◆活動報告:原発裁判(柏崎刈羽原発運転差し止め訴訟)◆
免震重要棟耐震虚偽説明問題をきっかけに
●本件原発(柏崎刈羽原発)の重大事故対策の欠陥が判明
免震重要棟は大地震に耐えられない→使用不可(東電は使用を断念、規制庁も重大事故時の使用を許容しない)
5号炉原子炉建屋内緊急時対策所にも重大な欠陥
本件原発にはまともな緊急時対策所がない!
●被告(東京電力)の重大事故対策が根幹部分で破綻:荒浜側防潮堤に続き、緊急時対策所も!
→本件原発の重大事故対策の有効性全般に重大な疑問(東京電力の安全対策立案・実施能力に疑問)
●被告(東京電力)の虚偽説明(またしても)→対策の信用性に疑問
基本的に裁判所に提出した準備書面のままですが、一部解説を差し込んだり、表現を変えた部分もあります。
第1 はじめに:免震重要棟の耐震性についての虚偽説明の発覚
被告(東京電力)が、本件原発(柏崎刈羽原発)の重大事故時の対応の拠点と位置づけ、重大事故対策の要の1つとしてきた免震重要棟が、被告の説明に反して、震度7/基準地震動(Ss)に耐えられず、被告はその解析結果を得ながら長らくそれを原子力規制委員会の「適合性審査」でも隠し続けてきたことが、2017年2月14日の適合性審査会合(第442回)の場で発覚した(2017年2月15日付新聞各紙の報道)。
すなわち、被告が2013年12月に行った解析で免震重要棟は7つのSs(基準地震動)のうちSs−2とSs−3には耐えられるがそれ以外の5つには耐えられないという結果が出ており、さらに2014年4月に行った解析では7つのSs(基準地震動)のどれにも耐えられないという結果が出ていたが、原子力規制委員会に対しては、一部の基準地震動に対し基準を満足しない場合があるという、大部分の基準地震動には耐えられるかのような説明をしていた。
その虚偽説明が発覚したため、被告は、2017年2月21日の適合性審査会合(第444回)で免震重要棟を緊急時対策所としないことを宣言し、本件原発の緊急時対策所は5号炉原子炉建屋内緊急時対策所のみとなった。
なお、被告は、原子力規制委員会に対しては一部の基準地震動に対しては耐えられないことを述べていたが、本訴ではそのような言及はせず、「震度7クラスの地震が発生した場合においても緊急時の対応に支障を来すことがない」との主張を続けてきた(被告準備書面(2)、同(10)、同(11))。
この問題は、大きく分けて2つの側面がある。
1つは、重大事故時の対応拠点となる緊急時対策所として免震重要棟が使用できなくなり、後述するように唯一の緊急時対策所となった5号炉原子炉建屋内緊急時対策所にも致命的な欠陥があるため、本件原発にはまともな緊急時対策所が1つもなく重大事故対応に大きな支障があり、安全対策に重大な欠陥があること、さらにいえば、津波対策の要であった防潮堤が大地震に耐えられないことが発覚したことと合わせて被告の重大事故対策の根幹部分が破綻したことである。これについては、本準備書面の第2〜第4で論じる。
もう1つは、原子力規制委員会及び本訴での被告の説明がまたしても虚偽であり、被告の主張全般の信用性に深刻な疑問を生じ、しかも被告が原子力規制委員会に虚偽説明を糊塗するために言いだした言い訳から、被告の他の主張の信用性、特に解放基盤表面(地中深くの岩盤)から建屋基礎版までに地震動が減衰するという被告の耐震設計上の主張の根幹にかかわる点にも疑問を生じていることである。これについては第5及び第6で論じる。
第2 震度7/基準地震動に耐えられない免震重要棟
1 重大事故対応における免震重要棟の重要性
被告は、福島原発事故についての被告の総括である「福島原子力事故調査報告書」(2012年6月20日)の「14.事故対応に関する設備(ハード)面の課題の抽出」「14.3 炉心損傷事象に対する課題のまとめ」の最後に「このように、これらのプラントが燃料冷却等に成功した要因は、代替注水、電源融通を含めた電源の確保等のアクシデントマネジメント策をはじめ、ほぼ事前に想定した事象の対応の考え方及び手順に沿って対応できたことや、新潟県中越沖地震の教訓として免震重要棟を当社のすべての原子力発電所に設置していたことなどが挙げられる。」「特に免震重要棟は、緊急時対応のために設置した免震構造の施設で、震度7クラスに耐える設計としており、通信設備、TV会議システム、自家発電設備や高性能のHEPAフィルタ付きの換気装置などを装備し現地事故対応の拠点となったが、仮に本施設がなければ福島第一原子力発電所の対応は、継続不可能であった。」(同報告書318ページ)と記載し、免震重要棟がなければ福島原発事故への対応は継続不可能であったと評価している。
原子力規制委員会は、福島原発事故を受けて策定した規制基準(設置許可基準規則第34条、第61条)及びその「解釈」で、「一時冷却系統に係る発電用原子炉施設の損壊その他の異常が発生した場合に適切な措置をとるため」緊急時対策所を設けなければならないとし、緊急時対策所は「重大事故等が発生した場合においても当該重大事故等に対処するための適切な措置が講じられるよう」「基準地震動による地震力に対し、免震機能等により、緊急時対策所の機能を喪失しないようにする」こととともに、その居住性(作業者の被ばく防止)に関して、福島原発事故と同等の放射性物質放出があった場合においても対策要員の実効線量が7日間で100mSvを超えないことを要求している。
被告は、本件原発6号炉及び7号炉の再稼動申請(2013年9月27日)にあたり、免震重要棟を、原子力規制委員会が求める緊急時対策所とした。(図1で、免震重要棟を「緊急時対策所(標高13m)」と記載している)
図1 「柏崎刈羽原子力発電所原子炉設置変更許可申請の概要について(6号及び7号原子炉施設の変更)」(2013年11月21日:同日の第50回適合性審査会合資料2−1パワーポイント資料右下ページで5ページより)
2 免震重要棟の耐震性
被告は、2013年の再稼動申請後に、当時の7つの基準地震動を建屋の基礎版下に直接入力して検討したところ、免震重要棟においては水平方向の揺れ幅(変位)が85cmに達すると隣接の構造物(擁壁)に衝突するため75cmを基準としているが、Ss−2とSs−3についてのみ基準の75cmを下回った(それ以外は基準を上回った)(第442回適合性審査会合議事録30ページ、33ページ、「柏崎刈羽原子力発電所6号及び7号炉緊急時対策所の位置づけについて」同会合資料1−1−6:パワーポイント資料右上のページで3ページ参照)。この際、残りの5つの基準地震動での解析結果(水平変位)は、適合性審査会合では示されていないが、毎日新聞の取材によれば94〜144cmであった(2017年3月25日付毎日新聞記事)。これらの基準地震動(Ss−1=F−B断層・応答スペクトル、Ss−4〜Ss−7=長岡平野西縁断層帯・断層モデル4パターン全部)では、免震重要棟は隣接の構造物に衝突して建物自体が損傷する危険があるということになる。
さらに、2014年に解放基盤表面に(西山層とそれより深い部分すなわち解放基盤表面の地下284mから西山層上面の地下42.95mまでは、1号炉の地盤データを流用して)基準地震動を入力したところ、すべての基準地震動について、免震重要棟の水平変位が75cmを上回った(第442回適合性審査会合議事録31ページ、「柏崎刈羽原子力発電所6号及び7号炉緊急時対策所の位置づけについて」同会合資料1−1−6:パワーポイント資料右上のページで4ページ参照)。このときの解析結果は、適合性審査会合では示されていないが、毎日新聞の取材によれば93〜453cmであった(2017年3月25日付毎日新聞記事)。いずれも、基準を超えているというだけでなく、免震重要棟が隣接の構造物に衝突するという結果であり、免震重要棟の建物自体が損傷する恐れがあるということになる。
これらの解析結果からして、本件原発の免震重要棟が、基準地震動のいずれにも耐えられず、現実に建物が損傷する恐れがあり、震度7の地震に耐えられないことが明らかである。
3 被告の言い訳の信用性
被告は、2017年2月14日の第442回適合性審査会合で更田委員らの不興を買ったため、虚偽説明の事実を糊塗するために、原子力規制委員会に対しては、2014年の解析の信頼性が低いと説明をしている。すなわち被告の姉川常務執行役は、2017年2月23日の第445回適合性審査会合で、2014年の解析について社内で「そもそも解析自体の内容についてきちんと確認しないと、実際の審査会合で使えるような信頼性のあるものではないというふうにして、説明資料としては却下していました。」などと説明している(第445回適合性審査会合議事録14〜15ページ)。
しかし、もし2014年段階で「解析自体の内容についてきちんと確認しないと」という判断がなされていたのであれば、それから2年あまりも何ら確認されなかったこと自体がおかしく、被告の説明は原子力規制委員会の怒りをそらすためのその場しのぎのものと解される。現に、毎日新聞の取材に対して、被告の担当者は2014年の解析の信頼性を問題にすることなく、免震重要棟の耐震性が「ハシにも棒にもかからない」と述べ(2017年3月25日付毎日新聞記事)、稲垣武之設備計画グループマネージャーは2014年の試算は信頼性が低いとみて規制委員会に出さなかったとの被告の釈明に疑問を呈している(同)。
次に述べるように、被告がまず自ら震度7では免震重要棟は使用しないと申請し、次いで免震重要棟を緊急時対策所から外したことからしても、2014年解析の信頼性が低いかのようにいう被告の説明は、被告自身が信じておらず、免震重要棟が基準地震動のいずれにも耐えられないという2014年解析は信頼性があるものというべきである。
4 免震重要棟の重大事故時使用の断念
被告は、免震重要棟が基準地震動に耐えられないため、まず2016年12月15日の第422回適合性審査会合で、震度7の場合は免震重要棟は使用しないとした(第422回適合性審査会合議事録27ページ)。
次いで、被告は、2017年2月21日の第444回適合性審査会合において、姉川常務執行役が、免震重要棟を緊急時対策所とすることを取りやめ、自主設備とし、5号炉原子炉建屋内緊急時対策所が使用できずかつ免震重要棟の健全性が確認できた場合にのみ使用すると述べ、これに対し、規制庁側から少なくとも重大事故等範囲においては免震重要棟を使うことは許容できないと指摘された(第444回適合性審査会合議事録4〜5ページ)。
こうして、本件原発では、重大事故時の対応拠点としては、(原子力規制委員会が本件原発の基準適合性を認めた場合でも)法的には5号炉原子炉建屋内緊急時対策所のみが許容され、免震重要棟は使用できないことになる。
なお、被告が免震重要棟の併用を断念したことについては、被告が2017年4月28日に新潟県内の各戸に新聞の折り込みチラシとして配布した「東京電力通信臨時号」にも「免震重要棟は中越沖地震相当の地震に耐える設備として2009年に竣工して以来、現在もその耐震性に変わりはありませんが、2013年に新規制基準が発効し、この基準を満足しないことが明らかになりました。このため、追加設置する原子炉建屋内の緊急時対策所との併用を審査会合で説明してまいりましたが、最終的には、併用で新規制基準を満足することは困難と判断するに至り、免震重要棟を緊急時対策所として使用することを断念いたしました。」と明示している。
5 まとめ
被告が、重大事故時の対応拠点として主張し、外部に向けて喧伝していた免震重要棟は、現在では、大地震(震度7/基準地震動)には耐えられないことが判明し、法的にも緊急時対策所として使用することができないものとなっている。
第3 5号炉原子炉建屋内緊急時対策所の欠陥
1 はじめに
2017年2月21日の適合性審査会合で被告が免震重要棟を緊急時対策所として使用しないこととした結果、本件原発では、重大事故時に使用しうる緊急時対策所は5号炉原子炉建屋内緊急時対策所のみとなった。
5号炉原子炉建屋内緊急時対策所については、原子力規制委員会においてもその狭さや6号炉に近すぎることが指摘されており、また免震構造でないことへの疑問があるとともに、その設置場所に極めて重大な問題を孕んでいる。
以下、その問題点について各別に論じる。
2 緊急時対策所としての狭さ
5号炉原子炉建屋内緊急時対策所の面積は約318m2であり、放射性物質放出時の被ばく対策を施した対策本部用の部屋は約140m2で、収容人員は69名である(第422回適合性審査会合議事録8〜9ページ)
これに対しては、規制庁側からも、緊急時対策所の参集要員は200名前後になるはずだが大丈夫なのか、本部面積はそれ以前に計画していた(が荒浜側防潮堤の液状化問題で撤回されて5号炉に差し替えられた)3号炉原子炉建屋内緊急時対策所の2/3になってなおかつ収容人数が増えるという設計になるのかと疑問を呈されている(第422回適合性審査会合議事録21ページ)
3 6号炉との近さ
5号炉原子炉建屋内緊急時対策所は、6・7号炉の中央制御室から直線距離で約200mの距離にある(第422回適合性審査会合議事録8ページ)。
この点に関しては、規制庁側から、「まず、やはり、なぜあえて、6、7号の近くの5号を選んだか」「今まで、これまでの3号緊対、免震棟の説明の際に、東電として主張されていたというのは、なぜ― ― まあ、遠いという問題点が指摘されていたわけですよね。それに対して、距離を遠くとることのメリットというのをすごく強調されていたと思います。被ばくを低減できるというメリットを提言されていた。」という疑念が示されている(第422回適合性審査会合議事録16ページ)。
4 免震構造でないことの問題点
5号炉原子炉建屋内緊急時対策所は、耐震構造として設計され、免震構造ではない。その結果、強い地震動に対して建物が損傷しないとしても、その地震動自体はそのまま建物内部に伝達される。そうすると、建物内部の設備類が壊れたり倒れたり飛ばされたりして内部がめちゃくちゃになり、内部にいる人が負傷する危険がある。
東日本大震災・福島原発事故の際も、福島第一原発の事務本館等の建物は倒壊するなどしたわけではなく、内部の設備・機器が破壊されたり倒れたり飛ばされてめちゃくちゃになっていたから使えなかったもので、免震構造の免震重要棟は揺れ自体を抑制できたために内部に異常がなく、事故対応の拠点として活用できたのである。
被告が免震重要棟の使用の断念に追い込まれたことに関し、新潟日報の取材に対して、元原子力技術者の佐藤暁氏は「原発の機械を守るなら耐震でもいいが、人が作業する緊対所は免震にすべきだ。緊急時に適切に判断するには安定性が必要で、免震をないがしろにする選択は正しくない」と述べている(2017年3月26日付新潟日報記事:ネット上はもう見つけられませんでしたm(_ _)m)。
5 5号炉原子炉建屋内緊急時対策所の設置場所の誤り
5号炉原子炉建屋は地下4階・地上4階建てで、5号炉原子炉建屋内緊急時対策所は地上3階に設置される(「5号炉原子炉建屋内緊急時対策所の耐震設計について」2ページ)。
本件原発の5号炉の原子炉建屋は、「原子炉棟」の外側に「付属棟」が取り巻く形になっており、5号炉原子炉建屋内緊急時対策所の設置場所は、「付属棟」内(「原子炉棟」外)の図2で赤で示したところ、さらにいえばタービン建屋側(西側)の北寄りの部分と推定できる。
図2 「5号炉原子炉建屋内緊急時対策所の耐震設計について」5ページの図に原告ら代理人が加筆
5号炉原子炉建屋内緊急時対策所の設置場所は、図3のとおりマスキングされているので、3階フロアのどこかは、正確には特定できない。
図3 「5号炉原子炉建屋内緊急時対策所の耐震設計について」6ページより
本件原発5号炉の3階は、オペレーションフロア(図2で「燃料取替床」と表記されている)の1つ下で、オペレーションフロアを除く最上階である。
福島第一原発4号機は、地上5階建てで、オペレーションフロアは5階なので、本件原発の5号炉原子炉建屋内緊急時対策所が設置される場所は、福島第一原発4号機で言えば、4階に当たる。なお、福島第一原発4号機の原子炉建屋には「付属棟」はなく、本件原発の5号炉の「原子炉棟」の壁がそのまま原子炉建屋の外壁となっている。
福島原発事故の際には、定期検査中で原子炉が運転中ではなかった4号機においても水素爆発が発生した。その水素爆発の原因について、被告は3号機で発生した水素が回り込んだと「推定している」(「福島第一原子力発電所4号機『原子炉建屋』及び『使用済燃料プール』の健全性について」6ページ)が、最終的な原因の解明や爆発の機序の解明、定量的な分析は未だになされていない(被告が福島原発事故の未解明問題の解明のために作成発表している報告書の最新版の「第4回進捗報告」においても、水素爆発に関してはまったく進展がない:添付2−12ページ課題リストNo.共通−11参照)。
図4は、被告が作成した福島第一原発4号機の水素爆発による破壊状況と建屋のフロアの関係図である。
図4 「福島第一原子力発電所4号機原子炉建屋の外壁の局所的な膨らみを考慮した耐震安全性に関する検討に係る報告書」添付資料1の3ページより
この写真と被告による解説から、福島第一原発4号機では、水素爆発により4階部分の外壁が吹き飛び崩壊していることが明らかである(なお、「福島第一原子力発電所4号機『原子炉建屋』及び『使用済燃料プール』の健全性について」11ページ=後掲図6にも同様の解説をした写真が掲載されている)。
被告が公開している写真では、福島第一原発4号機の西面と南面の外壁のみが撮影されているが、東面と北面も4階部分の外壁は同様に破壊されている。
図5 「福島第一原子力発電所4号機『原子炉建屋』及び『使用済燃料プール』の健全性について」9ページより
被告が2012年8月30日付で作成した4号機の損傷状況についての報告書(「福島第一原子力発電所4号機『原子炉建屋』及び『使用済燃料プール』の健全性について」)では、9ページに図5の記載があり、4階はタービン建屋側の東面が全部について「全壊」(茶色で表記)と評価され、北面もその東側半分以外は、「全壊」と評価されている。なお、使用済燃料プールがある南面では壁厚1m(1000mm)の外壁でさえ「一部損傷」していることも注目される。
この報告書の11ページには外壁全体の評価として図6が掲載されており、やはり4階は「北東の一部を除き全面的に損傷しています」とされ、すべての方角で外壁が「全壊」している。
図6 「福島第一原子力発電所4号機『原子炉建屋』及び『使用済燃料プール』の健全性について」11ページより
被告が5号炉原子炉建屋内緊急時対策所を設置する5号炉原子炉建屋3階とは、福島第一原発4号機で言えば、図7のとおり、水素爆発で外壁(本件原発の5号炉でいえば「原子炉棟」の壁)が吹き飛んだフロアに当たる。5号炉原子炉建屋内緊急時対策所の設置場所が3階のどの位置であったとしても、福島第一原発4号機では、(本件原発5号炉の原子炉建屋では3階に相当する)原子炉建屋4階のすべての方角の外壁が「全壊」したことは先に述べた(被告が報告書「福島第一原子力発電所4号機『原子炉建屋』及び『使用済燃料プール』の健全性について」で明らかにしている)とおりである。
図7 2011年3月22日撮影の福島第一原発4号機の写真に原告ら代理人が書き込んで作成
被告は、現在本件原発の6号炉と7号炉の再稼動申請をしているが、本訴において被告代理人は他の号機の再稼動を否定しておらず、時期を見て再稼動申請する旨述べている。そうすると5号炉の原子炉が運転されることも想定される。そうでなくても、6号炉と7号炉が運転した場合の5号炉は、福島原発事故の際に1号機〜3号機が運転中だった4号機と同様の位置づけになる。
被告は、その福島原発事故の際に原子炉の運転をしていなかったが水素爆発が生じた4号機の、その爆発によって原子炉建屋の外壁が吹き飛んだフロアに相当する場所に、5号炉原子炉建屋内緊急時対策所を設置しようとしているのである。
5号炉原子炉建屋内緊急時対策所は「原子炉棟」の外側の「付属棟」に設置されると推定されるが、その場合でも、「原子炉棟」の壁が水素爆発で吹き飛べば(「付属棟」の外側の壁が壊れなかったとしても)緊急時対策所内にその壁が飛んできて緊急時対策所内をめちゃめちゃに破壊し、「原子炉棟」内の放射性物質や水素、高温水蒸気などが大量に緊急時対策所に流入して、緊急時対策所内にいた対策要員は負傷ないし死亡し、緊急時対策所はその機能を完全に失うことになる。
このような場所に緊急時対策所を設置しようとすること自体、極めて不合理であり、福島原発事故の教訓をまったく学んでいないとしかいいようがない。
被告からは(あるいは原子力規制委員会からは)運転していない5号炉での水素爆発を考慮する必要がないなどの主張がなされるであろう。しかし、前述したように、福島原発事故では、運転中ではなかった4号機で水素爆発が発生して原子炉建屋4階の外壁が破壊され、その水素爆発の原因の解明は未だになされていない(被告も「推定している」というにとどまり、その後原因が解明できたという報告はないし、爆発の機序の解明や被告の推定するストーリーに沿った水素の流入量等の定量的な分析はまったくなされていない)のである。緊急時対策所は、福島原発事故への反省からその設置が義務づけられ、しかも福島原発事故と同等の放射性物質放出があった場合においても使用することを想定している施設である。放射性物質の大量漏えい(福島原発事故と同等の放出)を想定しながら、水素爆発だけは想定しないということであれば、放射性物質の放出を「仮想」しながらフィルター等の設備が健全である(破損を想定しない)前提で評価して敷地境界ではほとんど被ばくがないとしていた福島原発事故前の「仮想事故」想定(それが不合理と考えられたからこそ立地審査指針等の当時の指針類が廃止されたはずだったが)とまったく変わらないというべきである。
6 まとめ
本件原発の唯一の緊急時対策所となった5号炉原子炉建屋内緊急時対策所は、その狭さ、6号炉との近さ、免震構造の不採用から、緊急時対策所としての機能に問題がある上、その設置場所が、原発の重大事故時には水素爆発によって破壊されうる場所(福島原発事故の際に現に破壊された場所)に相当するという致命的な欠陥を有しており、重大事故対策として不適切であり重大事故時に機能しない恐れがある。
第4 被告の重大事故対策の破綻
原告ら準備書面(52)で述べたとおり、被告の津波対策の要であった防潮堤は、少なくとも荒浜側では大地震時に液状化に耐えられないことが判明した。そして、本準備書面で述べたとおり、福島原発事故後の重大事故対応の要となる緊急時対策所も、免震重要棟は大地震に耐えられないことからその使用が断念され(原子力規制委員会も使用を許さないと述べている)、5号炉原子炉建屋内緊急時対策所はその設置場所の誤りにより重大事故時に機能しない恐れがある。
このように、被告の福島原発事故後の重大事故対策の要となる対策が、次々とその有効性を否定されている。
しかも、大津波は大地震に起因するものであり大津波は大地震に遅れてやってくる、論理的にそうなっているものであるから、大津波対策の施設は大地震に耐えられることが大前提とならざるを得ない。それなのに被告の対策は、大津波対策の要の防潮堤が大地震に耐えられないというのである。また、重大事故対応施設の免震重要棟は、大地震に起因する重大事故を第一に想定しているはずである(そうでなければ、そもそも「免震」を求める意味がない)。ところが、その大地震時に使用されることが主たる目的のはずの免震重要棟もまた大地震に耐えられないのである。さらに重大事故の際、それも福島原発事故と同等の放射性物質放出時にも使うことが予定されている緊急時対策所を設置するのに、福島原発事故の際に現実に破壊された場所に相当する場所に設置しようというのである。
被告の重大事故対策は、その根本において設計思想レベルでの構造的な欠陥があると評価せざるを得ない。被告のこのような状況を見ると、被告の重大事故対策には、まだ判明・発覚していない多数の根本的な誤りがあると考えざるを得ない。
以上に述べたとおり、被告の本件原発における重大事故対策は、すでに主要な部分で破綻している上、さらに多くの根本的な誤りが埋もれている蓋然性があるというべきである。
第5 被告の虚偽説明
1 原子力規制委員会への虚偽説明
被告は、2013年12月の免震重要棟の建屋基礎版下に基準地震動を入力した解析で7つの基準地震動のうち2つ(Ss−2=F−B断層・断層モデルと、Ss−3=長岡平野西縁断層帯・応答スペクトル)以外では免震重要棟が基準を満たさず隣接する構造物に衝突するという結果を得、2014年4月の(西山層以深は1号炉の地盤データを用いて)解放基盤表面に基準地震動を入力した解析で7つの基準地震動のすべてで免震重要棟が基準を満たさず隣接の構造物に衝突するという結果を得ていた(第2の2で既述)
それにもかかわらず、被告は、2015年2月10日の第193回適合性審査会合において、免震重要棟の他に3号炉に緊急時対策所を造るという説明をするにあたり、「免震重要棟内緊急時対策所は免震構造を有した免震重要棟に設置している。免震構造を有した建物は、発電施設等に大きな影響が生じる可能性がある短周期地震に対して優位性を有していることが最大のメリットである。」「一方で、非常に大きな長周期成分を含む一部の基準地震動に対しては通常の免震設計クライテリアを満足しない場合がある」(「柏崎刈羽原子力発電所6号及び7号炉 緊急時対策所について 平成27年2月」1−1ページ)、「非常に大きな長周期成分を含む一部の基準地震動に対しては機能維持が確認できていないため、地震時に使用できない恐れがある」(同1−2ページ)などと、あたかも免震重要棟が大部分の基準地震動に耐えられるかのような説明を行った。
2015年9月29日の第278回適合性審査会合では、被告の川村原子力設備管理部長が「免震重要棟の位置づけですけれども、私どもとしては、これは一部の長周期の波に対しては耐震を維持できないということは確かだと思っているのですが、実際にはこれと3号があって、現実は2拠点をちゃんと使っていくということで考えたいと思っています。」と述べ、これを受けて更田委員が「今の川村さんがおっしゃったのは、極めてもっともであって、考えなきゃならないいろんなシーケンスが、バラエティはあるけれども、一部のシーケンス、ごく一部のシーケンスに耐えないからといって、それを除外してしまうのは方策として非常に不利なので。多くの場合はこの免震重要棟、使えるだろうから、そうなったら 3 号機より使いやすい設備であることは、恐らくそういうことなのだろうから、多くの選択肢としては、この免震重要棟が使うということで。」と述べている(第278回適合性審査会合議事録66ページ)。ここで、原子力規制委員会の更田委員は被告側の説明により免震重要棟が耐えられないのは「ごく一部のシーケンス」であるとの認識を明示しているが、被告側でこれを正す発言はまったくない。
被告は、免震重要棟について、耐えられないのは「非常に大きな長周期成分を含む一部の基準地震動」「一部の長周期の波」と言い続け、2017年2月14日の第442回適合性審査会合で解析について真実を述べるまで、2年以上に渡り原子力規制委員会を欺き続けた。
被告は、2014年の解析の存在や信頼性に関する部署間の連携に問題があったなどとして意図的な虚偽説明ではないと言い逃れようとしている(原子力事業者に甘い原子力規制委員会はその説明を受け容れているようである)が、2014年の解析をおくとしても、2013年12月の7つの基準地震動のうち2つしか基準を満たさなかったという解析は早くから共有されていた(姉川常務執行役も、2017年2月23日の第445回適合性審査会合での釈明で「免震重要棟が基準地震動の、特に長周期が卓越しているものに耐えないというのは、これは社内、私も含めて全員が早い段階から認識しているものです。」と述べている。第445回適合性審査会合議事録22ページ)のであり、それを免震重要棟が耐えられないのは「非常に大きな長周期成分を含む一部の基準地震動」 「一部の長周期の波」と説明し、原子力規制委員が「ごく一部のシーケンス」に耐えられないと受け止めているのを知りながら一切その誤解を正そうとしなかったことは、意図的な虚偽説明というしかない。
2 本訴における被告の主張
被告は、本訴において、免震重要棟に関しての説明を「免震重要棟とは,緊急時に原子力発電所の各施設の状況を把握し,災害の拡大防止及び復旧の指揮を執るための建屋をいう。中越沖地震から得られた教訓を踏まえ,震度7クラスの地震が発生した場合においても緊急時の対応に支障を来たすことがないよう,建物を免震構造とし,通信や電源等の重要設備を集合させている。」とし、「震度7クラスの地震が発生した場合においても緊急時の対応に支障を来すことがない」と主張し続けてきた。
被告の上記主張は、2013年1月18日付の被告準備書面(2)注114においてなされた後、2013年12月の解析で免震重要棟が7つの基準地震動のうち2つにしか耐えられないと判明し、さらには2014年4月の解析で7つの基準地震動のいずれにも耐えられないと判明した後の2015年4月6日付の被告準備書面(10)注49、2015年6月16日付被告準備書面(11)注7でも維持されている。
姉川常務執行役が「免震重要棟が基準地震動の、特に長周期が卓越しているものに耐えないというのは、これは社内、私も含めて全員が早い段階から認識しているものです。」と述べている(第445回適合性審査会合議事録22ページ)のであるから、少なくとも2013年12月の解析については、被告が準備書面(10)、(11)を作成する段階では被告の訴訟担当者も認識していたはずである。
それにもかかわらず、被告は、原子力規制委員会に対しては、「一部」とは言え免震重要棟が基準地震動に耐えられないことを説明した後に提出した被告準備書面(10)、被告準備書面(11)においても、何ら留保なく、免震重要棟は「震度7クラスの地震が発生した場合においても緊急時の対応に支障を来すことがない」と、原告らと裁判所に対して言い続けたのである。
3 まとめ
被告は、原子力規制委員会に対しても、訴訟においても、本件原発の事故対策について、自ら認識している事実に反してより安全であるかのような虚偽説明を継続してきた。
被告のこのような姿勢、訴訟態度に鑑み、被告の本件原発の安全対策に関する主張には、より多くの欠陥・危険が今なお隠されていると推認することができ、被告の主張全般が信用できないものというべきである。
第6 敷地地盤で地震動が減衰するという主張の信用性
被告は、本件原発敷地においては、解放基盤表面から建屋基礎版までの地盤において地震動が減衰すると主張し、これを荒浜側(1号炉〜4号炉)と大湊側(5号炉〜7号炉)の2つにくくって議論し、荒浜側では基準地震動は最大2300ガル、大湊側では基準地震動は最大1209ガルであるが、地盤により減衰するので、それぞれ建屋基礎版に1000ガルを入力することで安全側であると主張している。
しかしながら、今回の免震重要棟の耐震虚偽説明問題で発覚したところによれば、免震重要棟は、基準地震動を直接建屋基礎版に入力した2013年12月の解析ではSs−2とSs−3に耐えられたが、西山層以深について1号炉の地盤データを用いて解放基盤表面に基準地震動を入力した2014年4月の解析ではSs−2とSs−3も含めすべての基準地震動に耐えられないと判定された。このことは、(同じ地震動=Ss−2、Ss−3を、建屋基礎版に入力した場合よりも解放基盤表面に入力した方が揺れが大きいというのであるから)解放基盤表面から建屋基礎版までの地盤で、しかも1号炉の地盤データを用いた解析で、地震動は、被告の主張とは逆に、増幅したことを意味している。
加えて、被告は、原子力規制委員会に対しては、2014年解析が免震重要棟ではなく1号炉の地盤データを用いた故に信頼性が低いと判断したと説明している(第445回適合性審査会合議事録14〜15ページ)。
図8 図1に原告代理人が書き込み
図8を見ればわかるように、1号炉と免震重要棟の距離は、1号炉と3号炉の距離程度であり、1号炉と4号炉の距離より短い。1号炉と免震重要棟の距離で地盤データが変わって解析が信用できない、評価に使えないというのであれば、1号炉〜4号炉、5号炉〜7号炉を一括りにして評価する手法自体が問題だといわざるを得ない。
このように、免震重要棟耐震虚偽説明問題で発覚した事実及び被告の説明は、被告の基準地震動と耐震設計問題に関する主張の根幹をなす解放基盤表面から建屋基礎版までの地盤による地震動の減衰とそれを荒浜側(1号炉〜4号炉)と大湊側(5号炉〜7号炉)で一括りに評価できるという2点の信用性に強い疑いを生じさせたというべきである。
(2017.5.14記)
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