庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

    ◆刑事事件の話
  検察官の意見 (ジャン=バルジャンのケース:刑事弁護の必要性)

 ジャン=バルジャンは、たびたび罪を犯して19年間も刑務所にいて、社会に戻るまでに十分に反省して心を改めなければならなかったのです。ところがジャン=バルジャンは刑務所を出てわずか数日のうちに立て続けに2件もの犯罪を繰り返したのです。しかもその犯罪は、つつましく生活している75歳の老人から高価な銀の食器を奪い、10歳の少年からなけなしの銀貨を奪ったものです。ジャン=バルジャンの犯罪は、自分より弱い老人や年少者から貴重な財産を奪ったという極めて卑怯なものです。被害者ミリエル司教はジャン=バルジャンの事情を聞いて救いの手をさしのべたところを恩をあだで返されました。それにもかかわらずミリエル司教がかばってくれたのですから、少なくともそこで改心すべきであったのに、なんとジャン=バルジャンはその日のうちにさらに犯罪を重ねたのです。ジャン=バルジャンは2度にわたってミリエル司教を裏切って犯罪を犯したのです。その第2の犯罪の被害者プチ=ジェルベもたまたま通りがかっただけで何の落ち度もないのに被害にあったものです。
 ミリエル司教に対する犯罪は、極めて悪質なものです。ジャン=バルジャンは深夜に司教が寝ている部屋に忍び込み銀の食器を奪いました。途中ドアを開ける時に音を立てても、ジャン=バルジャンは逃げ出すことなく、犯罪を実行を続けました。これはジャン=バルジャンが強い意志を持って犯罪を犯したことを示しています。そしてジャン=バルジャンはその際に先のとがった鉄の燭台を持っていきました。いったい何のためでしょうか。もしも途中で司教が目覚めたら司教を殺すためとしか考えられません。たまたま司教が目覚めなかったので無事に終わりましたが、ジャン=バルジャンの犯罪は、強盗殺人にもなりかねないとても危険なものでした。たとえ司教が個人的には許しても、このような危険な犯罪は、社会を守るためには、見過ごしたり軽く評価してはいけません。
 ジャン=バルジャンは、犯罪を重ねた後、名を変え、世間を欺いてきました。今は市長になっていますが、その間ずっと市民を騙してきたのです。犯罪の後によいことをしたからといって、それで罪が軽くなるものではありません。
 ジャン=バルジャンの犯罪がとても危険なものである上に、全く落ち度のない弱い者を狙った悪質なものであること、ジャン=バルジャンには悔い改める機会がたくさんあったのに自分で反省することなく犯罪を重ねたことを考えると、ジャン=バルジャンの罪は極めて重いと考えるべきです。

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