◆私のお薦め本◆
エアボーン (原題 : AIRBORN)
ケネス・オッペル著 2004年 (日本語版は 原田勝訳 2006年 小学館)
豪華飛行船「オーロラ号」のキャビンボーイのマットと客の少女ケイトが繰り広げるアドベンチャー+ちょっぴりラブロマンスです。
気球乗りだった祖父が発見した未知の珍獣「雲猫(クラウドキャット)」の存在を立証しようと執念を燃やすケイトとケイトに振り回されるうちにほのかな恋心を抱くマット、オーロラ号を襲う「空賊」との攻防、うまく空を飛べず仲間とはぐれ島で暮らす雲猫の仲間たちとの再会。この3つのストーリーがもつれあいながら、爽快なアドベンチャーに仕立てられていきます。
腹を抱えて笑ったり、ものすごい感動が、って作品ではありませんが、単純にエンターテインメントとして気持ちよく読めました。肌合いもあるんでしょうけど、最初の方で、これよさそうという予感があり、500頁近い厚さも気にならず最後まで気持ちよく一気読みしてしまいました。振り返ってみると、冒険の間にけっこう人が死んでいるんですが、深刻にならずに気持ちよく読めるのは文体の軽さとスムーズなストーリー展開のせいでしょうか。
登場人物では、やはりケイトの設定がいいです。最初のうちは、金持ちのわがままなお嬢さんと感じます。それに貧乏乗組員のマットがあこがれてというのは、男性観客のやや屈折した夢を反映したありがちなパターン(「タイタニック」みたいな・・・。あれは女性観客狙いか)かと見えます。しかし、このケイトが行動力もあり、方向感覚もバッチリ(「地図の読めない女」って先入観は根強いですし)の上にしたたか。15歳くらいの少女が、生きている雲猫の写真を撮るまで動かないと言い張るときに「生きている雲猫の写真が撮れたら、わたしはどこの大学にでも入れるわ。調査隊の隊長にだってなれる。」「わたしは女よ。女は好きなことをやらせてもらえないわ。無理を言わないと、だれもわたしにチャンスなんかくれない。頭がよくて、好奇心があるだけじゃだめなのよ。」(333頁〜334頁)なんて妙に現実的なことを言ったりします。
基本的には、冒険はマット主導で進み、マットの視点で読む主として男性読者向けのお話なんですが、ケイトがしっかりしているのと、ラブロマンスとしてはケイト主導の将来が予想される(最終章)こともあり、女性読者にもそれほど不快感なく読めそうです。
ストーリーだけ見ても、後半の冒険まで3本の糸がうまくよりあわされ、うまいと思いますし、冒険のところは、まあ結果は予想はつきますけど、けっこうハラハラドキドキします。
夏休みの1冊に、きっといいですよ。
続編の「スカイブレイカー」が2006年(日本語版は2007年)に発売され、マットとケイトの新たな冒険が楽しめます。こちらも純然たるエンターテインメントとして夏休みの1冊にいいと思いますよ。私の読書日記2007年8月分09で紹介しています。
**_****_**