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短くわかる民事裁判◆
急傾斜地のマンション建設と原告適格
 川崎市長が急傾斜地でのマンション建設のために行った開発許可(都市計画法第29条)に対し、開発区域に近接する住民が開発許可の取消を求めて提訴しました。
 第1審判決も第2審判決(東京高裁1994年6月15日判決)も、原告適格を認めませんでした。

 最高裁1997年1月28日第三小法廷判決は、「都市計画法33条1項7号は、開発区域内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地その他これらに類する土地であるときは、地盤の改良、擁壁の設置等安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められていることを開発許可の基準としている。この規定は、右のような土地において安全上必要な措置を講じないままに開発行為を行うときは、その結果、がけ崩れ等の災害が発生して、人の生命、身体の安全等が脅かされるおそれがあることにかんがみ、そのような災害を防止するために、開発許可の段階で、開発行為の設計内容を十分審査し、右の措置が講ぜられるように設計が定められている場合にのみ許可をすることとしているものである。そして、このがけ崩れ等が起きた場合における被害は、開発区域内のみならず開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接的に及ぶことが予想される。また、同条2項は、同条1項7号の基準を適用するについて必要な技術的細目を政令で定めることとしており、その委任に基づき定められた都市計画法施行令28条、都市計画法施行規則23条、同規則(平成5年建設省令第8号による改正前のもの)27条の各規定をみると、同法33条1項7号は、開発許可に際し、がけ崩れ等を防止するためにがけ面、擁壁等に施すべき措置について具体的かつ詳細に審査すべきこととしているものと解される。以上のような同号の趣旨・目的、同号が開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば、同号は、がけ崩れ等のおそれのない良好な都市環境の保持・形成を図るとともに、がけ崩れ等による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の地域の住民の生命、身体の安全等を、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、開発区域内の土地が同号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等に当たる場合には、がけ崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。」として、第1審判決も原判決も本件開発区域内の土地が同号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等に当たるかどうか、及び上告人らががけ崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者であるかどうかについて、何らの検討もしなかったことを批判し、原判決を破棄し第1審判決を取り消して第1審裁判所(横浜地裁)に差し戻しました。

 生命、身体(健康)が脅かされ、それが近接の程度により被害の深刻さ・蓋然性が高まるというケースでは、裁判所として原告適格を認めやすいことがわかります。(それでも第1審、第2審は原告適格を認めなかったのですが…もんじゅ訴訟判決あたりで最高裁の転換を読み取って欲しいところです)

 行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
  

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