテるのか 中谷彰宏 主婦の友社
 女性向けに、見た目以外の点で、どうすれば男性にモテる/誘ってもらえるかを指南する本。
 「モテない人は…モテる人は…」という対比の見出しで65項目を並べています。まぁ、このスタイルでかなり無理してひねり出し続けてるよねと感じました。
 多くの部分で、「男性は」と書き、男性脳と女性脳の違いなどと、「モテる」「モテない」を2分法で思考するのと同様に、決めつけた記述が続き、ちょっと疲れます。
 基本的に書いていることは、男が面倒くさいと思うようなことを避けて、相手が楽な気持ちで、また誘いたいと思うような、かわいい言動を心がけましょうということです。それでいて、「モテる人は、めんどうくさいを楽しむ」(160~163ページ)って、女性には面倒くさいことも我慢してって言うんです。これはいくら何でもわがまますぎるんじゃないですか?
 「この人とエッチできる」というのは、出会って10秒でわかります(133ページ)って…そういうものでしょうか…

06.約束してくれないか、父さん 希望、苦難、そして決意の日々 ジョー・バイデン 早川書房
 現在アメリカ大統領の著者が、2016年大統領選挙への不出馬を決めて副大統領任期を終えた後に、副大統領2期目の日々とデラウェア州司法長官だった長男ボー・バイデンの脳腫瘍闘病生活を綴った本。
 半分ないしそれ以上が長男の脳腫瘍を知り闘病する長男の様子とそれを周囲で見る苦悩を中心とするバイデン家の物語ですが、副大統領としての職務では、人種対立と同性愛者をめぐる公民権運動、プーチンとの確執、ISILの勢力拡大とイラク情勢などが興味深く読めました。ニューヨーク市警の警察官がアフリカ系アメリカ人エリック・ガーナーを窒息死させたことへの抗議デモの最中、パトカーに乗車中の2人の警察官が射殺され、その遺族に慰めの言葉をかけるシーン(51~54ページ、58~63ページ)で、バイデン自身が妻と幼い娘を交通事故で失った過去の経験が、それを皆が知っていることが、遺族への理解、遺族との共感を支えているというのが、せつなくもあり、それを力に変えるところが政治家のたくましさだとも感じました。
 タイトルの長男との約束は、大統領選挙に出馬する(自分の病気のためにそれを諦めない)ことで、それを政治利用していると批判されたことで出馬を断念した(254~57ページ)というバイデンが、2016年大統領選挙でのヒラリーの敗北後、出馬キャンペーンの一環として出版したのがこの本だという(解説:308ページ)のですから、やっぱり政治家の心臓には毛が生えているというべきでしょう。
 しかし、そういう本だとしてしても、現職のアメリカ大統領の(日本では)出版されたばかりの本が図書館に転がったままで、私が借りて2週間以上経っても誰も予約してないって…まぁ日本の現首相の本が目の前にあったとしても読みたいという意欲は湧かないですが。それに、今回、パソコンで向きあってビックリしたのですが、「じょー・ばいでん」を変換すると、「ジョー・売電」と変換され、「ばいでん」の第2候補は「買電」、第3候補が「ばいでん」で、ATOK(ジャストシステム=一太郎の日本語変換システム)ではカタカナの「バイデン」は変換候補に出てきませんでした(一度「F7」キーでカタカナに変換すると学習して候補に出るようになりましたが)。もう大統領に選出されて1年以上経つのに…やはり政治家として華がないということなんでしょうねぇ。日本の現首相よりはましだと思うのですが…

05.「思い」を届ける遺言書 本田桂子 技術評論社
 遺言書を作っておかないとどういうトラブルが起こりがちか、へたな遺言書を作るとどういうトラブルが起こるか、具体的に遺言書を作るときはどういうことを考えるべきか、現実的にはどういう手順で遺言書を作ればいいかなどをわかりやすく説明した本。
 いろいろなことに目が配られていて、遺言を作成しようと考える人に、何を考えるべきか、どういうことに注意すべきか、どうやって作ればいいか等をイメージさせるのにはとてもいい本だと思います。
 タイトルにある「思い」を届けるという点は、前半で多用されている「付言事項」の活用(47ページ、52ページ、53ページ、64ページ等)と、「公平感」を大切にするとか、もらう人のことも考える(100~102ページ)あたりくらいで、タイトルに惹かれて読むと、ちょっと印象が違うかもしれませんし、弁護士に相談・依頼しましょうという営業色が強い(著者は弁護士)感じはあります。
 推定相続人の廃除(虐待・非行を理由とする)については、「ただし、廃除は必ず認められるわけではありません」(87ページ)という表現は期待を持たせすぎのように感じられますし、廃除の効果で「ただし、廃除された人の相続人が代わりに相続する権利を取得します」(86ページ)というのもちょっとぎょっとします(先に死んだり相続放棄した場合と同様に、子がいれば代襲相続があるということです。配偶者がいた場合に配偶者が代わりに相続権を取得したりはしません。似たようなことに見えるかも知れませんが、法律家の立場では、こういう説明はないだろと思ってしまいます)。
 そういった点など、法的な意味での正確性には、ちょっと不安を感じるところがありますが、わかりやすさと一般の人が知りたいと思われることが痒いところに手が届く感じで書かれているところは推したい本だと思いました。

04.ある男 平野啓一郎 文春文庫
 宮崎に戻った離婚事件の元依頼者が再婚した谷口大佑と名乗る男が死んだ後、それが別人が実在する谷口大佑になりすましていて谷口大佑は行方不明とわかり、真相の調査を依頼された横浜の在日3世の弁護士城戸章良が、谷口大佑の兄、元カノらと面談し、真相を探り、戸籍を交換する者、それを仲介する者らの生き様に思いをはせる小説。
 自分の過去を捨てて他人として生きる、自分の人生を振り返ってのノスタルジーと「あり得た別の人生」への憧憬を、排外主義がはびこる現在と関東大震災時の虐殺の歴史的記憶の狭間で異邦人として生きるという側面はあるものの基本的には恵まれた境遇にある中年の弁護士を通して描くところに、「それが人生」ふうのほのかな諦念とかすかなわびしさを感じさせます。
 高校生のときに弟の彼女に欲情していた兄が既婚者の今言い寄ってくることに、「その頃から、わたしのこと、ずっと好きでいてくれたとかって、そういうきれいな話じゃないんですよ。とにかく、わたしとやりたいんですよ。もうこんなおばさんになってるから、何にもいいことなんかないのに、今のわたしがどうとかって関係なくて、一回でもやったって事実がないと、収まりがつかないって感じで。」(308ページ)という美涼に対し、「…理解を絶してる、とも言えない」と応えつつ、会話の展開によってはという夢想を烟らせながら結局は受け流す城戸の心情に、中年を過ぎての出会いの着地点を見てしまいます。

03.そして、バトンは渡された 瀬尾まいこ 文春文庫
 一流企業に勤める東大出の血の繋がらない「父親」森宮壮介と暮らす高校生森宮優子の日々の思いを、生父水戸とブラジル転勤で離れて後妻の梨花と暮らし、梨花の結婚に合わせて泉ヶ原、森宮と親が替わっていった過去を振り返りながら描いた小説。
 基本的に、一生懸命父親して料理を作り続ける「森宮さん」とその愛情をやや持て余しつつも感謝して受け止める優子ちゃんのズレながらもほのぼのとした会話で進行させ、それを読ませる作品だと思います。娘を持つ父の身には、合唱祭前夜に優子ちゃんのピアノ伴奏で歌いまくる森宮さんの場面(244~253ページ)が隠れたクライマックスのように思え、ジーンときました。
 タイトルが「そして、バトンは渡された」で、ラストが結婚式で森宮さんが早瀬くんに「自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だ」(420ページ)って…映画のラストでも強く感じたのだけれど、そして結婚式という儀式ではそのような考えがはびこりまたそういう演出がなされがちだけれど、新婦は、花嫁の父から新郎に渡される「バトン」なのか。父の庇護の下から夫の庇護の下に手渡されるものなのか。幼き日は、親が替わっていくのをなすすべもなく運命に抗えずに来たという設定でありそういう描き方がなされているけれど、それは子どもだからそのとおりだと思うし、違和感はありません。しかし、成人して自分の意思で自分の選択で結婚する女性を、一人前扱いせず、さらには物扱いで「渡す」という表現はいかがなものか。せっかく型にはまらない親子関係・人間関係を爽やかに描いた作品なのに、このラストは、そしてこういうタイトルをつけるのは、私には残念に思えてなりません。

02.「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと ウスビ・サコ 大和書房
 マリ(アフリカ)出身で1991年に来日し、空間建築学(建てる前にどういう建築にするかの建築計画を考える)を専門とし、2018年から京都精華大学学長をしている著者が、若い人に向けてこれからの世界で生きていくための考え方を論じた本。
 日本人は空気を読むことを重視していると言うが、日本の若い人はそもそも空気を読めていないのではないか、空気を読んでいるようで、実際には読んでいるフリをしているだけ、本当に空気を読むのであれば、先ずは周囲の人が考えていることを理解する必要があるのに、ただ「主張しない」ことを空気を読むことと勘違いし、主張し合う(それにより理解と協調に達する)ことを最初から諦めつつ、しかし気持ちの中では納得していない(100~103ページ)とか、「以心伝心」と言うけれども一方的に推測して分かったつもりになっていることが多く、間違って推測して行き違いになることも多い、行き違って本音でぶつかり合えば最終的に理解できるかと思えば、日本人はコミュニケーションを諦めて「キレ」、誤解されたことに気づいても解消しないままにする(104~107ページ)など、なるほどと思いました。
 メディアリテラシーとは「自分の価値観を持つこと」(130ページ)というのも、なんかストンと落ちる感じがします。
 合コンで「自分は京大の学生である」と強調したがる人に辟易させられた、彼らは聞かれてもいないのに何かにつけて京大をアピールします(68ページ)って…京大生はそういうふうに見られてるのね (-_-;)

01.バイヤード・ラスティンの生涯 ジャクリーン・ハウトマン、ウォルター・ネーグル、マイケル・G・ロング 合同出版
 1955年にアラバマ州でバスボイコット運動が始まったときにニューヨークの反戦組織「戦争抵抗者連盟(WRL)」から派遣されてモントゴメリに乗り込みキング牧師に非暴力の戦略や戦術を指導し、公民権運動のピークとなった1963年のワシントン大行進を計画し成功に導いた立役者でありながら、1953年に同性愛行為で逮捕投獄されていたがためにそれまで所属していた非暴力運動団体から追放されその後も表に立つことがはばかられ、近年までその功績が評価されてこなかった運動家バイヤード・ラスティンの伝記。
 兵役拒否(良心的兵役拒否者に対する民間公共奉仕も拒否)による投獄後刑務所内での人種分離に抵抗を続けていたが、原爆投下を受けた反戦運動のために組織から早期出所を指示されると刑務所長に「今後は刑務所での人種統合を目指す闘いはやりません」と手紙を書いておとなしくし続けて出所したり(87~96ページ)、1946年の連邦最高裁での「州間バスにおける人種分離は憲法に違反する」(注:この時点では州内のバスについては違憲と判断されていない)との判決を受けて人種混合チームで南部をめぐりバスに乗車する(白人用の席に座る)運動を企画したがこの最高裁判決をとった全米黒人地位協会(NAACP)のマーシャル弁護士からディープサウスには行くな、白人を刺激するなと忠告されると行き先をアッパーサウスだけにした(97~109ページ:そのため、ディープサウスのアラバマ州でのフリーダム・ライドは1955年のローザ・パークスらを待つことになります)など、理念的で先鋭な方針を出しながらも柔軟な姿勢というか現実的な対応をしてきたバイヤードが、組織から男性の恋人と別れるよう指示されると「頭では分かっているんだ、別の解決法を見つけなくちゃいけないって」といいつつ、「性の好みはぼくの人格の一部だ。これを捨てたら、自分が自分でなくなる」といって男性の恋人との関係を続け(94~95ページ)、気をつけてはいたが注意が足りず1953年1月に同性愛行為で逮捕された(130ページ)ということをどう評価すべきでしょうか。ガンディーについてもキング牧師についても、非暴力不服従という思想や理念の純粋さではなくそれを運動に結実させていった実務的な姿勢をこそ評価している私(そのことは、私のサイトに掲載している小説「その解雇、無効です!ラノベでわかる解雇事件」の第11章で書いています)の立場からは、バイヤードのこだわりには疑問があり自重すべきだったというべきなんでしょうけれども、そういう弱さというか、欠陥もあるのが人間なんで、愛すべきともいえ、しょうがないなぁという印象もあります。

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