◆短くわかる民事裁判◆
原告適格の現在の基本判例:小田急高架化最高裁判決
小田急小田原線喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近までの高架化(連続立体交差化)を内容とする建設大臣の鉄道事業認可、その区間の小田急線の側道(附属街路)設置を内容とする建設大臣の都市計画事業認可(附属街路ごとに6件)について、周辺住民が、建設大臣の承継者である関東地方整備局長に対し、各認可の取消を求めて提訴しました。
原告は附属街路事業のうち3つの事業地内の不動産について権利を持つ者と、不動産についての権利を有しない鉄道事業事業地の周辺に居住する者でした。
第1審の東京地裁2001年10月3日判決は、事業地内の不動産に権利を持つ者合計9名については、事業計画認可告示により建設の制限、譲渡時の優先買取権(譲渡相手の制限)、土地の収用・使用の可能性等の不利益を生ずることから原告適格を認め、不動産について権利を有しない居住者、通勤通学者には原告適格を認めませんでした(裁判所Web判決文45~46ページ)。その上で原告適格を有する者については各認可全体について取消を求める原告適格を認め(裁判所Web判決文46~47ページ)、鉄道騒音問題への考慮が不十分であること、その他の点でも慎重な検討を欠いていることを指摘して各認可を違法として請求を認容しました(裁判所Web判決文53~59ページ)。「国敗れて3部あり」と言われた藤山コートの判決です。
第2審の東京高裁2003年12月18日判決は、附属街路事業地内の不動産に権利を有する者について、その附属街路事業の認可取り消しの原告適格を認め(裁判所Web判決文24~27ページ)、各認可は適法として、原告適格を認めた部分は原判決を取り消して請求棄却、原告適格を認めなかった部分は1審原告勝訴部分は取り消して訴え却下、1審原告敗訴部分は控訴棄却としました。
最高裁2005年12月7日大法廷判決は、原告適格について一般論として「行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。」(裁判所Web判決文4~5ページ)と判示した上、都市計画法は都市計画が当該都市に公害防止計画が定められているときはこれに適合したものであることを求めていること(都市計画法第13条柱書)、公害防止計画は公害対策基本法(当時:現在は環境基本法)に基づいて公害が著しく公害の防止に関する施策を総合的に講じなければ公害の防止を図ることが著しく困難であると認められる地域等について作成されるものであること、東京都においては事業の実施に際し公害防止等の適正な配慮がなされることを期して環境影響評価条例が制定され事業者から提出された環境影響評価書を許認可にあたり十分配慮することを求めていることなどを指摘して、「都市計画事業の認可に関する同法の規定は、事業に伴う騒音、振動等によって、事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し、もって健康で文化的な都市生活を確保し、良好な生活環境を保全することも、その趣旨及び目的とするものと解される。 」、「都市計画法又はその関係法令に違反した違法な都市計画の決定又は変更を基礎として都市計画事業の認可がされた場合に、そのような事業に起因する騒音、振動等による被害を直接的に受けるのは、事業地の周辺の一定範囲の地域に居住する住民に限られ、その被害の程度は、居住地が事業地に接近するにつれて増大するものと考えられる。また、このような事業に係る事業地の周辺地域に居住する住民が、当該地域に居住し続けることにより上記の被害を反復、継続して受けた場合、その被害は、これらの住民の健康や生活環境に係る著しい被害にも至りかねないものである。そして、都市計画事業の認可に関する同法の規定は、その趣旨及び目的にかんがみれば、事業地の周辺地域に居住する住民に対し、違法な事業に起因する騒音、振動等によってこのような健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるところ、前記のような被害の内容、性質、程度等に照らせば、この具体的利益は、一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわざるを得ない。 」(裁判所Web判決文8ページ)として騒音・振動による健康被害のおそれに着目して周辺住民の原告適格を認めました。
そして、東京都環境影響評価条例が、対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で当該対象事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域として東京都知事が定めるとしている「関係地域」に居住する住民は「本件鉄道事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接に受けるおそれのある者に当たると認められる」として鉄道事業認可の取り消しを求める原告適格があるとしました(裁判所Web判決文9ページ)。
この判決でも、最高裁は、関連法規の趣旨等に周辺住民の健康等の保護(騒音・振動等の被害の防止)に関する規定等があること、周辺住民の被害が距離(近接性)に応じて増大することを挙げて周辺住民の原告適格を認め、具体的に原告適格が認められる「著しい被害を直接受けるおそれ」のある住民の範囲については関係法令上あるいは手続上考慮が予定された地域によっています。
なお、この最高裁判決は、附属街路事業の事業地内の不動産について権利を有する者の原告適格については第2審と同趣旨の判示をしています(裁判所Web判決文10~11ページ)。
行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
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