◆女の子が楽しく読める読書ガイド◆
ハウルの動く城
(原題 Howl's Moving Castle)
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作、1986年。
原書では1986年に Howl's Moving Castle が出版され、1990年に Castle in the Air が出版され、表紙に Sequel to Howl's Moving Castle(ハウルの動く城の続編)と表示されています。その後18年を経て2008年に House of Many Ways が出版され、やはり表紙に Sequel to Howl's Moving Castle と表示されています。日本語版は、Howl's Moving Castle が「魔法使いハウルと火の悪魔 ハウルの動く城1」、 Castle in the Air が「アブダラと空飛ぶ絨毯 ハウルの動く城2」、House of Many Ways が「チャーメインと魔法の家 ハウルの動く城3」という表題をつけられています。
Howl's Moving Castle で中心人物だったソフィーとハウルは、Castle in the Air 、House of Many Ways では事件を解決する役割は果たしますが、主人公という扱いではなく、物語の中での位置づけはかなり変わっています。原書で Sequel to Howl's Moving Castle と表示されていることからも、ハウルの動く城シリーズと呼ぶことはできるでしょうけど、ちょっと苦しい感じがします。
Castle in the Air は主人公が男性ですので、ここでは論評の対象にしません。脇役の「夜咲花(Flower-in-the-Night)」はなかなかのキャラですが・・・
House of Many Ways の主人公の少女チャーメインの物怖じしないたくましさは、Howl's Moving Castle のソフィーに通じるところがあり、掃除と炊事を率先して行うソフィーと対照的に家事はできない・きらいという設定も今ふうで、お薦めしたい感じもしますが、ピーターとの関係では主導権をとられている感じもしますし、人も話も違うため Howl's Moving Castle とまとめて検討・紹介するのが難しい感じがします。
ということで、以下は Howl's Moving Castle についての紹介です。
荒れ地の魔女に呪いをかけられて老婆にされた帽子屋の長女ソフィーが、世間から恐れられている魔法使いハウルの城に住みつき、ハウル側の「火の悪魔」カルシファー、ハウルの弟子のマイケルらとともに呪いを解くために努力しながら、様々なできごとに翻弄されつつ、最後には荒れ地の魔女・荒れ地の魔女側の火の悪魔と対決し、呪いを解き、ハウルと結ばれる話。
タイトルは「ハウルの動く城」ですが、主人公は明確にソフィーです。
ソフィーの物怖じしないところというかたくましさ、図太さがいいですね。とんでもないことが次々起こるのですが、ソフィーはあわてず、または開き直って対処しています。老婆になっているのとソフィーが実は魔法を使えるというあたりがちょっと子どもの読者には自分を投影しにくいかもしれませんけど。
登場する女性の容姿について作者は割と言及していますが、ソフィーはあまり気にしていないようです。それは、次女のレティーのように「とびきり美人(原作ではmost beautiful)」というわけではないけど「きれい(原作ではvery pretty)」と評価されているせいかも知れませんけどね。ただ、アンゴリアン先生に嫉妬しているシーンでは「若くてぴちぴちしていたときでも、自分がアンゴリアンより器量がよかったとは思えません」(244頁)(原作では Even young and fresh, she did not think her face compared particularly well with Miss Angorian's)と考えますが。・・・やっぱり気にしてるか。
ソフィーの思いこみは、むしろ、昔話では3人兄弟(姉妹)がいれば成功するのは末っ子で長女は必ず失敗することから、自分も長女だから何をやっても失敗するということ。これは、ちょっとうるさいくらい何度も出てきます。でも、物語の終わりには、それは、やっぱり単なる思いこみなのねという印象を持てますので、そういう思いこみにとらわれないでねというメッセージになります。
ちょっと気になるのは、ソフィーの仕事がハウルの城の掃除とか服の繕いとか調理とか(ハウルが料理するシーンもありますけど)、事業の場面でも帽子屋は最後のアレンジ(デザインと帽子への話しかけ)、花摘みと、なんかいかにもっていう性別役割なんですね。
それから、ハウルは魔法の能力はあるけど、プレイボーイで浪費家で臆病で陰険なやつと描かれています。するとこれをソフィーの恋物語として読むと、「あたいがいないと彼はダメになっちゃう」という感性のヤクザの情婦タイプの話になるんですね。もっとも、物語の中でソフィーの恋物語的な要素は、ラストを除けば、アンゴリアン先生に嫉妬するあたり(244頁〜245頁、271頁)と「とにかくハウルは私が好きじゃないし」(256頁)という台詞くらいで、あまり物語の本筋じゃないと思いますが。
ということで、ちょっと引っかかるところもあるけど、ソフィーのたくましさでちょっとお薦めにしておきます。
ただ、Howl's Moving Castle ではきちんと描かれていたソフィーが、Castle in the Air ではほんのちょい役、House of Many Ways では登場回数はそれなりにあるもののただハウルにいらつき怒鳴るばかりの役どころで、人物としての描写が通り一遍になってしまい、魅力を感じにくくなっています。ソフィーの魅力で読むのなら、Howl's Moving Castle だけで止めておいた方がいいでしょう。
さて、この「ハウルの動く城」、アニメ映画になりましたが、こちらは原作とはかなり趣が違います。
ハウルは、アニメでは他の女に声もかけないし、原作ではむしろ戦争の武器を提供しているのがアニメでは戦争を止める役。わがままさも陰険さもほとんどなし。キムタクのイメージに配慮したんでしょうか?
ストーリーも原作では重視されていない恋物語に純化しています。その結果、全体として、ソフィーの、戦争に抵抗する「りりしいハウル様」への恋物語になってしまっています。
そこへ、原作にないソフィーの「私、きれいでもないし、掃除くらいしかできないから・・・」の台詞。平凡な女性がかっこいい男性に見初められる。これって昔の田淵由美子・睦A子路線の乙女チック少女マンガですよね。
さらに、それに対してハウルの「ソフィーはきれいだよ」の台詞。容姿がやっぱり最重要なんですね。
宮崎作品には、「風の谷のナウシカ」とか「千と千尋の神隠し」とか「となりのトトロ」(さつき)とか「もののけ姫」(サンよりもエボシ御前やたたら場のお母ちゃんがいい味ですね)とか、女の子が楽しめる作品が結構あると思いますが、ハウルは、一体なんなんでしょうね。原作者も城が動くというアイディアが気に入って書いたようですが、このアニメ、動く城と原作にはない城が暴走して壊れるシーンを絵にしたかったんじゃないでしょうかね(何かそこに力入って描かれている感じがしましたけど)。
ということで、アニメの方は、お薦めできません。
(なお、女の子が楽しく読めるかどうかとは関係ありませんが、原作を読んでからアニメを見ると、ストーリーがかなり変更されている上に、登場人物の位置づけがかなり違うのでとまどいますよ。被害者のはずのサリマンが陰で操る悪役になってるし、敵役の荒れ地の魔女はいつの間にか味方になっちゃうし、敵側の「火の悪魔」の正体アンゴリアン先生は出てこないし・・・)
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