庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「清須会議」
ここがポイント
 会議そのものよりその前に根回し・裏工作で多数派を形成していくビジネス戦術がテーマ
 愚直で義理人情に厚いだけの人物は天下を治める器でないと切り捨てる勝者を賞賛する姿勢が浅ましい

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 本能寺の変後の織田家の跡目を巡る駆け引きを描いた映画「清須会議」を見てきました。
 封切り8週目土曜日、ヒューマントラストシネマ渋谷シアター2(173席)午後1時40分の上映は9割くらいの入り。

 本能寺の変で信長(篠井英介)が討たれ、毛利攻めからとって返した秀吉(大泉洋)が光秀(浅野和之)を破った後、秀吉の台頭を抑えたい宿老筆頭の柴田勝家(役所広司)と勝家の参謀役の宿老丹羽長秀(小日向文世)は、家臣を織田家縁の清洲城に集め織田家の跡継ぎと領地配分のため評定(会議)を行うこととした。勝家は長秀と相談して人望のある三男信孝(板東巳之助)を推し、勝家と秀吉がともに思いを寄せるお市の方(鈴木京香)は(姉川の戦いで夫と子を滅ぼした)秀吉憎さから勝家方に付く。勝家に信孝を取られた秀吉は、うつけ者と評判の次男信雄(妻夫木聡)を推し、軍師黒田官兵衛(寺島進)の勧めで信長の弟三十郎(伊勢谷友介)を抱き込む。長秀の発案で評定の出席者を少数にし宿老のみとすることになり、勝家、長秀、秀吉と残り1名の宿老滝川一益(阿南健治)で行うこととしたが、滝川は北条方から駆けつける途上でまだ姿を現さない。翌日までに滝川が登城しない場合は池田恒興(佐藤浩市)が代わりにメンバーとなることになり、勝家と秀吉は常興を抱き込もうと画策する。昼間に家臣が見守る中行われた余興の旗取り合戦でも信雄がうつけ者ぶりをさらしたのを見て勝利の目がないと悟った秀吉は…というお話。

 会議を通じた心理戦というか、会議の場よりも根回し、裏工作で多数派を形成していく、組織の中で生きる者たちのビジネス戦術がテーマの作品です。財界の人々がビジネスを戦国武将になぞらえるのが好きな傾向がありますが、戦国武将に会議をさせるとなると、ビジネスそのもの。ますますそういう人たちには受けるというところでしょうか。
 歴史的事実が前提となっていますので、先行きは誰でも知っていることで、会議全体の流れを、戦はできても愚直で義理人情に厚い人がよい勝家と、人心掌握術も含め先が読め術策に長け政治力のある秀吉という人物像を描き分けて強調し、戦ができるだけの人材から統率できる人材へと時代が流れているというアナウンスをしながら進め、秀吉の勝利をその場の作戦の勝利というよりは当然の流れ、人物の器の勝利と描いています。人がよくて天下を治める器でない過去の人の勝家に、先を見る目がある天下を治めるに足りる器の秀吉が勝つのは当然の時代の流れという説明は、わかりやすく説得力もありますが、どうも後付けの勝ち馬に乗った後世の評価という気がしてなりません。
 この作品、戦国武将の知恵比べ、人心の掌握の重要性の提示、交渉が重要な位置づけを持つという各点で、「のぼうの城」と共通点を見出せます。しかし、「のぼうの城」が大軍に囲まれた小大名の意地による抵抗、それを支える農民たちの姿を肯定的に描いている、つまり歴史的には敗者・弱者となる側からの視線で描いているのに対して、「清須会議」は勝者を勝つべくして勝ったと讃え、敗者を時代の流れに乗れなかったために負けるべくして負けた者と扱うだけでこの作品で言えば負ける側の柴田勝家・お市の方連合に対しては共感や暖かなまなざしは感じられません。そのあたりが、作品・監督自身が強い者・勝者の味方というか、この作品で言えば長秀・恒興的な姿勢というように、私には見えてしまいます。

 終盤で、松姫(剛力彩芽)の強い意志を描いているのが少しおやっと思わせられますが、これは秀吉のみならず松姫も(有能なビジネスマンのみならず時には若きビジネスウーマンも)なかなかやるというのか、けなげな振りして怖いというのか。ただ、はっきり言って織田家の跡目がどうなろうが、いずれにせよ秀吉に攻め滅ぼされるか秀吉に付き従う運命であることを考えれば(観客にはそれがわかっているわけですから)しょせん浅知恵にも見え、哀れを誘う感じもします。制作サイドがそこまで見据えた上で「浅知恵」と描いているということではないでしょうけど。

 北条方からただ1人清洲に向けて走り続ける滝沢一益。何で1人?
 そこに打ちかかる更科六兵衛(西田敏行)。ただ1人の前作(ステキな金縛り)からの連続登場人物ですが、やっぱり1人で何してたのか。三谷幸喜ファンへのサービス以上のものではないでしょうけど。
 勝家がお市の方と祝言を挙げると聞いた長秀のアドバイス「年下の女房は年上のように、年上の女房は年下のように扱うのが夫婦円満の秘訣」って、本当だろうか…
(2013.12.28記)

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