◆活動報告◆
オウム犯罪被害者給付金の手続
2008年6月18日に成立した「オウム真理教犯罪被害者等を救済するための給付金の支給に関する法律」に基づいて、松本サリン事件、地下鉄サリン事件等のオウム真理教犯罪の被害者に対する給付金の支給手続が2008年12月18日から開始されました。
ここでは、被害者の方が、この給付金を受給するための手続について簡単に説明します。
給付金を受けることができる人は誰?
地下鉄サリン事件、松本サリン事件とその他の6件の特定の人を標的としたテロ事件(坂本弁護士一家殺害事件、目黒公証役場事務長監禁致死事件等)の被害者と遺族です。
被害者(生存被害者)の場合は、当然本人が給付金を受けることになります。
遺族の方は、給付金を受ける人の優先順位が相続の場合と違うのでちょっとややこしいんです。これは、事件で殺された人の遺族の場合も、事件の被害者がその後亡くなったためにその遺族が申請する場合も同じです。
給付金を受けることができるのは、次の順番で一番上位の人です。
@死んだ人の配偶者(妻、夫)。婚姻届を提出していないけど事実上夫婦の関係にあった場合(内縁関係)も含む。A死んだ人に生活費を出してもらっていた子、B死んだ人に生活費を出してもらっていた養父母、C死んだ人に生活費を出してもらっていた実父母、D死んだ人に生活費を出してもらっていた孫、E死んだ人に生活費を出してもらっていた祖父母、F死んだ人に生活費を出してもらっていた兄弟姉妹、G死んだ人に生活費を出してもらっていなかった子、H死んだ人に生活費を出してもらっていなかった養父母、I死んだ人に生活費を出してもらっていなかった実父母、J死んだ人に生活費を出してもらっていなかった孫、K死んだ人に生活費を出してもらっていなかった祖父母、L死んだ人に生活費を出してもらっていなかった兄弟姉妹です。
この給付金を受ける人の優先順位は、犯罪被害者等給付金と同じで、そちらの制度に合わせたものです。例えば、死んだ人に内縁の妻と兄弟姉妹がいた場合(子と父母はいないということ)、相続では兄弟姉妹だけが相続人となりますが、給付金は内縁の妻だけが受給権者となります。また、死んだ人から生活費をもらっていなかった子と生活費をもらっていた兄弟姉妹がいた場合は、相続では子のみが相続人となりますが、給付金は兄弟姉妹だけが受給権者となります。このあたりが一番間違いやすそうですね。
同順位の人が複数いる場合は、国側は申請した1人に全額支給できる扱いになっています。遺族が仲がいい場合は、1人が代表で申請すればいいわけですが、仲が悪い場合は、早い者勝ちということになりかねず、問題になりそうです。
給付金の金額は?
死亡者については2000万円
介護を要する1級または2級の後遺障害者は3000万円
それ以外の1級〜3級の後遺障害者は2000万円
4級〜14級の後遺障害者は500万円
通院1ヵ月以上の者は100万円
通院1日以上1ヵ月未満の者は10万円
後遺障害の等級は交通事故の際の後遺症認定等級と基本的に同じものです。
申請の窓口は?
給付金は、申請をしなければ受けられません。
申請の窓口は、申請をする人、要するに給付金を受ける人の住所地の都道府県公安委員会、つまり都道府県警察です。
松本市など長野県にお住まいの方は長野県警ということになります(長野県警の場合、警務課 電話026−233−0110 が担当だそうです)。
申請に必要な書類は?
理屈としては、本人確認の書類と、被害の程度、その被害が地下鉄サリン事件や松本サリン事件によることについての資料がいることになりますが、実際の運用では、多くの人については本人確認のための書類と印鑑だけ持っていけば済むようになります。
具体的には、破産手続で届出をした被害者、労災認定を受けた被害者、犯罪被害者等給付金を受けた被害者、これらの手続を受けていない被害者でも刑事事件の起訴状に記載されている被害者の場合は、それらの手続で認定された被害の程度を前提として申請する限りは、被害の程度やその被害が地下鉄サリン事件や松本サリン事件によることについての書類は不要という扱いがなされます。つまり、破産手続で債権届出した方はもちろんのこと、これまで破産手続等に全く関与してこなかった方でも起訴状の被害者リストに載っている方の場合、基本的には本人確認の書類と印鑑だけで大丈夫のはずです。ここでいう起訴状は、検察側が被害者を絞って審理を促進するための一部取り下げをする前の最初の起訴状のことです。
ただし、破産手続等で認定された被害の程度(後遺障害の等級とか通院日数)とは違う前提で申請をする場合、実質的には後遺障害の認定がされていない人が後遺障害があると主張するとき、4級〜14級の後遺障害と認定された人が実際は1〜3級とか介護を要する1級または2級の後遺障害だと主張するとき、1ヵ月未満の通院と認定された人が1ヵ月以上の通院をしたと主張するときには、被害の程度等について資料を要求されることになります。
その場合、事件からずいぶんと年数がたっているので病院に行ってもカルテがないとかいうことが考えられます。その点については、私たちが特別立法の過程で強く要請していたことが反映されて、この法律では「オウム真理教犯罪被害者が置かれている状況を踏まえて申請者に対して過重な負担を課することのないようにする観点から」「事案の実情に即した適切な判断を行うものとする。」という言葉が盛り込まれていますから、一般の行政での認定よりはかなり柔軟な姿勢で認定が行われるものと私たちは信じています。この点については、認定の実務作業の話になりますので個別のケースに応じての判断となり、一般的にはいいにくいところがあります。具体的な認定に注目したいと思います。
被害者が死亡してその遺族が申請する場合は、被害者の死亡と申請者と遺族の関係についての書類が必要になります。これは多くの場合、戸籍(除籍)謄本で足りると思います。
書類としては、もちろん、「オウム真理教犯罪被害者等給付金支給裁定申請書」を作成して提出することになります。この書式が、素人にはかなりわかりにくいものなのですが、これは実際には、申請のために警察に行ったときにその場で担当者の説明を受けながら書くことになりますので、事前に準備することもありませんし、特に困ることはないと思います。
申請から給付金支給までの期間は?
これについては、警察庁サイドも具体的な説明はできない状態で、現実にやってみなければわからないし、ケースバイケースだとしか言えないという態度です。特に破産手続等で認定されている被害の程度と異なる主張をする場合は相当程度時間がかかると考えられます。
破産手続等で認定されている被害者がすでにそれらの手続で認定されている被害の程度を前提に申請する場合で、被害者本人が請求する場合(被害者本人が死亡してその遺族が請求する場合でなければ:遺族の請求の場合、上で説明した給付金を受けられる人の調査に時間がかかる場合があると思われます)であれば、申請から1〜2ヵ月で受給できそうです。
申請の受付期間は?
原則として2008年12月18日から2010年12月17日までの2年間です。
給付金の受け取り方法は?
申請後に、給付金が出るという裁定書が郵送で送られてきます。その際に支払請求書が同封され、そこに書き込んで指定した自分名義の銀行口座に振込で入金されることになります。
給付金の税金は?
給付金には税金はかからないことになっています。
で、実際にはどうすればいいの?
現実的には、お住まいの地域の都道府県警察本部にまず電話をします。電話連絡先の一覧はこちら(警察庁のHP)。制度そのものについて詳しく知りたい方は警察庁03−3581−0141(内線2841)に電話すると詳しい担当者が説明してくれるそうです。
まず電話で地元の都道府県警察の担当者に名前と生年月日等を伝えて自分が被害を受けた事件や当時の住所、遺族の場合被害者との関係等を話し、そういうやりとりの中で、自分の場合に現実に必要な資料等を確認し、日時等を予約して申請に行くということになります。この電話でのやりとりで、実際にはほとんどの話が済んで、申請の日は、面談して意思確認をして書類を書いてもらうというだけという場合が多くなるようです。
当時の住所については、警察側では、本人確認の意味で聞くことになります(刑事事件の起訴状のデータとの照合で行くと当時というか起訴時の住所になるわけです)が、松本サリン事件の場合、住宅地での深夜の犯行で被害者の大部分が自宅で被害にあっていますから、被害者であることの確認の意味も持ちます。ただ、14年前の住所を正確に覚えていないということはごく普通にあり得ますので、住所が多少間違ったりうろ覚えであってもそれを厳しく言わないように、私たちは求めており、警察側でも柔軟に運用してもらえると聞いています。
代理人による申請もできますが、現実的には、難しい手続ではないと思いますので、費用をかけなくても警察の担当者の説明を受けながら自分でできると思います。ただ、破産手続等で認定された被害の程度と異なる主張をしたいという場合は、弁護士に相談・依頼した方がいいのではないかと思います。
実際に申請に立ち会ってみての感想は「オウム犯罪被害者給付金申請の実情」を見てください。
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