たぶん週1エッセイ◆
マウリッツハイス美術館展

 東京都美術館リニューアルオープン記念のフェルメール「真珠の耳飾りの少女」が売りの「マウリッツハイス美術館展」に行ってきました。平日の夕方を狙って行きましたから、待ち時間はゼロでしたが、「真珠の耳飾りの少女」の前だけは行列と人だかりが絶えませんでした。

 公式サイトでの説明では、「マウリッツハイス美術館では、本展を開催する2012年から大規模な増改築工事がスタートします」とあり、「マウリッツハイス美術館から、名品約50点を選りすぐって紹介します」とされています。こう書かれると、改修工事中だからマウリッツハイスの代表作がそろって来るかのように読めます(公式サイトでは、そういう苦情に対応できるようにか、そう明言はしていませんけど)。例によって「主な作品」(12点)だけしか紹介してなくて、出品目録もネット上公開されていませんしね。
 実際の出品目録を見るときには既に入場してますが、マウリッツハイスのフェルメール作品で「真珠の耳飾りの少女」と並んで有名な「デルフト眺望」は来ていません。まぁ、これはもし来るなら思い切り宣伝するでしょうから、「真珠の耳飾りの少女」しか宣伝しない以上、来ないとわかりますが。レンブラントも6点も来ると誇らしげに書いていますが、マウリッツハイス所蔵で一番有名な「テュルプ博士の解剖学講義」は来ていません。アーフェルカンプの「氷上の遊び」も来ていませんし。
 マウリッツハイスからフェルメール2点借りてくるならどう考えたって「真珠の耳飾りの少女」と「デルフト眺望」でしょう。「ディアナとニンフたち」なんて真作か贋作かずっと議論されている代物ですし、2008年に東京都美術館が第一生命・朝日新聞社という今回と同じ組み合わせでやった「フェルメール展」(それについてはこちら)でも展示されてたものじゃないですか。前回に味を占めてフェルメールと名のつく物さえ並べれば客が来ると踏んでのことでしょうか。実際、前回同様に自ら主催の朝日新聞が記事か広告か判別しがたい広告を大量に掲載して煽り倒して既に(2012年8月16日で)入場者40万人超えですからもくろみ通りになっていますが。

 展示は、全部で48点のうち美術館の紹介用の作品が6点、風景画が8点、物語画が6点、肖像画が13点、静物画が6点、風俗画が8点という17世紀オランダ絵画の盛り合わせ。いろんな分野をちょっとずつアリバイ的に並べた感じで、私には全部中途半端でポリシーが感じられませんでした。私の感覚では、17世紀オランダ絵画を紹介するということなら静物画と風俗画に集中した方が見応えがあると思いますし、どうしてもフェルメールとレンブラント(の今回出品作)で売りたいなら肖像画に特化した方がいいと思います。

 そして、「真珠の耳飾りの少女」。宣伝では、これが間近に見られるかのようにいわれていますが、全面ガラスの向こう、柵の1m以上先上方にある絵を、行列したあげくに「立ち止まらないでください」と係員に急かされながら通り過ぎるだけ。こういうパンダでも見せるような感覚(パンダはそれでも写真が撮れるけど、美術展では撮影厳禁でその場で目に焼き付けるしかないのに)で美術作品を見せる人々に美術展なんか主催して欲しくない。目があまりよくない私には、まじまじと見る余地なく歩きながら見るだけでは実物を見たという感覚は持てません。こういう見方なら、映像なり写真集で見る方がいい。実物を見て感じたのは、映像に比べて色があせている(17世紀の絵であることを考えると色あせしてない方と評価すべきでしょうけど)なというくらい。もっともそれも全面ガラスと照明の仕方の関係かもしれませんが。

 主催者の美術展ビジネスの道具のフェルメールはおいて、17世紀オランダ絵画の小規模作品展としてみると、いつもながらに17世紀オランダの画家たちの緻密な描写と繊細で柔らかいタッチ、草木や毛の筆遣いや布などの質感に心を奪われます。私が知らなかった画家ですがヴィレム・ヘーダの「ワイングラスと懐中時計のある静物」など、よくぞここまでという感じです。その前後の静物画も素晴らしいのですが、じっと見ていると壺・食器類の形が歪んでいるのは、当時の食器等の製作技術の問題でリアリティの追求なのか、それともデッサン力の限界なのか。風俗画ではピーテル・デ・ホーホの「デルフトの中庭」ですね。前回(2008年)の「フェルメール展」の中ではデ・ホーホは迫力不足に思えたのですが、今回の展示では光って見えました。
 ルーベンスの「聖母被昇天」の下絵(完成品はアントワープ大聖堂所蔵)が展示されていて、「フランダースの犬」でネロがどうしても見たかった絵がこれなのかとわかったのが一番の収穫だったかも。
 お土産用品の真珠の耳飾りの少女の扮装をしたミッフィーがかわいい・・・

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