庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ANORA アノーラ」
ここがポイント
 底辺労働者が自力で勝利する姿も描けず、悪者は外国人って、ハリウッド衰えたなと思った
 ただわがままな依頼者に翻弄される顧問弁護士が哀れ
  
 2024年のカンヌ国際映画祭パルムドールにして、アカデミー賞受賞も噂される映画「アノーラ」を見てきました。
 公開3日目アカデミー賞発表前日日曜日、新宿ピカデリーシアター2(301席)午前11時40分の上映は9割くらいの入り。

 ニューヨークの風俗店で働くセックスワーカーのアニーことアノーラ(マイキー・マディソン)は、ロシアの富豪の息子でドラッグとゲーム浸りの若者イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)に気に入られ、豪邸に招かれて出張サービス、次いで1週間の専属契約をし、ラスベガスで結婚するに至ったが、週刊誌に写真が掲載されたことからイヴァンの監視役トロス(カレン・カラグリアン)が異変を知って乗り込み、イヴァンは逃走し、アノーラは用心棒のイゴール(ユーリー・ボリソフ)に拘束される。イヴァンの父の命を受けたトロスらは、婚姻無効の手続きを取るため、アノーラを連れてイヴァンの行方を追うが・・・というお話。

 アメリカ映画であり、セックスワーカーと富豪の(バカ)息子の結婚という設定から始めるので、私は、富豪の両親を踏み潰すなり蹴散らすなりかわすなりして、アノーラが何か成果をもぎ取るという力強さを見せる作品と予想したのですが、期待外れでした。
 ハリウッド作品にしては、そういったアメリカンテイストではなく、エンディングもアメリカ映画っぽくないヨーロッパ映画かと思うものでした。それがカンヌでは評価されたのかも知れませんが、私には、これがパルムドールといわれてもねぇとどうも腑に落ちません。
 ロシア人の富豪の傲慢さと富豪なのにケチな様が目に付き、私には、富豪なんてそんなものと思えますが、悪役を外国人(ロシア人、アルメニア人)に担わせているのも、今どき珍しい白人ばかりのキャスティングと併せ、不快感を持ちました。
 底辺労働者(アノーラの主観はそうではないようですが)の成功や勝利を描くこと(夢を見させること)もできず、ポリコレにも目配りできず、敵は外(外国人)に押しつけるという様子を見ると、私には、ハリウッド、衰えてるんじゃない?と思えます。

 富豪の執事から明日の朝一番で出て来いと顎で使われ、ラスベガスで結婚したことも伝えられないままにニューヨークの裁判所に申立をして法廷でアノーラからラスベガスで結婚したといわれてニューヨークの裁判所には管轄がないと追い出されて恥をかいた顧問弁護士の姿が哀れです。金を出しさえすれば何でも言うがままにできると思っている傲慢な依頼者(それもけちくさくて実際には大した金は出さない)って、いるんですよね。嘆かわしいことですが。

 近年見た映画でダントツにセックスシーンが多い。「哀れなるものたち」は、自分の体は自分のものだ、セックスするかは自分で決めるという強力なメッセージがあってやっていたと思うので理解できましたが、この作品でこれだけセックスシーンを多用した意図はわかりません。アノーラが娼婦だから?イヴァンがただの性欲の塊男だから?いや、単なる客寄せでしょうね。
(2025.3.2記)

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