庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

女の子が楽しく読める読書ガイド
エリアナンの魔女 The Witches of Eileanan
ここがポイント
 女性版指輪物語ともいうべき壮大なファンタジー
 日本語版として刊行された原書前半3巻分では、武闘派のイズールトがりりしく魅力的
 原書後半3巻分は日本語版未刊(おそらく後半ではイズールトと双子姉妹のイサボーが活躍するはずだが…)
 お薦め度:星イメージ星イメージ星イメージお薦め/

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ケイト・フォーサイス作
1巻 魔女メガンの弟子(原題:DRAGONCLAW)  1997年
2巻 黒き翼の王(原題:THE POOL OF TWO MOONS)  1998年
3巻 薔薇と茨の塔(原題:THE CURSED TOWERS)  1999年
4巻 THE FORBIDDEN LAND  2000年
5巻 THE SKULL OF THE WORLD  2001年
6巻 THE FATHOMLESS CAVES  2002年

 原作は6巻シリーズですが、日本語版は2010年12月から2011年6月にかけて原書の1巻から3巻を各上下に分けた6巻本として徳間書店から出版されました。2002年に既に6巻で完結している作品を2010年になってあえて最初の3巻だけで出版したということは4巻から6巻は日本語版として出版しない(もしも売れたら、そのときは残りも翻訳出版する?)ということでしょうか。3巻の最後では一段落ついてはいますが、中身を読んだら主人公の一人イサボーの運命はなお途上で中途半端なこと、ジョーグの予言の「国土を治める子」「海の領主が来る」が決着されていないなど物語の途中であることがわかります。訳者あとがきでは「続編」が原書でもう3冊分あると書かれていますが、続編じゃなくて本編なんだろうと思います。
 16世紀の魔女たちが魔女狩りを逃れて宇宙をわたりたどり着いた異世界エリアナンで海人フェアジーンを駆逐しドラゴンや妖精たちと平和共存の「エダンの契約」を結び400年にわたる平和が続いたが、リオナガンの王ジャスパーの寵愛を受けた出自不明の美貌の王妃マヤが魔法を禁止して魔女や妖精を徹底的に弾圧しエダンの契約を無視してドラゴンを殺害するなどして、魔女たちは地下にこもり、不穏な空気が支配していた。16歳になる赤毛の少女イサボーは、育ての親の魔女メガンから魔女の知識を学びつつ「隠れ谷」で迫害を逃れて生活していたが、16歳の誕生日に魔女の力の試験を受け非凡な力を認められ試験に合格するが、その試験で使った魔法をマヤの「赤の憲兵隊」に察知されて急襲されて命からがら逃げ、メガンから護符をリオナガンの王宮に潜むメガンの仲間に届けるようにいわれてメガンと別れ長い旅に出ることになる。メガンはマヤの支配を倒すためにドラゴンの下に赴きそこでイサボーの双子の姉で卓越した戦闘能力を誇る「傷痕の戦士」イズールトと出会い、ともに反乱軍を組織する工作をしながら旅を続け・・・というお話。
 話の流れでは、イサボーを主人公とする群像劇っぽい構成ですが、日本語訳された前半3巻でイサボーの物語が途中であることが読み取れることもあって、登場人物ではイズールトが光っています。魔法を使わない戦闘では、イズールトが圧倒的に強く、十数人の敵を一人で皆殺しにするシーンが度々登場します(相手が数十人になると疲れて傷を受けるというパターンがやはり何度か登場しますが)。メガンの教育を受けて魔法の力も見いだされ、飛翔や天候を変える魔術も使えるようになり、個人レベルの強さでは反乱軍一の力を持っています。そして、礼節と自重は叩き込まれてはいたものの直情径行で意地っ張りだったイズールトが、大局観に欠け近視眼的で短期でわがままな王子ラクランと行動を共にするうちに落ち着きと決断力を磨いていくことになり(イズールトは変わらないけどラクランとともにいるから相対的にイズールトが落ち着いて器が大きく見えるだけかもしれませんが)、力と決断力を兼ね備えた存在へと成長していきます。このイズールトが、とてもりりしくかっこいい。(私は、イズールトのりりしさに惚れ惚れとしてしまいますが、強過ぎあるいは「完璧」過ぎて共感できず、また外の人物が弱み悩みが描かれているのと比べて人物像が平板に見えるかもしれません)
 イサボーは、おっちょこちょいですし、決断を度々後悔し、自己の運命を悲観し、とりわけイズールトと比較して妬む心の弱さを見せますが、魔法の力は強力で、曲がったことはせず慈愛に満ちています。この屈折や陰影が、むしろ読者の共感を呼ぶところと思いますが、大審問官による拷問(日本語版1巻ラスト)のシーンはイサボーの側から読む読者には心潰れそうな展開で、ここまでやらなくてもと思います。そこまで読まされた読者は、イサボーを幸せにしてやりたいと思うところですが、日本語版は本来の半分で終わっているので不満足感が残るということになります。
 魔女メガンは、428年(物語の初期で)生きていることもあって、最も大局観があり(魔法の)力を兼ね備えています。そのほかにもメガンの仲間で敵の中枢に潜入してしたたかに生き延びる料理人ラティファ、悪役でも魔力があり強靱な意志を持つマヤと「薊のマルグリット」など、魅力的な女性キャラが多数登場します。他方、男性は、ラクランは短気で視野の狭いジコチュウ王子ですし、イサボーが思いを寄せた軽業師ダイドも軽めの男(普通の男ともいえますが)止まりで、感心と共感を呼ぶのは見者ジョーグの知恵と貫禄、アンガスの悩みと忠誠心、イアンの勇気、トーマスの純真な正義感(トーマスよりジョアンナの方がりりしかったりしますけど)くらいでしょうか。
 そういった点で、イズールトの突出したりりしさを置いても、傑出した女性キャラで綴る女性版指輪物語といった風情です。さまざまな女性キャラに共感しながら壮大な冒険ファンタジーの世界を味わえることからお薦めに載せておきたいと思います。(女の「子」に読ませるという観点からは、暴力シーン・流血シーンが多すぎる感じがします。作者のサイトの作品リストで、「Children's Books」ではなく「Adults Books」に分類されているのはそういう配慮でしょうか)

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