たぶん週1エッセイ◆
ムンク展
 国立西洋美術館(上野)で開催中の「ムンク展」に行ってきました。
 ゆったりと見たいので、自営業の強みで平日昼間にコソッと行きました。その分、別の時間帯にしわ寄せすることになりますが。
 ムンクは、誰でも知っている「叫び」に代表される言いようのない不安感や、「マドンナ」など多数の作品に見られるような女性へのコンプレックス/畏怖と、繊細とは言い難いタッチ、お世辞にも趣味がいいとは言えない色づかい(グロテスクかケバいと言うべきでしょうね)の印象が強く、特に好きという画家ではないのですが、学生の頃から気に入っていた「マドンナ」と「病める子」(オタクっぽい?)、今年画集(読書日記2007年3月06.)で見て気に入った「声」と労働者フリーズが見たくて行きました。
 ずいぶん久しぶりの平日昼間の美術館。それなりには人がいますが人だかりもなく、気に入った絵の正面で5分くらい立ちつくしていてもOK程度の入り。東京でもこんな世界もあるのですね。これからも仕事を夜や休日に回して平日の昼に来よう。
 「声/夏の夜」。現物はやっぱりいい。ムンクには珍しいムンク自身の幸福感が匂ってくるような、湖の畔の林にたたずむ女性の絵。前景の女性は薄いブルーを基調にして描かれ、ぼかされた顔の表情が得も言われず魅惑的。私にはムンクが書いた女性で一番表情が美しいのはこの絵だと思えます。ただ、前景の女性がぼかして描かれ、後景の林の木の幹や湖に映る月の細長い光(ムンクの絵にはこれがよく出てきて、しかも不自然なもので、絵が下手と感じさせる原因となっているように思えます。でも、この絵の月の光は美しい)がくっきりと描かれていて遠近法(消失点に集まる線の遠近法じゃなくて、近くの物ははっきり描き遠くのものはぼかす)に反していて、どことなく落ち着かない。それもやはりムンクなんでしょう。
 この絵は、珍しく私と主催者・他の客の好みが一致しているようで、絵はがきになっていて、「先週の人気No.3」だそうですが、現物を見た(たぶん合計して10分は見つめてました)後に複製や絵はがきを見てびっくり。ずいぶん色が違います。湖の色も月の光も、ムンクの絵の現物の方がもっときれいな色だったと思うのですが。主人公の女性も、絵はがきでは今ひとつ平板な感じ。現物のあの魅力は、絵の具のしっとり感が増幅していたのか、それとも・・・
 そう思ってみると、今回、ポスターやチケットに採用された、目玉の「不安」。チケットなどと現物で感じが全然違います。現物は橋の上の人物、右端のピンク系のかぶり物をした茶髪の少女も左側の男性も顔は薄い緑系のぼかした絵で、目鼻も少しの濃淡で微妙に描かれているのが、ポスターやチケットではよりはっきりし、その分、色が顔は白ないし黄色っぽくなっています。顔の印象、現物とチケットなどでずいぶん違いますよ。少女のかぶり物も、現物ではわりときれいなピンク(ムンクにしてはわりと上品なピンク)なのにチケットなどではちょっと汚れ気味の赤ないしオレンジ。遠景の空の赤も、チケットなどより現物の方がきれいで切迫感があります。そして左下側の人々の服の黒も、現物では緑と茶色が入った黒でその深みを感じるのですが、チケットなどではただ塗りつぶした黒。これだけ技術が進んだ現在で、カラーの再現性ってこんなに悪いのかとただただ驚きました。
 同じことは、マイナーな絵ですが「赤い蔦」でも言えます。この絵、構図はゴッホのオーヴェールの教会風、その真ん中に建つ建物の壁はマチス張りの赤、でも建物から手前に伸びる道と人物はやはりムンクという作品で、人物はやはり薄緑のぼかした顔というむちゃくちゃなバランスがそれでもそれなりに統合されているところがすごいと思います。で、人物の顔が現物では薄緑でぼかされているのに絵はがきでは白っぽくなって目鼻が少しはっきりしています。
 こうして見ると、複製の際に人物の顔をはっきりさせるためにコンピュータでコントラストをつけ、それでカラーバランスが変わったのではないかと思えます。デジカメの人物写真じゃないんだから、そういうのやめた方がいいと思うんですが。私はこれらの作品の人物の顔はぼかして描いているところに味があると思いますし。
 さて、労働者フリーズです。これは、晩年のムンクが「これからは労働者の時代だ」と言ってオスロ市庁舎の壁画に労働者の絵を連作で描くための企画だったそうです。庶民の弁護士・労働者側の弁護士としては、親近感持ちますね。残念ながら完成されなかったそうですが、そのために描かれた作品がいくつか展示されていました。
 その中でひときわ目につく大作が「雪の中の労働者たち」(いくつかあるけど油彩のやつ)。背景は雪なので素直に白く、労働者たちは写実的で力強く描かれています。ムンク展の中で見せられるのでなければ、またムンクの画集の中で見せられるのでなければ、到底ムンクの作品とは思えない。ドラクロワかクールベの作品と言われても信じてしまいそうなタッチ。全然ムンクらしくないけど、でも・・・いい絵です。やはり合計で10分以上は見つめてしまいました。
 今回、ムンクの絵の現物を見て思ったのは、ムンクの絵の配色はお世辞にも上品でも趣味がよくもないけど、現物で見ると意外にきれいだということ。「病める子」の油彩バージョン(私はリトグラフの方が好きですが・・・今回はリトグラフはなしで油彩とドライポイント)なんて意外にカラフル。
 ムンクは、私にとっては、ひたすら現物で見たい画家の一人になりました。

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