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    ◆行政裁判の話
  行政法規のジャングル

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 行政処分に対する不服申立が、法律のどこでどのように規定されているか、例を挙げて説明します。
 行政不服審査法には、審査請求は処分があったことを知った日の翌日から3か月以内にしなければならないという規定があります(行政不服審査法第18条)。普通の法律の感覚なら、どの行政処分もこの規定で行けると思いますね。
 しかし、国民健康保険(自営業者の人の医療保険です)の支給などについて不服がある場合、国民健康保険法第99条に規定があって、実質的に同じ内容なのですがこちらの規定によることになります。さらに健康保険(会社勤めの人の医療保険です)の支給などについて不服がある場合(例えばけがや病気で働けなくなり休職しているときに傷病手当金の申請をして不支給の決定があった場合など)は、健康保険法第191条で行政不服審査法の規定を適用しないと明記しておきながら、健康保険法には不服申立(審査請求)の期間等の規定がありません。これを見たら動揺しますね。この場合、どこに規定があるかというと、社会保険審査官及び社会保険審査会法という法律の第4条に同じ趣旨の規定があるんです。こんなの普通気がつきませんね。
  労働者が業務中の負傷や業務が原因で病気(精神疾患も含め)になった場合の労災保険の支給などについて不服がある場合(労災申請をしたけど不支給決定があった場合など)、やはり労災保険法(労働者災害補償保険法)第39条で行政不服審査法の規定を適用しないと明記しておきながら、労災保険法には不服申立(審査請求)の期間等の規定がありません。この場合の審査請求の期間は労働保険審査官及び労働保険審査会法第8条に同じ趣旨の規定があります。
 労働者が失業した際の雇用保険(失業保険)の支給や、育児休業給付金の支給などについて不服がある場合(離職理由等によって給付制限=いつから受給できるかや給付日数=いつまで受給できるかに違いが出ますがその点について争いたい場合や、育児休業給付金の申請をして不支給となったり金額に不満がある場合など)、雇用保険法では第69条第1項で行政不服審査法の規定を適用しないとした上で、審査請求の期間は労働保険審査官及び労働保険審査会法第8条で定めています。
 これはまだ基本的な規定ですから、まだ見つかりやすい方です。
 行政法の規定は、まるでそれを取り扱う役所の人間以外にはわからないように作られているとしか思えないことがよくあります。しかも日本の福祉行政は、支給を積極的に請求して初めて支給するというものがほとんどです。できる限り庶民に気づかれず、請求されず、不満でも不服申立しにくいようにと考えて法律が作られているのではないかと疑ってしまいます。
※ここでは、行政法の規定のわかりにくさ、不親切さを説明するわかりやすい例として審査請求の期間に関する規定を取り上げていますが、行政処分に対する不服申立(審査請求)の期間や請求先については、行政庁は行政処分に際して教示する義務があります(行政不服審査法第82条)ので、処分を受けた人が実際に不服申立に困ることはあまりないでしょう。しかし、自分で法律・制度を調べてみようとすると、とてもわかりにくくできているのです。

  なお、行政不服審査の実情と私の経験はこちら→行政不服審査

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