たぶん週1エッセイ◆
貸金業規制法改正の行方
 2006年10月31日、与党合意を受けて貸金業規制法等の改正案が閣議決定され、国会に提出されました。貸金業者の圧力と貸金業者の利益を代表する一部政治家・役人による利息制限法改悪の画策は封じられましたが、法改正の中身はかなりわかりにくいものになっています。提出された法案は218頁、新旧対照表は271頁にも及ぶもので、素人が読んでもたぶんわからず、プロが読んでもすぐには理解できない代物になっています。
 とりあえず私の理解できた範囲で、過払い金返還請求・グレーゾーン金利問題に関係する部分を中心に、簡単に解説します。
 今回の法改正は、4段階に分かれます。
 第1段階は無登録営業と年109.5%を超える高金利の罰則の強化で、これだけは法律の公布後1ヵ月で施行されます。この部分はヤミ金融以外は不利益を受けず消費者金融等の圧力がないのですぐ施行というわけです。
 第2段階で、貸金業規制法が「貸金業法」に名前が変わり、貸金業者の禁止行為の規定が若干詳しくなり貸金業協会の設立が法律上強制されることになります。これもほとんど現在やっていることを義務づけたり、現在の規定からも常識的には禁止されていると考えられて大手の消費者金融はやっていないことの禁止をはっきりさせたという程度ですが、法律の公布後1年以内の施行となります。借り主に影響しそうな部分としては、商工ローンがよくやる公正証書の作成委任状(これがあると貸金業者が自分で公正証書=裁判なしで強制執行ができるという書類を作成できます)の禁止、借り主の自殺で貸金業者に保険金が下りる保険の禁止、借り主が返済時期を連絡した場合(それが非常識なものでない限り)それ以前には日中も電話・ファクシミリ・訪問による取立禁止、親族等が借り主の連絡先等の知らせることを拒否した場合のそれ以上の親族等への「協力要請」の禁止、借り主の取引履歴の閲覧謄写権くらいでしょうか。過払い金返還請求との関係では、最後の取引履歴の閲覧・請求が法律上の権利と明記されることが目を引きます。
 第3段階で、貸金業者が置かなければならない「貸金業取扱主任者」について国家試験を行うことにして、信用情報機関(ブラックリスト)についても国が指定することにします。これが法律公布から2年半以内に施行。
 第4段階でようやく本格改正となり、これが法律公布から実に3年半以内に施行です。ここでようやく利息制限法違反のグレーゾーン金利を正当化する「みなし任意弁済」の規定が廃止され、利息制限法違反の契約が禁止されます(違反に対しては行政指導・行政処分)。他に貸金業者が置かなければならない「貸金業取扱主任者」が国家試験合格者に限定されたり、過剰融資規制で50万円以上の貸付に際しては借り主から源泉徴収票の提示を受けることや他の貸金業者の貸付もあわせた総額で年収の3分の1を超える貸付の禁止などが実施されます。利息制限法の方では、制限金利の元本区分(10万円未満は年20%、10万円以上100万円未満は年18%、100万円以上は年15%の区切り)について同じ貸金業者が複数口貸し付けているときは合算することが明確にされます。出資法の方では刑事罰を科する高金利を年20%を超える高金利とし、日掛け金融・電話担保金融の例外措置を撤廃します。出資法改正にあわせて、遅延損害金の上限金利も年20%に制限されます。
 過払い金返還請求・グレーゾーン金利廃止問題に関係するところについていえば、法律公布から1年以内時点で借り主の帳簿閲覧・謄写請求が法律上の権利と明記されること、法律公布後3年半以内の時点でみなし任意弁済の規定がようやく撤廃されること、複数口貸付の合算が法律上明確にされること、利息制限法の制限金利を超える金利の契約が貸金業者に禁止され、年20%を超える高金利の契約には刑事罰が科せられることになることになります。
 年20%を超える金利の契約に刑事罰が科され、利息制限法違反の契約が禁止されて行政指導・行政処分の対象となることは、現状より進歩です。しかし、借り主の帳簿閲覧・謄写権は、取引履歴開示拒否が不法行為だとする最高裁判決(2005年7月19日)によって実質的には既に法律上の権利と言えるものです。みなし任意弁済の規定も、期限の利益喪失約款のある場合の利息制限法の上限金利を超える金利の支払いは特段の事由がない限り任意のものとはいえないという2006年1月の一連の最高裁判決によって、実質的には既に法律上撤廃されたも同然のはずでした。それらを、法改正から長期間放置して実施時期をズルズル先延ばしにしようという金融庁の姿勢には強い疑問を感じます。みなし任意弁済の規定の放置によって、今後も厚顔無恥の貸金業者から、くだらない事情をあげて、最高裁判決の「特段の事由」に当たるなどという愚にも付かない主張で裁判の引き延ばしや、弁護士に依頼していない借り主が騙される状況が続くのかと思うと溜息が出ます。どうして最高裁判決が出てまともな神経の貸金業者なら既に従っている取引履歴の閲覧・謄写権の明記とみなし任意弁済規定の撤廃の2点だけでも即時実施しないのでしょうか。
 同じ貸金業者による複数口貸付でも利息制限法の元本区切り上は合算するという規定については、若干微妙な問題です。現在、1つの契約でも1回ごとの貸付額で利息制限法の元本区切りを考えるべきという非常識な主張を裁判上しているのは、アコムとアプラスくらいだと思います。この主張が論外なのは、現在でも当然だと思います。しかし、それに加えて、CFJ(ディック、ユニマット等)やGE(レイク)、UFJニコス(日本信販)等が複数のカード契約で貸し付けているもの(会員番号等も別になっているもの)について合算できるかは、現在、先進的な弁護士が主張していますが、まだ一般的にはなっていません(私も今のところそこまでは裁判で主張していません)。もちろん、この法律公布後3年半以内に実施される規定でこれらが合算されることは当然です。問題は、それが現行法上読み取れることを念のために明らかにしたと解されるか現行法では規定していないことを新たに決めたと解されるのかです。それによって現在頑張っている弁護士たちの後押しになるのか障害になるのか・・・
 まあ、法改正そのものは、これから国会で審議されるわけで、まだ予断を許しませんし、附則には交付の日から3年半以内の見直し規定もあります(つまりみなし任意弁済規定の廃止・グレーゾーン金利撤廃という主要部分が施行されるまでに見直すことになっているわけです)。今回提案された法律案の内容自体は、本来すぐに施行すべき部分まで先延ばしにされていること以外は、悪くなってはいませんが、なお、貸金業者・一部政治家と役人の横槍でまた歪まないか、監視を続けることが大切ですね。
追伸:貸金業規制法等の改正案は、2006年12月13日、国会で全会一致で可決され、法律となりました。

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