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たぶん週1エッセイ◆
映画「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」
ここがポイント
 ドイツにおいても、ナチスの過去の克服の過程は簡単ではなく、様々な抵抗勢力の妨害があったことがわかる
 バウアーへの圧力に使われたように微罪処罰規定が都合の悪い者を排除するための権力者の武器となることを痛感する
 1960年のイスラエルの情報機関モサドによるナチ戦犯アイヒマン逮捕の裏側を描いた映画「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」を見てきました。
 封切2日目日曜日、全国10館東京で2館の上映館の1つヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(161席)午前10時の上映は満席(12時5分も満席と言ってました)。

 1950年代のフランクフルト、ヘッセン州検事長のフリッツ・バウアー(ブルクハルト・クラウスナー)は、逃亡・潜伏しているナチ戦犯の捜査を進めていたが、部下の検察幹部のほとんどは面従腹背で捜査は進展せず、バウアーが執務室を空けるといつの間にか捜査ファイルが消えているというありさまだった。バウアーの行動を快く思わない連邦刑事局長はユダヤ人のバウアーが戦時中デンマークに亡命した際に男娼といるところを逮捕されたことを材料にバウアーの失脚を画策し、バウアーの元には反ユダヤ主義者からの脅迫や嫌がらせの手紙が次々と送られ、バウアーは心理的に追い詰められていた。そんなある日、最重要戦犯とされていたアドルフ・アイヒマンが偽名でブエノスアイレスに潜伏しているという手紙が届いた。バウアーは、インターポール(国際刑事警察機構)に海外潜伏中のナチ戦犯の逮捕の可否を照会したが、インターポールからは政治犯は管轄外というつれない回答が来た。バウアーは、協力する姿勢を見せていた部下の検事カール・アンガーマン(ロナルト・ツェアフェルト)にイスラエルの情報機関モサドへの情報提供を相談したが、国家反逆罪に当たると反対され…というお話。

 アウシュビッツ裁判(「顔のないヒトラーたち」2014年、ドイツ:日本では2015年10月3日公開で描かれています)で有名なフリッツ・バウアーについて、バウアーをめぐる環境、バウアーへの圧力と、これまでドイツとは関係なくイスラエルのモサドが逮捕したと考えられてきたアイヒマン逮捕の陰にバウアーがいたということを中心に据えて描いた作品です。
 アイヒマン逮捕のためにフリッツ・バウアーが行った検察官としての捜査自体は、通報の手紙の処理と情報屋への依頼くらいしか描かれておらず、作品の中心は、バウアーの孤立、敵対勢力の陰謀・画策、バウアーが受け続けた圧力・恫喝です。
 日本とは対照的に、第二次世界大戦前・戦時中の暗い過去と正面から向き合い克服してきたと世界から評価されているドイツにおいても、その克服の過程は簡単ではなく、様々な抵抗勢力の妨害があったことがわかります。
 当時同性愛を処罰する刑法の規定があったことが、バウアーに協力する検事を陥れバウアーを国家反逆罪で告発するように脅しつける材料とされ、またバウアー自身の失脚を図る材料とされたことを見るにつけ、現実の被害者がいないような犯罪や微罪の類を幅広く処罰できる刑罰法規の存在が、国家・政権に都合の悪い者を排除する権力者の武器となることを痛感します。なんでも処罰処罰と言いたがる人とマスコミが、権力者の専横を助けていることを、「共謀罪」の亡霊がまた姿を現したこの国でももっときちんと認識してほしいと思います。

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(2017.1.8記)

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