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短くわかる民事裁判◆
住宅地での納骨堂建設と原告適格
 大阪市長が2017年2月27日付で行った、宗教法人宝蔵寺(門真市)が大阪市淀川区の住宅地に建設したビル型の納骨堂(鉄筋コンクリート造り地上6階建て建築面積281.32㎡)を経営する許可及び2019年11月26日付で行った施設の変更許可(納骨堂面積の拡張等)に対し、納骨堂から100m以内の近隣に居住する住民らが、各許可の取消を求めて提訴しました。

 第1審の大阪地裁2021年5月20日判決は、原告全員について原告適格を認めず、訴えを却下しました。
 控訴審の大阪高裁2022年2月10日判決は、控訴した個人(控訴しなかった者も3名いる)については原告適格を認め(控訴人に含まれる法人については原告適格を認めず)、原判決を取り消して第1審裁判所に差し戻しました。被控訴人の主張に対する判示の中で「納骨堂は、遺骨を収蔵する施設であるという性格上、周辺住民等の宗教的感情に様々な影響を及ぼす可能性を否定できないデリケートな側面を有しているところ、本件細則の規定に違反した違法な納骨堂の経営及び施設変更が許可され、その結果、死者を悼む静謐な施設として備えるべき基本的な配慮を欠く納骨堂が周辺住民等に無防備な形でさらされるような状態になった場合には、周辺住民等に対し、一般人の通常の宗教的感情に照らして受け入れ難いような重大な精神的苦痛を与えるおそれがないとはいえず、このような精神的苦痛が当然に受忍限度内のものであると解することはできない。」とされているのが注目されます。

 最高裁2023年5月9日第三小法廷判決は、墓地、埋葬等に関する法律は、墓地等の経営やその変更の許可について「その許可の要件を特に規定しておらず、それ自体が墓地等の周辺に居住する者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難い」としつつ、「法10条が上記許可の要件を特に規定していないのは、墓地等の経営が、高度の公益性を有するとともに、国民の風俗習慣、宗教活動、各地方の地理的条件等に依存する面を有し、一律的な基準による規制になじみ難いことに鑑み、墓地等の経営又は墓地の区域等の変更(以下「墓地経営等」という。)に係る許否の判断については、上記のような法の目的に従った都道府県知事の広範な裁量に委ね、地域の特性に応じた自主的な処理を図る趣旨に出たものと解される。そうすると、同条は、法の目的に適合する限り、墓地経営等の許可の具体的な要件が、都道府県(市又は特別区にあっては、市又は特別区)の条例又は規則により補完され得ることを当然の前提としているものと解される。」とした上で、大阪市が定めている規則「墓地、埋葬等に関する法律施行細則」8条が、本文において、市長は、法10条の規定による許可の申請があった場合において、当該申請に係る墓地等の所在地が、学校、病院及び人家の敷地からおおむね300m以内の場所にあるときは、当該許可を行わないものとすると規定し、ただし書において、市長が当該墓地等の付近の生活環境を著しく損なうおそれがないと認めるときは、この限りでないと規定しているのは、「墓地等の設置場所に関し、墓地等が死体を葬るための施設であり(法2条)、その存在が人の死を想起させるものであることに鑑み、良好な生活環境を保全する必要がある施設として、学校、病院及び人家という特定の類型の施設に特に着目し、その周囲おおむね300m以内の場所における墓地経営等については、これらの施設に係る生活環境を損なうおそれがあるものとみて、これを原則として禁止する規定であると解される。そして、本件細則8条ただし書は、墓地等が国民の生活にとって必要なものであることにも配慮し、上記場所における墓地経営等であっても、個別具体的な事情の下で、上記生活環境に係る利益を著しく損なうおそれがないと判断される場合には、例外的に許可し得ることとした規定であると解される。そうすると、本件細則8条は、墓地等の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家については、これに居住する者が平穏に日常生活を送る利益を個々の居住者の個別的利益として保護する趣旨を含む規定であると解するのが相当である。」として、納骨堂所在地から概ね300m以内の場所に敷地がある人家に居住する者に納骨堂経営許可、変更許可の取消を求める原告適格を認め、大阪市長の上告を棄却しました。
※その結果、控訴審の差し戻しの判決が確定し、大阪地裁で2023年9月13日差し戻し審の審理が始まったという報道があります(その後については情報を得られていません)。

最高裁2000年3月17日第二小法廷判決は、「住宅、学校、病院、事務所、店舗その他これらに類する施設の敷地から三百メートル以上離れていること。ただし、知事が公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは、この限りでない。」と規定している大阪府条例について個別的利益を特に保護しようとするものではないとして周辺住民の原告適格を否定しています。これについて、上記最高裁2023年5月9日第三小法廷判決は、「被控訴人が援用する最高裁平成12年判決は、墓埋法10条1項の施行に関する条例において、本件細則8条本文類似の距離制限を設ける一方、その制限の解除を専ら公益的見地から行うべきことが定め20 られていた事案に関する判断であって、本件に適切ではない。」と判示しています。「付近の生活環境を著しく損なうおそれがないと認めるとき」と「公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるとき」でそれほど決定的な違いがあるというのでしょうか。

 行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
  

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