◆裁判のしくみ◆
代理人(民事)と弁護人(刑事)
弁論
事件番号
民事事件では、私たち弁護士は、当事者の「代理人(だいりにん)」として仕事をします。代理人として仕事をするためには当事者が署名押印した「委任状(いにんじょう)」を裁判所に提出します。
ちなみに国や地方自治体の民事裁判や行政裁判での代理人は、弁護士でない行政庁の職員がなることができます。こういう代理人を「指定代理人(していだいりにん)」と呼んでいます。行政側が弁護士を代理人につけた場合は指定代理人と区別して「訴訟代理人(そしょうだいりにん)」と呼びます。普通の事件の弁護士も「訴訟代理人」ですけど。
刑事事件の場合は起訴前(捜査)の段階でも、起訴後(公判)の段階でも被疑者・被告人についた弁護士は「弁護人(べんごにん)」といいます。弁護人として仕事をするためには被疑者・被告人かその家族が署名して押印した(身柄拘束されている人の場合は指印)「弁護人選任届(べんごにんせんにんとどけ)」を検察庁か裁判所に提出します。
というように、民事事件の場合、法律上も、また法律家の業界でも、決して弁護人という言葉は使いません。しかし、世間では、ときどき、民事事件でも「弁護人」といわれることがあります。私たちは、そういわれるととても違和感があります。
しかし、そういうと、逆に、実際には民事事件中心に活動しているのになぜ「弁護士」という呼び方が使われているのかと言われそうです。私もよくはわかりませんが、昔は、弁護士ではなく「代言人(だいげんにん)」という呼び方が用いられていました。しかし、依頼者の都合のいいように口からでまかせを言うという意味で「三百代言(さんびゃくだいげん)」という言葉が広まり、法律家の業界では代言人という言葉は好まれなくなったようです。
弁護士の間でも、「弁護士」という名前へのこだわりもあって、実際にはあまりやっていなくても、刑事弁護というのは弁護士の大事な仕事だ(奉仕の気持ちでもやらねばならない)という思いはあります。で、労多くして実り少ない刑事事件や当番弁護士を受けたりするんですね。
実は、弁論という言葉は、民事事件では「口頭弁論」の略として用いられています。「弁論準備期日」は法廷で行う口頭弁論のために法廷外で争点を整理したり進行の仕方を話し合う期日です。「弁論終結」というのは口頭弁論を終結して審理は終わり、後は判決だけということを意味します。
これに対して、刑事事件では、弁論という言葉は、弁護人が行う「最終弁論」の略として用いられます。刑事訴訟法では「弁論」という言葉は大変広く用いられていて、法廷での意見陳述や公判手続全体のことも「弁論」という言葉で表しています。別々に起訴された事件を一緒に審理することは「弁論の併合」、逆に分けるときは「弁論の分離」といいますし、結審についても「弁論の終結」といいます。しかし、実際の法廷等の場面では、「弁論」といえば弁護人の最終弁論のことを意味するときに用いています。検察官が行うのは(六法に書かれている刑事訴訟法にはこれも弁論とふられていたりしますが)弁論とは呼ばず「論告」といいます。被告人が結審前に行うのも弁論ではなく「最終意見陳述」です。民事と違って、刑事事件では期日のことを弁論とは、通常いいません。しかし、最高裁では、刑事事件の期日も「弁論」というのが通例です。うーん、ちょっと紛らわしいですね。
民事と刑事の使い分けで、用語ではないのですが、一般の人が時々間違うので説明しておきます。
裁判にはすべて事件番号がつきます。事件番号は裁判所名、受理した年の年号(頑なに元号が使用されています)の次に事件の種類ごとにカッコ書きの符号が付き、その後に受理順に番号が振られます。この符号が民事事件は基本的にカタカナで刑事事件はひらがななんです。
一般民事事件の地方裁判所での第1審事件は(ワ)です。法律家の業界では、よく1審通常民事事件という分類でワ号事件という言い方をします。地方裁判所での行政事件は(行ウ)、1審の離婚事件は(タ)、家事調停事件は(家イ)、破産事件は(フ)、簡易裁判所での一般事件は(ハ)、高等裁判所での一般事件の控訴審は(ネ)、行政事件は(行コ)になります。
一般刑事事件の地方裁判所での事件は(わ)、特別法事件は(特わ)(実際にはこの符号は覚せい剤取締法違反が多いです)という感じです。
口で言うときにはいいのですが、書くとき、ひらがなでもカタカナでも変わらないだろうと思って書かれると、ちょっと法律家の業界では、アレッと思われてしまいます。
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