たぶん週1エッセイ◆
映画「誰も守ってくれない」
ここがポイント
 自分自身は何も犯罪を犯していない被疑者の家族が叩かれ追いつめられる様には慄然とする
 被疑者の15才の妹の氏の変更手続はかなり無理があると思う
 弁護士の視点

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 殺人事件で逮捕された少年の家族を追い回すマスコミとネットオタクから妹を守る役割を与えられた警察官の行動と思いを通じて、マスコミとネット社会の危うさを描く社会派映画「誰も守ってくれない」を見てきました。

 このテーマ、昔から被疑者が逮捕された後、本人には接触できないマスコミが接触しやすい・ターゲットにしやすい家族を追いつめ、その結果家族が自殺したりすることがありましたし、私自身、十数年前被疑者の家族を標的に記事を書いた三流週刊誌(弱者を叩くことを好む志の低さから敢えてそう呼んでおきます)を相手に裁判も起こしたこともあり(それについてはこちら)、気になっているテーマではあります。
 犯人本人が非難されるのはいいですが、その家族がどうして「同罪」だったり、責任を取れといわれるのか、私にはとても理解できません。被害者が哀しみのあまり、加害者の家族にも感情をぶつけたくなるのは、ありがちだと思いますし、それもいいでしょう。それは、当事者であり、感情のほとばしりとして正当化されるのだと思います。第三者であり冷静に報道する立場のマスコミが、その尻馬に乗って、一緒になって、あるいは勝手に被害者の代弁者のような口ぶりで、別に罪を犯したわけでもない家族に迫るのは、どういうことでしょう。この映画でも、被害者の遺族は加害者の家族にも責任を取ってくれといっているなどと叫ぶ記者が登場します。
 そういう映画を、フジテレビも入って制作したのは、懐が深いというべきか、厚顔無恥というべきか・・・

 兄が殺人の容疑で逮捕され、母親は自殺、父親とも隔離され、マスコミとネットオタクに追い回され、友人も殺人犯の家族とはつきあえないと言い、挙げ句の果ては恋人にまでネットに売られてさらし者にされ、孤立無援となる加害者の妹沙織(志田未来)の過酷な運命には慄然とします。しかし、今の世の中ではマスコミの騒ぐ刑事事件の被疑者の家族には普通に訪れる不幸になっているのでしょう。
 この映画、マスコミとネット社会に追われて生活を破壊される被害者としての沙織を、単線的に描くのではなく、薬物中毒患者をおとり捜査で泳がせて尾行中にその患者が通り魔殺人を起こしてそのトラウマに悩む警察官勝浦(佐藤浩市)をその保護者役に配し、勝浦がマスコミから逃れるために訪れたペンション経営者夫婦がその通り魔殺人の被害者の遺族という設定で、重層的に描いています。特に遺族(柳葉敏郎、石田ゆり子)の赦しと死んだ子を忘れられない気持ち、そして時として噴出する許せない感情が描かれることで、奥行きを持たせています。
 そしてこの映画は、警察も正義の味方一辺倒には描いていません。警察が沙織を保護しているのも、マスコミ等からの保護という側面とともに、黙秘し続ける被疑者に口を割らせるために沙織の供述が欲しいからでもあります。沙織に犯行当日の被疑者の行動について事情聴取しろと迫るのは勝浦の上司の役割になっていますが、勝浦も、沙織から自宅に置き忘れた携帯のメールは読まれないかと聞かれても、沙織に対して声を荒げて取り調べる上司を見ても、眉はひそめても声は出しません。現実には携帯電話のメールは確実に警察官に見られるし、自分が取り調べるときもあんなものだという思いがあるでしょう。安易に請け負わず、正義を振りかざさないところが、勝浦の言動に深みを持たせていると思います。

弁護士の視点
 最初の方で、被疑者逮捕の直後に警察がマニュアルに従って両親を離婚させて再婚させ氏を妻の旧姓に変えさせるシーンが登場します。私自身はそういう事件の経験がないので、どこまでやるのかはわかりませんが、逮捕当日にそこまでする必要があるのか疑問を感じます。
 それはさておき、疑問に感じたのは、「家庭裁判所です」と自己紹介する人物が同席したこと。離婚は、離婚届を書いていましたから、協議離婚で裁判所の出る幕はないです(ちなみに自宅で離婚届を作るのにどうして印鑑を押させずに拇印を押させるのかも理解できない)し、婚姻の方は婚姻届しかあり得ず裁判所の出る幕は全くありません。そしてこの場合、沙織の氏は両親の離婚の時点では父と同じ氏(従来通りの氏)、両親の再婚後も沙織は従来の氏のままで父が氏を変えたことによって沙織と両親の氏が違うことになります。その場合は、沙織の氏を両親とあわせるのに氏の変更審判は要らずに届出だけでできます(民法第791条第2項)。ですから、裁判所の出る幕は全くありません。裁判所じゃなくて区役所を連れてくるべきでしょう。
 しかも、氏の変更について、沙織はその場でいやだと言っています。未成年だから親が代行できると思いますか?氏の変更の届出を親が代行できるのは15歳未満です(民法第791条第3項)。沙織はもう15歳ですから、本人がいやだと言って手続をしないのに勝手に子の氏を変えられません。区役所の人がその場で届出を受理したとして、沙織本人が1つも届出を書いていないのに手続を終えられるはずはないのですが。(すみません、マニアックな話で。でも仕事がら気になるもので・・・)

(2009.1.25記)

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