◆女の子が楽しく読める読書ガイド◆
ゲド戦記
1巻から3巻は典型的にマッチョなファンタジーで、むしろ女性を見くだした表現も多い
4巻以降はゲドではなくテナーが主役で、ファンタジーとしては読みにくいが、フェミニズム的な志向が見える
外伝と5巻はテナーやテハヌーなど女性の生き様が活き活きと描かれていい
お薦め度:外伝と5巻はわりとお薦め/
アーシュラ・ル=グウィン作
1巻 影との戦い(原題 A WIZARD OF EARTHSEA) 1968年
2巻 こわれた腕環(原題 THE TOMBS OF ATUAN) 1970年
3巻 さいはての島へ(原題 THE FARTHEST SHORE) 1972年
4巻 帰還(原題 TEHANU) 1990年
外伝 ゲド戦記外伝(原題 TALES FROM EARTHSEA) 2001年
5巻 アースシーの風(原題 THE OTHER WIND) 2001年
オリジナル(英語版)には「ゲド戦記」の表記はなく、「ゲド戦記」は日本語版で独自につけられたシリーズタイトル。英語版ではBOOK OF EARTHSEAとかEARTHSEA BOOKSと表記されています。英語版ではEARTHSEAという場所での物語なのに、日本語版ではゲドという人の物語にタイトルが変えられているのです。4巻以降ゲドが活躍しなくなって、日本のファンからブーイングが出ている原因の1つはこの日本語版のタイトルにあるのではないかと思います。
1巻〜3巻は、魔法使いゲドの冒険物語で、ファンタジーとしての評価は高いです(2巻はゲドは少し重要度が落ちて、むしろアチュアンの巫女テナーの物語と読む余地もありますが、全体としてはゲドがエレス=アクベの腕環を持ち帰る英雄物語とされています)。1巻〜3巻は、ゲドを褐色の肌の有色人種とし敵役のカルガド人を白人とする点で人種差別問題は意識されていますが、性差別問題は全くといってよいほど気を遣っておらず、典型的にマッチョなファンタジーと評価できます。女はまじない程度でまともな魔法は使えないということが何度も出てきます。これ本当に女性の作家が書いたの?って思うくらい。
それでフェミニストから批判されて思い直して書いたのが4巻以降。4巻は若く美しい時代を過ぎ中年になってゲドと結ばれたテナーの生き様に焦点を当てた物語。ゲドは引退していて完全に脇役。4巻では差別されつつしたたかに生きるテナー(と虐待の傷を受けつつ希望の星となる養女のテハヌー)というのが主題になっているので、差別的な言い回しがさらに出てくるし、テナーたちの危機はテナー自身の努力によってではなく、王などのより強い男に救われます。女と子どもに対する差別と虐待の解決が基本的には正しい王の独裁下での治安取り締まりの強化という方向で図られることになっていると読み取れます。テハヌーが希望の星として選ばれること(作者が付けたタイトルにもそれは強いメッセージとして表わされています。日本語版ではあくまでゲドを主体として全く別のタイトルを付けていますが)も、テハヌーの努力や生き様によってではなく先天的に選ばれたもので、みにくいあひるの子のように読めてしまいます。
外伝と5巻では、そのあたりが改善されて、王は民主的になり、テナーの努力や、女の魔法使いの生き生きとした様子が描かれるようになります。
ただし、4巻以降はファンタジーとか冒険物語として読むにはちょっと苦しいです。
外伝と5巻は、お薦めしてよいと思いますが、難点は1巻〜3巻を読んでいないと話がわかりにくいし、外伝と5巻の良さを評価できないこと。あえて女の子が楽しく読むという観点からは難度の高い1巻〜3巻を読ませてまで・・・と思うと全体としてはお薦めしにくいですね。
それから、女の子の共感度は低そうな感じがします。中高年女性が読んで、「そうなんだよね、わかるわかる」というタイプの本だと思います(特に4巻はそう)。
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