◆ハリー・ポッターの謎◆
ホグワーツでは姿くらましはできないか?
私にとってハリー・ポッターシリーズ最大の謎は、混血のヴォルデモートがなぜ純血主義者スリザリンの承継者なのかでも、ましてやハーマイオニーが誰と結ばれるかでもない。
最大の謎は、ドビーがなぜホグワーツから姿くらましできたかである(現時点では、「であった」と過去形にすべきであるが)。
ホグワーツでは姿現わしも姿くらましもできない。「アズカバンの囚人」以来ハーマイオニーは何度もそう言っている。「ここでは『姿現わし』はできないわ。」(シリウス・ブラックの最初の侵入の後で:アズカバンの囚人214頁)、「ホグワーツの校内では『姿現わし』はできません。何度言ったらわかるの。」(ボーバトン代表団の登場方法を推測して:炎のゴブレット上376頁)、「ホグワーツの敷地内では『姿くらまし』はできないの。何度も言ったでしょ?」(クラウチが消えた後で:炎のゴブレット下322頁)、「ロン!学校の敷地内では、『姿くらまし』はできないの!」(同:炎のゴブレット下332頁)
ハーマイオニーだけではない。スネイプも「この城の中では『姿くらまし』も『姿現わし』もできないのだ!」と絶叫している(シリウス・ブラックが逃亡した後で:アズカバンの囚人547頁)。
「不死鳥の騎士団」ではさらにそれが強調される。ハーマイオニーは「ホグワーツの中では『姿現わし』も『姿くらまし』もできないの。ハリー、ヴォルデモートだって、あなたを寮から連れ出して飛ばせるなんてことはできないのよ」(不死鳥の騎士団下131頁)と語り、ヴォルデモートでさえホグワーツでは姿くらましができないという。そしてアンブリッジはダンブルドアが校長室からいなくなった時「『姿くらまし』したはずはありません。」「学校の中からはできるはずがないし−」と喚き(不死鳥の騎士団下317頁)、ダンブルドアでさえホグワーツでは姿くらましできないというのである。
「謎のプリンス」でもハリーが、ホグワーツでは「建物の中でも校庭でも『姿現わし』ができない」と言ったのに対してダンブルドアが「まさにそのとおり」と答えている(謎のプリンス上91頁)。ハリーとロンの会話でもハリーが「ここではどうせ『姿現わし』できないはずだ。城の中では・・・」と言っている(謎のプリンス下53頁)。他にもあるけど、拾うのが大変なものでこのあたりまで。
(もっとも、ダンブルドアがホグワーツで姿くらましをできないというのは疑問である。「謎のプリンス」ではハリーたちが姿現わしの連続講義を受けるが、その際、「ホグワーツ内では通常『姿現わし』も『姿くらまし』もできません。校長先生が、みなさんの練習のために、この大広間に限って、1時間だけ呪縛を解きました。」と説明されている(謎のプリンス下93頁。UK版359頁)。もともとホグワーツを守る魔法はダンブルドアがかけているのだから当たり前ではあるが、ダンブルドアはその魔法を解除できることが明言されている。従って、ダンブルドアもホグワーツでは姿くらましができないというアンブリッジの発言は、現在では維持できないはずである)
それにもかかわらず「秘密の部屋」では、ドビーがホグワーツの医務室(秘密の部屋268頁)と廊下(秘密の部屋498頁)から2度も姿くらましをしている。
映画「アズカバンの囚人」が公開されたとき、ドビーの件で説明不能のこの台詞をハーマイオニー役のエマ・ワトソンがどれくらい恥ずかしがらずに言えるか、私は密かに注目していたのだが、映画ではこの台詞は一度も登場しなかった(「謎のプリンス」でついにハリーの台詞で「学校では姿現わしはできません」とされ、それに対してダンブルドアが「ワシだけは特別での」と応じるシーンが登場した。屋敷しもべ妖精のこともよくわかっているダンブルドアが、ダンブルドアだけが例外と言ったということになると、後で述べる原作での説明とも合わなくなる。そのため、ますますこの問題は混迷の度を深めることになった)。
この問題は、長らくハリー・ポッターの本の中では、説明されなかった。
「不死鳥の騎士団」が出た後「謎のプリンス」が出る前の段階で、J.K.ローリングの公式サイト(当時)のFAQに、この問題についての解答が書かれた。
「屋敷しもべ妖精は魔法使いとは違います。独自の魔法を使っていて、屋敷の中で現れたり消えたりするのは、屋敷しもべ妖精が昔からしてきたこと、つまり人目につかずに仕事をするのに必要な能力なのです。」(House-elves are different from wizards; they have their own brand of magic, and the ability to appear and disappear within the castle is necessary to them if they are to go about their work unseen, as house-elves traditionally do.)
つまり、魔法使いはホグワーツで姿現わしも姿くらましもできないが、屋敷しもべ妖精はホグワーツで姿現わしも姿くらましもできるという。(公式サイトのFAQ日本語版は「屋敷の中で」と書いているが、英語版は the castle で(定冠詞のtheがつけられているので)ホグワーツを指している)
そして「謎のプリンス」では、第19章で、ドビーとクリーチャーが同時にホグワーツの医務室に姿現わしで登場し(謎のプリンス下147〜148頁、UK版392頁)、さらに第21章ではクリーチャー、ドビーがグリフィンドール談話室に次々と姿現わしで登場し(謎のプリンス下197頁、UK版422頁)、姿くらましした(謎のプリンス下202頁、UK版425頁)。
「死の秘宝」でついにハリー・ポッターの本の中でしもべ妖精と魔法使いの違いが明言されている。
ヴォルデモートが魔法で封じたためにダンブルドアでさえ姿くらましできなかった洞窟からクリーチャーが姿くらましでグリモールドプレイスに戻ったことを知って愕然とするハリーに対するロンの台詞「しもべ妖精の魔法は、魔法使いのとは違う。だろ?」「だって、僕たちにはできないのに、しもべ妖精はホグワーツに『姿現わし』も『姿くらまし』もできるじゃないか。」(死の秘宝上280頁)“Elf magic isn't like wizard's magic , is it?” “I mean , they can Apparate and Disapparate in and out of Hogwarts when we can't”(UK版161頁)
要するに魔法使いには姿現わしや姿くらましができない場合でも、屋敷しもべ妖精にはできるということ。
しかも、「死の秘宝」では、オリバンダーやルーナがあらゆることを試しても脱出できなかったマルフォイ屋敷の地下室から、ドビーが姿くらまし、それも魔法使いを3人連れて姿くらまししている(死の秘宝下121〜123頁、UK版379〜380頁)。そうすると屋敷しもべ妖精の力を借りれば魔法使いもホグワーツでも姿現わしや姿くらましができたということになってしまう。
そして、それならば当然に生じる、なぜ屋敷しもべ妖精を使ってホグワーツに忍び込もうとしなかったのかという疑問については、屋敷しもべ妖精にそういう能力があるとはヴォルデモートやデスイーターは知らなかった(動物並みに見下していたのでそんなことができるとは気づかなかった)というもの。「もちろんだわ。ヴォルデモートは、屋敷しもべ妖精がどんなものかなんて、気に止める価値もないと思ったのよ。純血たちが、しもべ妖精を動物扱いするのと同じようにね・・・あの人は、しもべ妖精が自分の知らない魔力を持っているかもしれないなんて、思いつきもしなかったでしょうよ。」(死の秘宝上280〜281頁)“Of course , Voldemort would have considered the ways of house-elves far beneath his notice , just like all the pure-bloods who treat them like animals ... it would never have occurred to him that they might have magic that he didn't.”(UK版161頁)、「ヴォルデモートは、自らが価値を認めぬものに関して理解しようとはせぬ。屋敷しもべ妖精やお伽噺愛や忠誠、そして無垢。ヴォルデモートは、こうしたものを知らず、理解しておらぬ。まったく何も。」(死の秘宝下485頁) “That which Voldemort does not value , he takes no trouble to complehend. Of house-elves and children's tales , of love , loyalty and innocence , Voldemort knows and understands nothing. Nothing.”(UK版568頁)
一応、説明としては完結している。それで謎は解かれたということで「では、なぜ屋敷しもべ妖精を利用しないの?」という疑問(Q5−2:2005年5月14日追加)は削除することにした(2007年7月28日削除)。でも・・・やっぱり、なんか、私には釈然としないものが残る。
注:ローリングの公式サイトの引用について
シリーズが完結した後、ローリングの公式サイトをチェックしていませんでしたが、いつのまにかローリングの公式サイトが全面リニューアルされて、ハリー・ポッターに関する詳細情報が抹消されていました。その当時の公式サイトの説明(これもさらにリニューアルされた現在の公式サイトでは、もう見当たりません)によれば、ハリー・ポッターに関する詳細な資料は「potter more」に移されたということですから、引用した内容は、たぶん「potter more」のどこかにあると思います。しかし、「potter more」はメンバー登録してユーザーネームとパスワードを入れてサイン・インしないとみることができないサイトですので、たぶん該当箇所を見つけてリンクを張っても無意味ではないかと思われること、私自身一応登録してみてみましたが、日本語ページはなく、しかも第1巻第1章から順を追ってみていかないと先を見ることができないシステムで、該当箇所を見つけるのにものすごい労力を要することから、かつてリンクしていた記載を特定することができていません(potter more もまた2015年9月にリニューアルされたそうですし、さらに映画「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」の公開に合わせてそれに関する部分だけは日本語ページもできた模様ですが、その内容まではフォローできていません)。そのため、引用か所についてリンクをしていませんが、以上のような理由ですのでご了承願います。
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