庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

女の子が楽しく読める読書ガイド
茨文字の魔法 (原題:Alphabet of Thorn)
ここがポイント
 老いた魔術師ヴィヴェイと元司令官ガーヴィンの関係が微笑ましく、新女王テッサラの図太さがいい
 カップルの性生活がふつうに描写されるところが好ましいが、女の「子」に読ませるのは少し躊躇

 お薦め度:星イメージ星イメージわりとお薦め/

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パトリシア・A・マキリップ作
2004年
 12の邦を支配するレイン王国の王が死に14歳の王女テッサラが王位を継ぎ、相談役の魔術師ヴィヴェイは新女王の未熟さと政治や儀式への無関心に困り果てていますが、そこに侵略者の予兆を読み取ります。他方、王立図書館では、図書館で育てられ16歳になった孤児の書記ネペンテスが、持ち込まれた未知の文字で書かれた文書の翻訳を続け、そこに書かれている古代の伝説の皇帝アクシスとその顧問の魔術師ケインの物語に魅了されていくうちにアクシスの帝国と遠征の驚異の謎に行き当たり・・・というストーリーのファンタジー。
 物語は、@王立図書館の地下深くの書記の部屋でのネペンテスの翻訳とネペンテスを慕う同僚のエイドリー、ネペンテスと惹かれ合う空の学院の学生(魔術師見習い)のボーンの絡み合い、Aネペンテスの翻訳する文書の中での古代の伝説の皇帝アクシスとケインの物語、B王宮と周辺の森での新女王テッサラと魔術師ヴィヴェイの危機対応と謎解きが平行して進行していきます。

 登場人物のうち、新女王テッサラ、魔術師ヴィヴェイ、書記ネペンテス、伝説の皇帝の顧問の魔術シケインが女性です。
 新女王テッサラが、最初14歳の世間知らずで頼りない少女として描かれているのですが、王国の危機が近づくや、冒険には怖がりもせずあらゆるところに平気で向かい、魔術にも驚きもせず飄々と対応していくという意外な強さというか図太さを見せます。
 魔術師ヴィヴェイは事実上王国を仕切り、強い意志でテッサラに危機への対応を指示して行きます。レイン軍の元司令官のガーヴィンと恋愛関係を続け、塔で一緒に夜を過ごしていますが、ヴィヴェイとガーヴィンの関係も対等というかガーヴィンの方が一歩下がった感じの関係に描かれています。
 ネペンテスは、誰も読めない茨の形の未知の文字をなぜか解読でき、文書に惹き込まれていきます。ただ、性格的には、ネペンテスはややか弱さを感じさせる設定になっています。ネペンテスとレイドリーの関係は、惚れた弱みのレイドリーがネペンテスに請われるままにアクシスの伝説やレインの古代史を調べてネペンテスに協力する関係。ネペンテスとボーンは、ネペンテスは孤児の書記でボーンは貴族の子息で、最初はネペンテスの方が熱を上げてボーンの優位ですが、ネペンテスは茨文字に惹き込まれてボーンよりも茨文字を優先するようになって次第にネペンテス主導になっていきます。
 アクシスとケインは、アクシスが皇帝でケインは顧問ですが、実はアクシスの戦争はすべてケインの魔術と知識でもたらされたもので、実力的にはケインの方が上です。しかし、アクシスとケインの関係は、ひたすら攻撃的なアクシスの性格と惚れた弱みと捧げものの召使いというケインの地位から、アクシス優位の古風な関係です。

 登場するカップルの関係が、アクシスとケインが古風な感じですが、その他はほぼ対等に描かれていること、テッサラの普通っぽい少女が飄々と危機を乗り越えていく図太さといったあたり、女の子が楽しく読めるという観点からいい線だと思います。
 カップルの性生活が、いずれも女性側からごく日常的なもの、不可欠のものとして描かれているところも、むしろ加点事由かと思います。特に老人同士のヴィヴェイとガーヴィンの性生活やネペンテスがボーンを求めるあたりの描写はほほえましくも思えます。ただ、親の立場からは女の「子」に読ませるのにちょっと躊躇を感じるとは思いますが。

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