庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

女の子が楽しく読める読書ガイド
タラ・ダンカン(原題 : TARA DUNCAN)
ここがポイント
 圧倒的にパワフルな少女が、周囲の大人たちに物怖じせず対峙し、敵と戦う姿が爽快
 主人公に勇猛な女性の友人たちがいてともに戦う(勇者の男に助けられるのではない)設定が光る
 12巻での「第1シリーズ完結」を前にお色気路線とフェミニズム志向の間で揺れが感じられる

 お薦め度:星イメージ星イメージ星イメージお薦め/

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ソフィー・オドゥワン=マミコニアン作
1巻 若き魔術師たち (原題 TARA DUNCAN , LES SORTCELIERS) 2003年
2巻 呪われた禁書 (原題 TARA DUNCAN , LE LIVRE INTERDIT) 2004年
3巻 魔法の王杖 (原題 TARA DUNCAN ,LE SCEPTRE MAUDIT) 2005年
4巻 ドラゴンの裏切り (原題 TARA DUNCAN ,LE DRAGON RENEGAT) 2006年
5巻 禁じられた大陸 (原題 TARA DUNCAN ,LE CONTINENT INTERDIT) 2007年
6巻 マジスターの罠 (原題 TARA DUNCAN ,DANS LE PIEGE DE MAGISTER) 2008年
7巻 幽霊たちの野望 (原題 TARA DUNCAN ET L'INVASION FANTOMES:タラ・ダンカンと幽霊たちの侵入) 2009年
8巻 悪魔の指輪 (原題 TARA DUNCAN , L'IMPERATRICE MALEFIQUE:邪悪な女帝) 2010年
9巻 黒い女王 (原題 TARA DUNCAN ,CONTRE LA REINE NOIRE) 2011年 
10巻 悪魔の兄弟 (原題 TARA DUNCAN ,DRAGONS CONTRE DEMONS:ドラゴン対悪魔) 2012年
11巻 宇宙戦争 (原題 TARA DUNCAN ,LA GUERRE DES PLANETES) 2013年
12巻 魂の解放 (原題 TARA DUNCAN ,L'ULTIME COMBAT:最後の戦い) 2014年 日本語版は2015年8月4日発売
13巻 TARA DUNCAN ,TARA ET CAL(タラとカル) 2015年 日本語版未刊

 フランス語版と日本語版でタラもモワノーもイラストのイメージがかなり違います。フランス語版ではちょっと不気味だった(怖かった)タラのイラストが大人になって少し丸くなってきた感じです。日本語版は、14歳、15歳、16歳、17歳、最後には18歳で「もうすぐ19歳」になっても、小学校中学年風のロリータ顔(やや大人びた表情のものもありますが、顔のつくりは小学生っぽい童顔)。(11巻上の付録の別世界通信で、担当編集者が「原書の表紙のタラはシュールで顔も怖く、日本人には受けそうもない」と言っています)
 しばらくチェックしていないうちに変更されたので正確にいつからかはわかりませんが、原書7巻発行後、公式サイトのイラストが変更されています。タラは、原書のイラストよりも鼻と口が小さくなって、アクのない顔になり、さらに日本人好みのかわいい感じになっています。それでももちろん、日本語版のイラストと違って大人の顔ですが。
 公式サイトはこちら(著者のブログはこちら
 主人公は、生まれながらに魔力を持つ12歳(1巻時点。6巻で15歳、8巻で16歳、9巻で17歳になり、10巻では18歳、12巻では「もうすぐ19歳」とされています)の少女タラ・ダンカン(本名はタラティランネム・タル・バルミ・アブ・サンタ・アブ・マル・タル・ダンカン)。
 舞台は、魔法が支配する「別世界」(オートルモンド:AutreMonde)と人間の住む地球、悪魔が封じ込められた煉獄。この3つの世界をめぐってドラゴンと人間と悪魔の闘いが繰り広げられます。人間の中にはドラゴンと連合した魔術師と、ドラゴンを裏切って悪魔と手を結ぼうとする魔術師(サングラーヴ族)がいて、現在はドラゴン・人間vsサングラーヴ族・悪魔の闘いが行われています。サングラーヴ族が地球侵略のために必要な「悪魔の宝」を得るためにタラの力を必要としたために、タラはその闘いに巻き込まれ、仲間とともにサングラーヴ族と闘うことになります。敵味方がその場その場で入れ替わったりしますが、基本的にはサングラーヴ族の覇者マジスターがタラの最大の敵という位置づけになります(巻を追ってタラのパワーが強力になり、他方マジスターは弱々しく見え、8巻では戦ったらマジスターなどタラの敵ではないという印象ですが、作者が最終巻でマジスターの正体を明らかにすると宣言して、最終巻までマジスターを相手方と位置づけています。もっとも、タラがマジスターを利用したり必要と考える場面があったり、11巻ではマジスターが地球を救う英雄になるなどかなり曖昧になってきますが)。
 作者は、第1巻出版段階では第10巻まで書くと宣言していました。それが、日本語版第8巻上付録の別世界通信12号によれば、10巻で完結予定だったけど12巻まで延ばすことにしたって(公式サイトのFAQもいつの間にか12巻と書き換えられていますね)。10巻、11巻で悪魔の王アルカンジュと弟ガブリエルを前面に立てて、対マジスターよりも悪魔たちとの関係に重点を置いていますが、この2巻分が最初10巻で完結と宣言していたのを引き延ばすのに付け加えられたのかもしれません。その後、作者のブログの2014年7月8日の記事では、12巻で第1部( la premier partie de la serie Tara Duncan )を終えると言い出しました(その後の記事では、「第1期(第1サイクル): le premier cycle 」と言っていますが)。1年くらいしたら13巻というよりは第2期の第1巻を書くとか…結局は、売れてる限りいつまでも書くぞってことですね。
 その後、フォローしていなかったのですが、12巻で完結したはずの翌年に「13巻」がフランスで発売されていたようです。これまでは原書発売の翌年には日本語版が発売されてきましたが、13巻は原書発売(Amazon frによれば2015年9月24日)後2年7か月経過して出版されていませんから、日本語版は出ずに終わるかも。13巻の内容は、フランス語を読み解く気力が出ないのでまったく未確認です。
 1巻で「悪魔の宝」シリュールの玉座が破壊された後も、「悪魔の宝」は他にもいくつかある(3巻で明らかにされたところではシリュールの玉座、グルイグの剣、ドレキュスの冠、クラエトルヴィールの指輪、ブリュックスの王杖、クスルーの二重の斧、ヴロンの甲冑、ジセルの盾、ラオールの槍、サンティールの笛、マンタールの玉など13個だそうです:上巻57頁、下巻100~101頁。6巻では、悪魔の宝はすべて試作品で、シリュールの玉座は作り直され、まだ使用できる試作品は王座と王冠と指輪だけとされた思うと、実は13個のほかに悪魔のパンツと悪魔のシャツがあり15個だったと支離滅裂に:上巻98~99頁、下巻171頁、179~186頁。9巻で実はこうだったと、6巻での話との関係は説明されないままで、悪魔の宝はマジスターが着用している悪魔のシャツとタラが破壊したシリュールの玉座、ブリュックスの王杖(とクラエトルヴィールの指輪の試作品)の他にクラエトルヴィールの指輪、ドレキュスの冠、グルイグの剣が現存していたと整理されています:下巻177頁。10巻になるとラオールのヤリとヴロンの甲ちゅうが月の裏側に隠されていたとして登場します:上巻60頁。この悪魔の宝をめぐる説明の右往左往については、最終的に悪魔の王アルカンジュが12巻上299~301頁でさらに整理して一応矛盾がないように解説していますが)とされていますし、本の最初についている別世界の地図も「西側」と書かれていて5巻の上まで「西側」だけで話が進展してきましたが5巻上の巻末の地図で初めて「東側」の地図が登場し、世界が拡がるなど、その場しのぎふうに説明を変えながらお話が続いています。話があっちへ行ったりこっちへ行ったりするので最初からの展開をきちんと頭に入れて読める人はほとんどいないと思えます。そういうことへの配慮か、近刊では訳注でこのことは以前の何巻何章に書かれていると説明していますが。
 4巻上の付録の「別世界通信」で著者のサイトのFAQの一部が翻訳紹介され、その中で作者は「10巻分のシナリオはすでに私の頭の中にある」「マジスターの正体は最後の巻で明かされるわ。そこでダンヴィウを殺した理由もわかるはずよ」と答えています。最終巻までそれを引っ張られても・・・(ところで、7巻ではマジスターはダンヴィウを殺すつもりはなかった、いきなり飛びかかられたから慌てて光線を発してしまった、事故だったといっています(7巻下277~278頁)。素直に読む限り、7巻でもうマジスターがダンヴィウを殺した「理由」というかいきさつは明らかにされてしまっているように思えますが。そして、12巻を終えて、結局、マジスターの正体は明確にはされず、12巻では「ダンヴィヴを殺した理由」などまったくひと言たりとも言及されていません)。5巻上の付録の「別世界通信」で著者のブログの読者の質問に答える記事の一部が翻訳紹介され、そこでは最終巻(10巻)の最終章は17年も前に書き上げているとされています。そこまでハリー・ポッターを意識しなくてもと思いますが・・・。(4巻上の付録の「別世界通信」で紹介されているのは著者サイトのFAQ、5巻上の付録の「別世界通信」で一部紹介されている元の記事は著者のブログの2008年2月4日の記事です。どちらももちろんフランス語ですけど。「別世界通信」より詳しく知りたい方でフランス語が読める方はこちら(FAQ)とこちら(2008年2月4日の記事)をどうぞ。)
 お話そのものの面白さについては、きっと評価が2分されると思います。ハリー・ポッターを精読している読者にとっては、多くのエピソードにどこかで見たような感じがするでしょう。まあ、魔法使いのファンタジーを書こうと思えば考えることはそう変わらないということなんでしょうけど。
 主人公が女性で舞台がより大きくなり話の展開が速く他方やや緻密さが減ったハリー・ポッターだと考えればいいでしょう。ハリー・ポッターの2番煎じなら読みたくないと思う人は評価が低くなり、ハリー・ポッターの世界になじんでいてハリー・ポッターだけでは足りない(待ちきれない)人は面白いと評価するでしょう。 
 少女が主人公の冒険ものというと、強力な男性の仲間がいて闘いの場面ではその男性に頼りがちとか、圧倒的な指導者がいて主人公はその指示に従うだけなんてものが少なくありません。
 しかし、タラ・ダンカンは、仲間より強い魔力を持っていて、自ら先頭に立って闘います。タラ・ダンカン自身、子ども扱いされるのはいやなようで「カワイコちゃんですって!そんなふうに私を呼ぶのは禁止よ!」といっています(1巻上140頁。原作は見てません:フランス語ですので・・・ちょっとニュアンスはわかりませんけど)。また、5歳の時から「お嬢ちゃん」と呼ばれることをぞっとするほど嫌っているそうです(4巻上267頁)。指導者のシェム先生(シェムナシャオヴィロダントラシヴュ)はいますが、どこか頼りにならないところがあり、タラ・ダンカンは自分の判断で行動しています。3巻になると、14歳になったタラ・ダンカンはオモワ帝国の女帝の世継ぎとしてマジスターとの戦いを決断し、年長の大臣たちを説得したりもします。恋人のロバンや友人のカル、7巻では強力な戦士の謎の青年シルヴェールなどの男性キャラに助けられる場面もありますが、タラの方が男性キャラを救う場面も用意されていて、全体としてはタラの強力さの方が印象づけられます。(4巻でタラの異常に強い魔力がドラゴンによる遺伝子操作のためであることが明らかにされ、4巻の最後でタラの魔力が失われます。5巻の上でタラは自らの魔法が使えない状態が続きましたが、その間も「生きている石」やシャンジュリーヌを駆使して事実上魔法が使えるのと大して変わりませんでしたし、5巻の上の終わりで魔力が復活してさらにパワーアップされました。6巻でタラはバンパイアとなってしまい人間には戻れないはずでしたが、7巻ではバンパイアになったり人間に戻ったり自由に変身できるようになります。8巻ではさらに周囲の者や物に込められた悪魔のパワーを吸い取る呪文を獲得して、強烈なパワーを持つ黒の女王となります。タラの力は結局巻を追ってパワーアップする一方という感じです)
 そして、男性が主人公のファンタジーでは男性の仲間と恋人役がいるのが普通なのに、女性が主人公のファンタジーで女性の仲間がいることはほとんどありません。
 タラ・ダンカンではモワノー(グロリア・ダヴィール)という女性の仲間がいるという点も特筆すべきでしょう。しかも、このモワノーが華奢で内気な性格なので当初はありがちな主人公の引き立て役かと思っていたら、後には体長3mもあるクマと雄牛とオオカミをかけあわせたようなケダモノに変身し、力ずくの闘いにはモワノーが前に出ることになります。さらにモワノーの他に力持ちでけんかっ早い勇猛な小人ファフニール(ファフニール・フォルジャフー)も女性です。
 表現も女の子が読んで不快になるものはほとんどなく、気持ちよく読める・・・と思います。たぶん・・・(1巻、2巻あたりでは、言い切れたんですが)
(3巻になって容貌をめぐる表現や女の子だから泣いていいでしょというような表現が出てきますが、同時に男の子も同じとフォローされています。例えばモワノーがファブリスへの思いの中で「私のこと、きれいって思ってくれてるの?私はかわいい?それとも・・・ブス?」:3巻下171頁。タラがカルにアドヴァイスして「ルックスは重要だけど、最初のうちだけよ。」:3巻下132頁。ルックス重視の表現はどうかと思うけど男の子にも求めているので、まあいいか・・・。「それに私は女の子よ、女の子なんだから泣いてもいいでしょ?」:3巻下200頁「別に男の子だって泣いてもいいと思うけどさ」:同とかね・・・)
(巻を追って、映像化を意識してか、媚びたお色気シーンが増えてきている感じなのもちょっと気になりますけど。6巻では、スカートをはいたタラが逆さ吊りにされてピンクの下着が丸見え(上45頁)とか、ロバンのクリック(テレビ電話)に裸でバスタオルを巻いた姿で出るタラ(上160頁)とか、ロバンを全裸で誘惑するヴァラ(上157頁)とか、タラがシャワーを浴びているときにバスルームの壁を壊してシャワーを浴びるカリソン大使と鉢合わせ(下209頁)とか、なんかこれでもかこれでもかという感じ。7巻でもタラがシャワーを浴びている最中に停電となりすっ裸で幽霊と遭遇(上108頁)とか、マジスターの幽霊に体を乗っ取られたリスベス女帝が裸の体にシーツを巻いただけで駆け抜けていった(下272頁)とか同じ傾向が続いています)
 9巻では、巻を追ってお色気路線や男らしさ・女らしさを強調しがちな傾向にあったのを改めて、男女平等を強調しています。カルとタラ、カルとアマゾネスの戦闘訓練では対等で全力の(手加減しない)格闘が行われ(「敵に女も男もないからだ」)(上巻303頁)、「男たちが恐怖にものを言わせて女性たちを支配している」男社会の脱走兵団のナンバー2のヨンサンに対してタラに「モワノーもあなたより強いはずよファフニールだってそう。人にはそれぞれ、得意なことがある。女性を見くだすことは、人類の半分を見くだすことだわ。」と言わせ(下巻23頁)、老婆が指導者を殺害して新たな指導者になる様子を描いています(下巻40~48頁)。
 10巻では、カルとのロマンスも絡みお色気路線が目につきますが、サンドール将軍との武闘訓練で互角に戦い(上巻186~189頁)、タラが暗殺者を拷問するシーンでは「まったく、小娘のくせにこんなパワーを出せるなんて、信じられん」と言われたのに対して、「これまで何度も『女のくせに』とか『子供のくせに』といった言われ方をしてきたから、もう慣れっこになっている。それでもやはり、腹が立った。(女性や若者が強い魔力をもって、何が問題なの?失礼しちゃうわ!)」という反発を見せています(下巻140頁)。
 しかし、12巻では、宇宙船がマジスターの攻撃を受けて危機に陥った時、「カルはタラを守るようにして抱きかかえた。ファブリスはモワノーを、シルヴェールはファフニールを守った」として、さらにロバンがヴァラを、デミデュリスがサンヘクシアを、抱き寄せ、胸にかきいだいて守るというふうに、すべてのカップルで男性が女性を守るように描写されています(12巻上259~260頁)。戦闘能力に長けた女性キャラを、どうしてあえて全員が全員男性に守られるという形で描くのでしょう。キャラ設定から考えて、2つ3つ逆パターンを混ぜる微笑ましさや余裕があってよさそうに思えるのですが。 

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