庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

活動報告:原発裁判
浜岡原発2号機に入りました
 2005年7月13日、裁判所の行う現場検証の下見として浜岡原発2号機に入りました。
 この裁判は、浜岡原発の1号機から4号機までについて東海地震が起こるまでの間運転を差し止めることを求めるものです。主な争点は、東海地震が起こった場合、浜岡原発で周辺住民に被害を与えるような事故が発生するかということです。
 私は、これまでこの裁判を担当しておらず、この検証の段階で復代理人として参加しました。復代理人というのは、当事者の代理人である弁護士から依頼されてその弁護士に代わって仕事をする人です。
 中部電力は下見の最初の段階で、浜岡原発は重心が低い構造になっていると説明しました。しかし、使用済核燃料プールの下見で、水と燃料ラックであわせて2400トンもの重量があり、建屋の最上階に2400トンもの荷重のある重心の高い構造であることが明らかになりました。定期検査中だとさらにこの他に仮置きプールや炉心上部にも水を張りますのでさらに大きな荷重が建屋最上階に集中することになります。
 制御棒駆動水圧系の下見では、緊急停止のために制御棒を押し込む水が通る配管に手動のバルブがあることが判明しました。もしこれを間違って閉めてしまったら緊急停止信号が出ても制御棒が入らないということになりかねません。どうしてこんな緊急停止用の配管に手動のバルブが設けられているのですかと質問しても、中部電力の説明員は「わかりません」というのみでした。そのあたりのバルブには「操作・禁止」と書いた札が下がっているものが相当ありましたが、緊急停止用の配管の手動バルブでもその札がかかっていないものが多数ありました。私がさらに「このバルブを間違って閉めたら緊急停止信号が出ても制御棒が入らなくなりますよね」と聞いたら、中部電力の代理人の弁護士が「仮定の質問には答えられません」と遮りました。
 さらに制御棒を押し込んだ水が排出される側にはスクラム排出容器があり、こちらに水が排出されないと緊急停止に失敗します。アメリカのブラウンズフェリー3号機という原発でスクラム排出容器に水がいっぱいになっていたために緊急停止に失敗した事故がありました。下見ではスクラム排出容器自体は見せてくれたのですがそこに入る配管の様子が見えなかったので、どこでどういう形で入るのか、どこからなら見えるのかを聞いていたら、中部電力の代理人が「そんなに細かく質問しないでください」と遮りました。緊急停止という原発で非常に重要なことについての質問でしたが、中部電力は答えたくなかったようです。
 格納容器に入ると、中は非常に機器や配管がぎっしりと入っていて人が通る隙間が非常に狭いことが印象的でした。再循環系配管という沸騰水型原発では非常に重要な配管も、最初から最後までたどっていくことは非常に困難で、配管全部の健全性(割れ等がないか)の検査は非常に困難に思えました。主蒸気系の配管に至っては最初から最後までたどるとかいうことはおよそ無理な話に思えました。
 再循環系配管で非常に印象的だったのは、溶接部以外にもグラインダーをかけて表面を削った跡がとても多かったことです。近年グラインダー加工した表面が起点となって応力腐食割れが進展したことが問題になっていますし、そうでなくても材料の品質の観点からグラインダーをかけることはよくないと考えられています。どうして溶接部以外にもあちこちグラインダーをかけるのかも聞きましたが、中部電力の説明員は「わかりません」というだけでした。
 再循環系配管に錆びた金属の輪がはめられているので、何かと聞いたら、その輪に棒状の金属が付けられていて、細い配管のサポートにしているということでした。再循環系配管はステンレスです。種類の違う金属を接触させておくことは金属の腐食の原因になります。細い配管のサポートを取るために、より重要な再循環系配管にそういうリスクを犯すという神経には、びっくりしました。
 最後に、ペデスタル部という原子炉圧力容器の下側に入りました。この部分は放射線のレベルが高いので、黄色の防護服に、酸素マスク、2重のゴム手袋、2重の靴下を通常の防護服(青服)の上に着る重装備で入りました。中部電力側の最初の話では、今日の下見ルートの通りに実施してもアラームが鳴ることはないとされていました。ところが、この日は被曝に注意して格納容器内では予定時間よりも短め短めに進めたにもかかわらず、ペデスタル部に全員がやっと入ったところですぐほぼ全員のポケット線量計のアラームが次々と鳴り、全員退却となってしまいました。元々の予定ではペデスタル部で10分を取っていたのですが1分も持たずに設定値を超えてしまったのです。浜岡原発2号機では中部電力がいっていた(把握していた)よりもずっと放射線レベルが高かったのです。私の被曝量はアラーム設定値の0.05ミリシーベルトでした(他の人もほぼ同じだったようです)。
 今後、この日の下見の経験を踏まえて検証ルートや対象を再検討して、2005年9月1日に本番の検証が行われることになっています。

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