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原発訴訟の原告適格:大飯3・4号機大阪地裁判決
 大飯原発(福井県大飯郡おおい町)3号機と4号機について、原子力規制委員会が2017年5月24日付で行った原子炉設置変更許可(福島事故後の設計変更の許可、事実上の再稼働許可)に対して、周辺住民及び全国各地の住民が取消訴訟を提起しました。

 大阪地裁2020年12月4日判決は、基準地震動策定のための地震モデル設定の際に原子力規制委員会の審査ガイドが求めている経験式が持つばらつきの考慮をしなかったことを理由に変更許可を取り消した、福島原発事故後今のところ行政訴訟で唯一の住民側勝訴判決ですが、ここでは原告適格についての判断を紹介します。
 この判決は次のように判示して施設から120kmの範囲内に居住する原告について原告適格を認め、それを超える地域に居住する8名については原告適格を認めないと判断し、その8名については訴え却下、その他の原告請求を認めました(認めた部分の主文は「原子力規制委員会が平成29年5月24日付けで被告参加人に対してし5 た大飯発電所3号機及び4号機に係る発電用原子炉の設置変更許可を取り消す。」)。

「ICRPの平成19年(2007年)の勧告(以下「ICRP2007勧告」という。) は、緊急時被ばく状況(事故や核テロ等により大量の放射性物質が環境に放出されるような非常事態が起こった場合)において公衆を防護するための参考レベル(それを上回る被ばくの発生を許す計画の策定は不適切であると判断される線量又はリスクのレベル)として、1年間の実効線量の積算値が20ミリシーベルトから100ミリシーベルトという数値を提示している。」、「原子力安全委員会は、平成23年7月19日、今後の避難解除、復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方を示した。この考え方では、ICRP2007勧告の考え方に基づいて、同年4月22日、福島第一原発事故の発生後1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超える可能性がある半径20㎞以遠の地域が計画的避難区域に設定されたとされた。」(裁判所Web判決文70~71ページ)
「原子炉事故等により1年間の実効線量の積算値が20ミリシーベルトに達することが社会通念上想定され得る地域は、本件各原子炉の設置変更許可の際に行われる法43条の3の6第1項3号所定の技術的能力の有無及び同項4号所定の安全性に関する各審査に過誤、欠落がある場合に起こり得る事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に当たるものというべきである。」(裁判所Web判決文74ページ)

その上で、原子力規制委員会のシミュレーションで、「本件発電所については、東京電力福島第一原子力発電所の1号炉ないし3号炉の合計出力に対する本件発電所の全原子炉(当時稼働していた4基)の合計出力の比(2.32)を乗じた量の放射性物質が放出されたなどの仮定を置いた場合、7日間の実効線量の積算値が100ミリシーベルトに達する拡散距離は、南方において最も長く、過去の気象データを基にすると、97%の確率で32.5㎞以内に収まり、本件発電所から63.5㎞より外側において7日間の実効線量の積算値が100ミリシーベルトを上回ることはないというものであった。」、原子力規制委員会のシミュレーションを前提に原告らが行った計算で「本件シミュレーションの結果において、本件発電所から南方63.5㎞より外側において7日間の実効線量の積算値が100ミリシーベルトを上回ることはないとされたことに基づいて、一定の計算をすると、本件発電所から南方約120㎞より外側において上記積算値が50ミリシーベルトを上回ることはなく、同約270㎞より外側において上記積算値が20ミリシーベルトを上回ることはないものとされる」(裁判所Web判決文72~73ページ)ということから、120km以内に居住する者は1年間で実効線量の積算値が20ミリシーベルトに達することが想定されうるので原告適格があると判断しました(裁判所Web判決文74~75ページ)。

 近藤駿介原子力委員長の「最悪のシナリオ」は判決文中に登場しないようです。原告側でこれに基づく主張はしなかったということでしょうか。

 行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
  

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