◆短くわかる民事裁判◆
原発訴訟の原告適格:玄海3・4号機佐賀地裁判決
玄海原発(佐賀県東松浦郡玄海町)3号機と4号機について、原子力規制委員会が2017年1月18日付で行った原子炉設置変更許可(福島事故後の設計変更の許可、事実上の再稼働許可)に対して、周辺住民及び全国各地の住民が取消訴訟を提起しました。
佐賀地裁2021年3月12日判決(裁判所Webへの掲載はなく、原告団のサイトに判決が分割しておかれています)は、原告らが基準とするように求めた実効線量1mSvについて具体的に人間の身体への影響が判然としない、自然放射線による被ばくでも2倍はあるなどを挙げて排斥(判決文183~184ページ)、近藤駿介原子力委員長の「最悪のシナリオ」基準の250kmについて事故の実態が十分判明していない時期に作成されたことなどを挙げて排斥(判決文184ページ)、その後福島原発事故時の退避等の基準(20km、30km以遠、40km以遠)、米軍の勧告(50マイル=80km)、災害対策指針(30km)、原子力規制委員会のシミュレーション(登場する距離は22.5km、29.1km、65km)などを挙げ(判決文184~186ページ)、これによることは適切ではないがといいつつ近藤駿介原子力委員長の「最悪のシナリオ」の170km、250kmにも言及し、原告適格の判断は訴訟の入口の段階で行うものであるからより簡明に行うべきことを述べた上で、「社会通念に照らし、合理的に判断すれば,少なくとも原告らのうち、本件各号機から100kmの範囲内に居住する者は(略)本件各号機に係る発電用原子炉の事故等がもたらす災害により生命、身体、財産等に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民であるといえる。したがって、原告らのうち上記の範囲内の地域に居住する者は、本件処分の取消訴訟における原告適格を有すると認められる。」(判決文186~187ページ)としました。
判決文の関連部分を何度か繰り返してみましたが、100kmを示す根拠の記載はどこにもなく、総合考慮してこんなものだろうといっているとしか読めませんでした。
この判決では、100km以遠の原告138名について訴えを却下、100km以内の原告228名について本件処分が違法であるとは認められないとして請求を棄却しました。
行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
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