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短くわかる民事裁判◆
原告適格問題の起点:主婦連ジュース訴訟
 景表法(不当景品類及び不当表示防止法)は、事業者または事業者団体が公正取引委員会の認定を受けて特定の業界での公正競争規約を締結すると、それに従った行為は独占禁止法の不当な取引制限や不公正な取引方法として扱われないことを定めています(景表法現第36条。旧10条)。日本果汁協会らが果汁5%未満ないし無果汁のジュースについて「無果汁」と表示せず「合成着色飲料」または「香料使用」とのみ表示する内容の公正競争規約を定めこれを公正取引委員会が認定したので、主婦連とその代表者がこの認定に対して当時の景表法第10条第6項に基づき公正取引委員会に対して不服申立てをしました。公正取引委員会は、主婦連らには不服申立て資格がないとして申立てを却下する審決(しんけつ)を行い(公正取引委員会1973年3月14日審決→こちらの11ページ以降に全文)、主婦連らがその取消訴訟を提起したのに対して東京高裁も申立て資格がないとして請求棄却の判決をしました(東京高裁1974年7月19日判決)(2013年改正前の当時の独占禁止法上、公正取引委員会の審決に対する取消訴訟の第1審は東京高裁の専属管轄でした:独占禁止法旧第85条第1号)。
 最高裁1978年3月14日第三小法廷判決は、まず一般的に「行政庁の処分に対し不服申立をすることができる者は、法律に特別の定めがない限り、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消等によつてこれを回復すべき法律上の利益をもつ者に限られるべき」とした上で、景表法の趣旨について、「景表法の規定により一般消費者が受ける利益は、公正取引委員会による同法の適正な運用によつて実現されるべき公益の保護を通じ国民一般が共通してもつにいたる抽象的、平均的、一般的な利益、換言すれば、同法の規定の目的である公益の保護の結果として生ずる反射的な利益ないし事実上の利益であつて、本来私人等権利主体の個人的な利益を保護することを目的とする法規により保障される法律上保護された利益とはいえないものである。もとより、一般消費者といつても、個々の消費者を離れて存在するものではないが、景表法上かかる個々の消費者の利益は、同法の規定が目的とする公益の保護を通じその結果として保護されるべきもの、換言すれば、公益に完全に包摂されるような性質のものにすぎないと解すべきである。したがつて、仮に、公正取引委員会による公正競争規約の認定が正当にされなかつたとしても、一般消費者としては、景表法の規定の適正な運用によつて得られるべき反射的な利益ないし事実上の利益が得られなかつたにとどまり、その本来有する法律上の地位には、なんら消長はないといわなければならない。そこで、単に一般消費者であるというだけでは、公正取引委員会による公正競争規約の認定につき景表法10条6項による不服申立をする法律上の利益をもつ者であるということはできない」と判示しました。
 ここで最高裁は、景表法が不当な表示を規制しているのは、あくまでも公益を保護するという趣旨で、国民個々人、特定の国民を保護する趣旨ではない、規制によって保護されることがあってもそれは法が公益を守ろうとした結果にすぎないといい、国民個々人には守られる/不服を申し立てる「権利」はないというのです。

 この判決の後、この判決がいう法律上保護された利益とは何か、法令にどのような規定などがあれば公益・一般国民のみならず個々人が保護されているといえるのかが問題となり争われ、最高裁の立場・姿勢もまた変遷して行くことになります。

※公正競争規約の認定は、現在は景表法第36条に規定がありますが、認定に対する不服申立てを定めた6項は、2009年改正の際に、行政不服審査法による不服申立てができないという条項とともに削除されています。それで不服申立てができなくなったとは考えにくいので、現在は行政不服審査法に基づいて不服申立てができるということと考えられます(その点を明快に説明した資料を、私は見つけることができませんでしたが)。
 さて、もし現在、消費者団体が(現行法では内閣総理大臣と公正取引員会による)公正競争規約認定に不服申立てをしたら、裁判所は原告適格を認めるでしょうか。景表法の目的が2009年改正で一般消費者の保護に純化されたことは消費者団体に有利な要素ではありますが、最高裁が原告適格を拡大してきたその後の判決でも、地域限定、距離逓減を重視しているというかこだわっていることからみて、居住地による差異が出ないこの問題ではおそらく今もって原告適格は認めないのではないかと思います。
※景表法(だけではないですが)の2007改正で適格消費者団体(てきかくしょうひしゃだんたい:一覧はこちら)がそれぞれの事業者の不当表示や広告に対して差止め請求をする権利が認められています(景表法第34条)ので、消費者団体としては、こちらの方が有力な武器となっているとは思いますが(それでも、不当な公正競争規約が放置されることはそれ自体の問題があると考えるでしょうから、争えなくてかまわないということではないとも思いますが)。

 行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
  

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