庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「市子」
ここがポイント
 過酷な境遇に抗い図太く生きる市子の姿で無戸籍児やヤングケアラーの実情を問題提起した作品
 献身的に尽くしても報われない北秀和の存在に悲哀を感じる
    
 劇団チーズtheaterの演劇「川辺市子のために」を映画化した「市子」を見てきました。
 公開5週目日曜日、シネマカリテ2(78席)正午の上映は6割くらいの入り。

 2016年8月、長谷川義則(若葉達也)は3年間ともに暮らしてきた川辺市子(杉咲花)に婚姻届けの用紙を出し、プロポーズした。市子はうれしいと言って涙ぐむが、翌日、荷物をまとめ、長谷川が帰宅するのに気づき慌てて荷物を置いたまま窓から飛び出し行方をくらませた。生駒山中から8年前頃に死亡したと見られる白骨死体が発見された件を捜査する刑事後藤(宇野翔平)の訪問を受けて質問されて自分が市子のことをほとんど知らないことを思い知った長谷川は、後藤から川辺市子という女性は存在しないと伝えられて衝撃を受け、市子の関係者を当たろうとするが…というお話。

 幼少期から過酷な境遇に置かれてきた市子が生きて行くために行い犯してきたこと、その過程で身につけてきた開き直り・図太さ等を描くことで、DV、無戸籍児、ヤングケアラー等の実情と政策の不備について問題提起している作品です。杉咲花は、近作の「法廷遊戯」の織本美鈴と被る不幸な中で開き直り図太く生きる女性役を快演しています。
 同時に、この作品ではむしろ自分が北秀和(森永悠希)の立場だったらどうするかの方に考えさせられます。そして、好きな人のために罪を犯してまでも献身的に尽くしながら、しかし報われないという「愛と誠」の岩清水弘みたいな、いやそれよりも報われないキャラに悲哀を感じます。

 それぞれのシーンの時期は右下に表示されるのですが、私は近視のためにそれが読みにくかったのと、起点となる「今」が実際の今ではなく2016年8月(7年あまり前)の設定であること、示されている年月と市子の年頃にギャップが感じられ(とりわけ最初の頃の子ども時代:時代を遡った最初に市子がまだ幼児のはずの時期表示で小学生としか見えない市子が登場)混乱させられることもあって、時系列の把握に苦しまされました。

 幼少期の最初の場面で、小学校低学年と見える市子役の子役がやはり同じくらいの男子にキスをするシーンがあります。成人の俳優が演技と割り切ってするのは自由ですが、大人の都合で子どもにこういうことをやらせていいのでしょうか。「僕の初恋をキミに捧ぐ」のときにも言いましたが、子役にこんなことをやらせる大人たちの良識を疑ってしまいます。
(2024.1.7記)

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