庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2024年2月

13.空にピース 藤岡陽子 幻冬舎文庫
 教育実習のときにウサギ小屋の前で声をかけた児童がその日増水した川で水死したのを自分は何もできなかったと無力感に苛まれた心の傷を持ちながら、多摩地区の「都内ワースト1の学力」を争う水柄地区の水柄小学校に赴任した教師5年目の26歳澤木ひかりが、精神を病んでリタイアした前任者を引き継いでいきなり学級崩壊状態の6年2組の担任を持たされ、さまざまな事件や親との確執に振り回されながら奮闘する1年を描いた小説。
 貧困家庭で虐待を受けながらもがきつつ生きるこどもたちの姿に胸を痛め涙し胸を熱くする、そういう作品だと思います。さまざまなこどもたちの苦しみが描かれていますが、私は、問題児扱いされている今田真亜紅の姉アイリンの健気さに打たれ、優等生として前半でひかりに重用されながら家庭の事情で大学には進学せず働くと決めている(小6にして!)高柳優美のその後が気になりました。

12.君だけに紡ぐこの声を聞いて 水月つゆ 角川文庫
 元教師で今は専業主婦として我が子の教育に執念を燃やす母の下で、県内トップクラスの高校に進学して母の期待を一身に集めていた姉美晴が専門学校に行くといいだしたがために、母の拘束が自分に向けられて強くなり本当はやりたいことを言い出せず勉強ばかりを求められて、それを姉のせいだと姉を憎む木下柚葉が、同級生と馴染まず暴力男と噂されている広瀬紘が祖母の営む喫茶店でバイトをしているときの学校でとは違う様子を知り、交流を深めていく青春小説。
 前半の柚葉の頑なさというか思い込みの強さはちょっと引きますが、柚葉の問題も紘の問題も、こんなふうに解決できるといいよねと思える爽やかな読後感があります。現実はこうはいかないよね、と思ってしまうといまいちの読み物になるでしょうけれど。

11.すごい会議 短期間で会社が劇的に変わる! 大橋禅太郎 大和書房
 会社の目標、目標達成のための計画、役割分担等を決定するための会議の持ち方について解説した本。
 短時間で終わらせるのではなく長時間(著者の経験した実例では9時間!)をかけて、参加者に参加意識を持って本音で語ってもらえるように、発言は予め紙に書き(書くための時間はごく短く秒単位)複数書いたものを参加者全員に1つずつ言わせて回していく、発言は問題の指摘ではなくどのようにすれば求める結果を実現できるかの形にし、コメントではなく提案、リクエスト、明確化のための質問にするなどが示されています。
 この本自体には、この会議に至るまでの著者の経歴とビジネスの試行錯誤、著者の会社でマネジメントコーチを入れて実施した(9時間の)会議が説明され、「付録」でその会議のやり方が書かれているだけですので、他の会社で現実的にどうするのか、他の会社でも応用が利くのかはうまくイメージできないかなと思いますが、考え方として、なるほどと思えるところが割とありそうな本です。

10.カラーパープル アリス・ウォーカー 集英社文庫
 14歳の時から死にかけていた母の男から母の代わりとして性的虐待を受け、生まれた乳児2人を次々と取り上げられた黒人女性セリーが、女好きで暴力的なミスター**ことアルバートに嫁がされ、妹ネッティーとも離ればなれになり夫にネッティーからの手紙も隠されたまま長い年月を耐え、夫が慕う女シャグの導きや舞い込んだ相続話などから自立を勝ち取ってゆくという小説。
 セリーは黒人女性が白人や夫に殴られ虐げられることには、そういうものだと受け止めて自らは抵抗しないだけではなく、アルバートの息子のハーポに反抗的な妻のソフィアにいうことを聞かせるために殴ることを勧める人物として設定されています。そのためセリーの視点で描かれる虐待は過酷なものとしてよりもしかたないものとして受け流すような描写になります。その中で、暴力や差別に果敢に抵抗し反発を示すソフィアは踏みつけられ敗北し、あからさまには抵抗しないセリーが耐え(それもそれほど無理してではなく耐え)続けた結果、ささやかな勝利を得るというこの作品のコンセプトは、ある意味で現実的かも知れませんが、闘おうとする者への視線に冷ややかさ、シニカルさをも感じてしまいます。
 また白人の暴力は、市長夫妻によるものとネッティーが移り住んだアフリカのオリンカの村でのイギリスのゴム会社によるもの以外は描かれず、主として黒人社会・黒人家庭内での黒人男性による黒人女性への暴力・虐待が描かれています。読み方によっては、黒人男性こそが悪い(白人の方がましだ)というアピールに見えるおそれも感じます。ネッティーからの手紙に描かれるアフリカの場面では、アフリカの黒人が同胞を奴隷としてアメリカに売り渡したとか、アフリカの村の人々(黒人)が愚かでアメリカの方がましだというニュアンスが漂っています。
 現実世界にある差別と虐待を告発する物語には、厳しい差別とそれに対する真っ向からの抗議、闘う者の勝利を求めたくなりますが、この作品が広く支持されたことを考えると、文学の世界では少し距離を置いた抜いた描写の方が好まれるのかも知れません。
 タイトルは、セリーとの対話の中でのシャグの言葉「あんたが野原を歩いていて、むらさきいろのそばを通りすぎて、それに気づきさえしなかったら、神は本気で腹を立てると思うよ」(234ページ)から。セリーが暴力夫ではなく周りを見る余裕ができるという意味では象徴的なところではありますが、ここでも正面から闘おうというよりは主観面での見方の変化が語られているもので、作者の指向を示しています。
 (映画の感想記事は→映画「カラーパープル」

09.ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く 室橋裕和 角川文庫
 著者が大久保2丁目、百人町に居住して生活しながら見聞きした外国人、日本人住人や商店主、従業員らの話や生活状況などを綴ったノンフィクション。
 著者自身は長らくタイに居住してきて東南アジアや南アジアの下町が住みやすいと感じているもので、基本、アジアからの移民に親和的ですが、元週刊誌記者・ジャーナリストのためか、外国人を嫌い交わらない日本人の実情にも度々触れる配慮をして、よくいえばさまざまなことがらや人々に目を配り、悪くいえば八方美人的な書きぶりです。
 大久保、新大久保は、韓流ブームの聖地、コリアンタウンという印象が強いですが、そうなったのは2000年頃からと古い話ではなく、しかも2011年の福島原発事故でそれまで外国人の中で多数派だった中国人・韓国人が避難して、入れ替わりにベトナムやミャンマー、インド、ネパールなどからの移民が増え、国際色豊かになっているとのことです。
 外国人に対して不安や不気味さを感じる日本人が多いと思いますが、外国人から見ると「日本は、実はこわい国だ。ヤクザでもない一般人が、いきなりブチ切れて怒鳴ってきたりする。ささいなミスで激怒し、肩がぶつかっただけで睨まれる。僕も10年のタイ暮らしから帰ってきたばかりの頃は、本当にこわかった。日本人とは、なんと好戦的な人々かと思った。立場の弱い外国人はとくに、日本人のパワハラの餌食になりやすい」(260ページ)というのは目からウロコです。

08.情報公開が社会を変える 調査報道記者の公文書道 日野行介 ちくま新書
 23年間毎日新聞社に勤め調査報道に携わり現在はフリーのジャーナリストとして原発事故関係を追い続けている著者が、自分の経験に基づいて情報公開請求の方法論等を解説した本。
 役所がどんなことをどのように隠し、情報公開請求に対してもどのような手口で公開を免れようとするか、どういうところに役所の嘘の綻びがありどんなきっかけでそれを見つけ見抜けたかなどの経験談が興味深く読めます。
 他方で、著者がテレビ・ラジオ局の記者の研修会で講演した際、「若い記者たちの反応は芳しいものではなかった。彼らが欲していたのは『簡単に特ダネになる情報公開請求のやり方』であって、『どのような公文書を情報公開請求すべき』あるいは『情報公開請求によってどのような公文書が手に入る』といった、調査報道の基礎となるメソッドではなかったのだ」(26~27ページ)と嘆いているように、この本を片手に楽々情報公開請求ができるという本ではありません。役所と対峙するときに役所に騙されずに頑張るにはこういう心構えでこういうことを疑っていく姿勢が必要だなとか、そういう志向の本だろうと思いました。

07.キリストと性 西洋美術の想像力と多様性 岡田温司 岩波新書
 キリスト教における「性」の扱い、イエスとヨハネ、イエスとユダ、さらにはマリアとイエスの性関係の示唆、異性装、聖痕と女性器のアナロジー等について論じた本。
 「キリスト教は性をめぐって、わたしたちが思っているよりもはるかに多様で豊かな想像力を育んできたのではないか」という問題意識ですが、「それが顕著にみられるのは、正当とされた教義や神学のなかというよりも、異端として排除され、民衆のなかで生きつづけてきた信仰とそれに関する美術においてである」(はじめに)とされてしまうと、そりゃあ異端とか「キリスト教系」新興宗教なら性的にオープンというかフリーセックス系のものもあって当然じゃないかと思ってしまいます。本文でも、福音書の中にイエスとヨハネのBL関係を示唆する記述を探すような場面や絵画でもダ・ヴィンチやジョットー、デューラー、カラヴァッジョあたりの絵にそのような痕跡を探すところは興味深く読みましたが、文学作品や「作者不詳」の絵、さらには近年の映画(ジーザス・クライスト・スーパースターとか)に性的な傾向や逸脱を見ても「だから何?」と思えてしまいます。

06.古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像 青山和夫編 講談社現代新書
 中央アメリカのマヤ文明(紀元前1100年頃から16世紀)、アステカ王国(15~16世紀)、南アメリカのナスカ(地上絵は紀元前400年頃から)、インカ(14~16世紀)の諸文明について、それぞれを専門とする学者が近年の研究成果に基づいて紹介し意見を述べた本。
 あとがきで「本書は、メソアメリカのマヤとアステカ、アンデスのナスカとインカを一緒に解説して、実像に迫る日本初の新書である」と書かれています(312ページ)。学者さんの分担執筆ということもあり、それぞれの研究と関心に応じて書かれていて、入門的な通史の記述がされているわけでもなく、新発見に満ちてはいますが、この1冊で全体像をという本ではありません。
 これらの文明は、いわゆる四大河文明(エジプト=ナイル、メソポタミア=チグリス・ユーフラテス、インダス、黄河)とは異なり、乾燥した大河流域ではなく、大型家畜なく基本人力の、鉄器の利用もなく、アンデスでは文字もなく、高度な文明が誕生し、世界にトウモロコシ、ジャガイモなどをもたらしてその後の世界に食文化革命を起こしたもので、著者らはこれらの文明の人類史上の重要性を強調し、偏った世界史観の是正を求めています(あと、もっぱら征服者の文献に基づいた偏見やマスメディアのオカルト的な扱いへの苦言も)。
 四大河文明との違いを論じている場面で、例えばマヤ文明で「巨大な公共祭祀建築の建設・維持は、支配層の強制力によってのみなされたのではない」「王や貴族の指揮下、農民たちが農閑期に『お祭り』のような行事として、楽しみながら建設に携わったのだろう」(81ページ)と書かれていて、本当であれば興味深いところですが、そう判断する根拠の記載がないのが残念です。またアステカについて、征服者の資料に記載された生け贄の人数には誇張が含まれていたことが現在ではわかっているとして生け贄を過度に強調し続けることを戒めています(104~105ページなど)が、では最新の研究ではどうかということが書かれていないというのも残念です。
 マヤ文明のところで、遺跡が密林に分布している上あまりにも巨大すぎて地上を歩いても遺跡と判断できずライダー(航空レーザー測量)を導入して初めて遺跡が発見できた(67~72ページ)とか、ナスカの地上絵も近年新しいものが多数発見されている上ナスカ台地(約400平方キロメートル:東京23区の約3分の2って)全域を高解像度の航空写真を撮影したらあまりにも膨大で人間が見て判定作業ができないのでAIに地上絵を学習させて候補探しをして新たな地上絵を発見した(182~187ページ)など、遺跡・考古資料が新しく発見されている途上で、新たな知見、新たな評価がこれからまだまだありそうというところが、私には一番勉強になりました。

05.猿の戴冠式 小砂川チト 講談社
 幼い頃に実験として人間からキーボードとご褒美のヨーグルトレーズンを用いて言語を教育された雌のボノボのシネノが、育児放棄した息子のユウエツの面倒を見てくれる年長者のシヅヱとともに、スマトラトラやホッキョクグマの檻のある動物園で飼育されているところに、シネノに想い出があるらしいひきこもり中の女しふみが度々訪れ交歓していくという設定の小説。
 冒頭のエピソード中の老チンパンジー、しふみの母と姉の位置づけが読んでいてわからないままで、シネノ視点の叙述中のわたしとわたしたち、しふみ視点の叙述のわたしとわたしたちが、誰を意味するのかその異同もあいまいにあるいはそもそもわからない様相を呈し、なかなか読み進めませんでした。時間も空間も、伸び縮みしているのか、跳び越えているのか、わからなくなりました。
 自分がジュンブンガクからあまりにも遠ざかっていたということなのか、それならもう戻れないかもと思う読後感です。

04.九十歳のラブレター 加藤秀俊 新潮文庫
 90歳を前に同い年の妻が就寝中に死亡したのを受けて、失意の著者が人生の節々での妻との思い出を綴ったエッセイ。
 1930年生まれの著者(私とはちょうど30歳違い)の世代を反映して、転職・転勤を繰り返す著者に、教師を辞めて夫唱婦随でついて行く専業主婦となる妻の選択を、ひいてはそれをさせた自分の人生を正当化しているくだりと価値観には、世代の違いを感じますが、妻に感謝し讃える言葉を若い頃から衒いなく伝えていた様子、仲睦まじい様子は、微笑ましく羨ましくも感じます。
 妻を終始「あなた」と呼びながら、しかし妻に話しかけるのではなくやはり第三者に説明する文体は、妻のことを中心に語るのならば弔辞のように思えますが、内容は2人の想い出なので妻に語っているようでもあり、少し不思議なニュアンスのある読み物でした。

03.総務担当者のための介護休業の実務がわかる本 宮武貴美 日本実業出版社
 会社、特に会社総務部の立場から、介護休業等の介護を要する家族を抱えた従業員が利用するために法律上整備することを求められている各種の制度(介護休業、介護休暇、所定外労働の制限、(法定)時間外労働の制限、深夜労働の制限、所定労働時間の短縮措置等)に関する規定のつくりかた、従業員と管理職への説明のしかたについて解説した本。
 もっぱら179ページ以下に「付録」として付けられている著者が作成した「育児・介護休業規程」と従業員向け・管理職向けの「手引」を採用することを前提に、特に規程については逐条(規程の条文ごとに)解説をしています。著者が用意したオプションの範囲での修正でそのまま採用するつもりの会社・担当者には、らくちんで実用的でしょうけれども、法制度自体や厚労省の指針等をキチンとまず理解してそこから応用を考えようという人には向きません。著者の用意した規程が育児休業とワンセットだからといって、育児休業関係の条文を示してこの本では関係ないから説明省略といちいち書かれているのも、何を読まされてるのかという気持ちになります。

02.違反・トラブルを未然に防ぐ インターネット広告法務ハンドブック 若松牧 中央経済社
 広告について留意する必要がある法規制について概説し、医薬品・医薬部外品・医療機器、化粧品、医療機関、エステティックサロン等、食品業界、金融業界、通信業界、ゲーム業界、教育業界、旅行業界、求人・人材紹介の11の業界別に関連する法規制や業界団体の自主規制の内容と違反広告として摘発されたり行政指導等を受けた事例を紹介する本。
 後半の業界別のガイドラインや違反事例の解説が勉強になりました。医薬品などはやはりかなり厳しい制約があることを実感し、貸金業者が「借りすぎに注意しましょう」などの文言を書いているのは親切心ではなく貸金業協会の広告審査基準で書くことが要求されているからということなどがわかります。
 書かれている内容のほとんどは、インターネット広告特有のものではなく広告一般に当てはまるものです。インターネット広告にも当てはまるからいいということかも知れませんが、このタイトルにつられて読むと、何だということになります。不当表示か否かは一般消費者が受ける印象で決まるとこの本で繰り返されている基準からは果たして…
 不正競争防止法第2条第1項第1号で規制されている「混同を生じさせる行為」を、116ページから117ページにかけて、「7 不正競争防止法」第1パラグラフの本文、図表、「7-1(1)」の項目見出し、この項目の本文冒頭の4回にわたり「混合惹起行為」と表記しています。本文でもそのあとはずっと通常の用語法どおり「混同惹起行為」と記載しているのですし、これ気づかないものでしょうか。

01.君に光射す 小野寺史宜 双葉社
 警備員として商業施設の警備を担当している石村圭斗が、現在の32歳から33歳の1年を過ごす過程で、小学校の教師として1年生クラスの担任を務めていた28歳から29歳の1年を回顧するスタイルで、自分と他人との関わり方、仕事と個人の境界などを考え、自分の行動・思考パターンの変わらなさと変化・成長を意識する人生・お仕事小説。
 ネグレクトされている子どもを見て、自分の小学生時を思い起こし、捨て置けずに仕事の領域を超えて関わってしまう不器用でお人好しである意味で破滅的な主人公の生き様に考えさせられ、それを味わう作品です。
 自分が困っていることでそれしか考えられなくなり度を超えてすがりついてくる人、些細なことに気分を害して激しいクレームをつけて来る人への対応の仕方・距離の取り方は、悩ましいところです。教師でも警備員でも、さらには、たぶん今どきは多くの仕事で、そういう思いをしている人がいるのだろうと感じました。

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