◆私のお薦め本◆
沈黙のはてに (原題 : Chanda’s Secrets)
アラン・ストラットン作 2004年 (日本語版は さくまゆみこ訳 2006年 あすなろ書房)
読み終えて振り返ると、エイズ啓蒙小説で、最後に母親と親友がエイズ感染したことを周囲に告白した後、途端にストーリーが明るくなるあたりがちょっと単純な感じがします。そのあたりで小説としての評価がちょっと落ちるかも知れません。
でも、次々と降りかかる苦難に耐え、知恵と勇気で切り抜けていく主人公チャンダ(Chanda)の姿には打たれます。圧倒的な不幸にもひねくれずにけなげに生きぬく少女という昔はやったコンセプトではありますが、それでも涙ぐんでしまいました。
主人公のチャンダは、アフリカ南部の都市の貧民街に住む16歳の少女。母が親の決めた結婚相手との結婚を拒んでチャンダの父と結婚したことから親族との関係が悪化して、チャンダの父は都市に出て鉱山で働きますが事故死してしまいます。母はその後別の鉱夫と一緒になりチャンダの異父妹も生まれますが、チャンダはその義父から性的虐待(後半ではレイプと書いてあります)を受けます。それを知った母が抗議すると一家はその男のうちを追い出されてしまいます。母は、町の有力者の夫人のところで働き、その隣の床屋の老人と一緒になります。その床屋の老人が死んで母が家を受け継ぎ、ようやくチャンダ一家は落ち着きますが、今度は建築作業員だったジョナが母に近づいてきます。ジョナは仕事もしなくなり酒浸りでうちからお金を持ち出し娼婦のところに入り浸ります。
母とジョナとの間に生まれた異父妹の赤ん坊が死ぬところから物語が始まり、チャンダはお金がないのにその葬式の準備をしなければなりません。その間も居酒屋で酒浸りになって娼婦といちゃついているジョナ、生意気な異父妹アイリスと妹の死に傷つく異父弟ソリー、両親がエイズ(と思われる)で死に一家離散状態になって兄弟と一緒に住むためにお金を貯めたくて売春を繰り返す親友のエスター、ことあるごとに嫌みを言う有力者夫人マ・タファらに囲まれてチャンダの苦悩が続きます。ジョナはエイズと思われる症状で倒れ行方不明になり、母も次第に体調が悪くなっていきます。
そんな中でも、チャンダは学校で勉強に励み、葬儀社との交渉や偽医者(偽医者だとチャンダが見抜きます)との交渉を知恵で乗り切ります。町では次々と人がエイズと思われる症状で死んでいくのに誰もエイズとは認めない中、チャンダは町を離れて隠れて死にかけている母をうちに連れ帰り、エイズだと認めた上でうちで看取ります。エイズ感染した親友のエスターもうちに入れて一緒に暮らします。その姿を見て、親戚のエイズ死を隠してきたマ・タファがチャンダの姿勢を支持し、周りの人々も共感していきます。
最初は「女の子が楽しく読める読書ガイド」の方で取りあげようと思ったのですが、お話しが悲しいのでちょっと「楽しく読める」はつらいかなと思いました(じゃあ、シャバヌはどうだとか詰めないでくださいね)。
ちょっと構造がシンプルではありますが、その分訴える力の強い作品だと、私は思います。
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