◆短くわかる民事裁判◆
高層ビル建設と原告適格(日照権)
住宅・都市整備公団(現UR都市機構)が桶川市に地上25階建ての高層マンション(ビュータワーおけがわ)を建設するために、桶川市長が1992年11月13日付で行った容積率制限を緩和する内容の総合設計許可等について、北東に50mあまりに居住する住民、北西に150mあまりに居住する住民、その他の住民が取消を求めて提訴しました。
最高裁2002年3月28日第一小法廷判決は、総合設計許可に関する建築基準法の規定は、「当該建築物及びその周辺の建築物における日照、通風、採光等を良好に保つなど快適な居住環境を確保することができるようにするとともに、地震、火災等により当該建築物が倒壊、炎上するなど万一の事態が生じた場合に、その周辺の建築物やその居住者に重大な被害が及ぶことがないよう適切な設計がされていることなどを審査し、安全、防火、衛生等の観点から支障がないと認められる場合にのみ許可をすることとしているものと解される」「以上のような同項の趣旨・目的、同項が総合設計許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば、同項は、上記許可に係る建築物の建築が市街地の環境の整備改善に資するようにするとともに、当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、総合設計許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の居住者は、総合設計許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。」とし、上告人のうち5名はいずれもその居住する建築物が、本件建築物により日照を阻害されるから本件総合設計許可の取消しを求める原告適格を有するものというべきであるとして、日照の影響を受ける者に総合設計許可の取消を求める原告適格を認め、原告適格を認めなかった原判決を破棄し、やはり原告適格を認めなかった第1審判決を取り消して第1審裁判所(さいたま地裁)に差し戻しました。
最高裁が原告適格を認めた5名の冬至日における日影は、1時間から2時間(1名が午前7時30分ころから午前8時26分まで、2名が午前7時30分ころから午前8時27分まで、1名が午前8時22分から午前9時32分まで、1名が午後2時5分から午後4時まで)です。
最高裁は、この判決では、周辺住民等の原告適格を論ずるときの決まり文句ともいえる「著しい被害」という言葉を使用していません。日照の阻害に関する原告適格では、最高裁は、その程度は問わないと考えていいでしょうか。(もちろん、その程度の日影で処分が違法と認めることはないでしょうけれど)
行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
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