庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

   ◆刑事事件の話

 起訴・不起訴の判断

 起訴するかどうかは、すべて検察官が判断します。

  嫌疑不十分の不起訴

 検察官は、公判請求をした場合、裁判所が検察官が起訴した事実をそのまま認めて有罪にできるかどうか(業界の言い回しでは、公判維持が可能か)をまず検討します。検察官が有罪判決を取るのに十分な証拠がないと判断した場合は、嫌疑不十分(けんぎふじゅうぶん)として不起訴にします。
 有罪率99.8%以上の日本の現在の刑事司法は、公判段階での弁護人には絶望的ではありますが、同時に検察官にも「無罪判決があってはならない」というプレッシャ−を与えます。ですから、通常、検察官は、「たぶん有罪にできるだろう」ぐらいの気持ちでは起訴しません。
 起訴前の段階で、弁護人には検察側の証拠を見ることもできず、証拠を強制的に集める手段もない状態で、弁護人が結果を出すには、検察側の証拠とストーリーについて検察官の自信を突き崩す(実際には揺らがせる程度)ことが必要です。

  起訴猶予

 そして、検察官は、有罪の証拠が十分あるときでも、事情によって公判請求をしないことができます。刑事訴訟法は、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」と定めています。これを起訴猶予(きそゆうよ)と呼んでいます。猶予というと今は起訴しないけどいつか起訴するというようなニュアンスに聞こえますが、状況が変わらない限り起訴しないということです。
 実際には、犯罪自体起訴する価値が低いこと(被害が軽いこと、犯行の態様が悪質でないことなど)、被疑者が再度犯罪を犯す可能性が低いことがポイントになります。
 被疑者が、罪を犯したことを認めている事件では、この点について事実を把握して検察官にアピールすることが弁護人の仕事の中心となります。被害者との交渉や示談も、刑事弁護という観点からは、被害者が許しており起訴する価値が低いことを検察官にアピールして起訴猶予とすることが最終目的です。

  嫌疑不十分と起訴猶予

 理論的には、証拠が十分でないときは「嫌疑不十分」、証拠は十分だが情状がいいから起訴しないのが「起訴猶予」ですが、実際には証拠が不十分のときも「起訴猶予」とすることがままあるように思えます。

  上司の決裁もある

 起訴・不起訴の判断は、まず担当検察官が行い、上司の決裁を受けます。通常の事件では刑事部長が決裁します。そのため通常の場合、検察官は勾留の満期の前日には起訴・不起訴の判断をして上司に回します。

  【刑事事件の話をお読みいただく上での注意】

 私は2007年5月以降基本的には刑事事件を受けていません。その後のことについても若干のフォローをしている場合もありますが、基本的には2007年5月までの私の経験に基づいて当時の実務を書いたものです。現在の刑事裁判実務で重要な事件で行われている裁判員裁判や、そのための公判前整理手続、また被害者参加制度などは、私自身まったく経験していないのでまったく触れていません。
 また、2007年5月以前の刑事裁判実務としても、地方によって実務の実情が異なることもありますし、もちろん、刑事事件や弁護のあり方は事件ごとに異なる事情に応じて変わりますし、私が担当した事件についても私の対応がベストであったとは限りません。
 そういう限界のあるものとしてお読みください。

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