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産業廃棄物処分場と原告適格:高城町廃棄物処分場最高裁判決
 宮崎県北諸県郡(きたもろかたぐん)高城町(たかじょうちょう:合併により現在は都城市高城町)に株式会社イー・アール・シー高城が設置した産業廃棄物最終処分場(埋め立て施設)について、周辺住民13名が、事業者イー・アール・シー高城に対して宮崎県知事が行った産業廃棄物処分業許可(廃棄物処理法第14条第6項)、特別管理廃棄物(ここでは廃石綿等)処分業許可(廃棄物処理法第14条の4第1項)の無効確認、それぞれの許可の取消の義務づけ、それぞれの処分の更新許可(廃棄物処理法第14条第7項、第14条の4第2項)を求めて提訴しました。

 最高裁2014年7月29日第三小法廷判決は、「産業廃棄物の最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等によって当該最終処分場の周辺地域に居住する住民が直接的に受ける被害の程度は、その居住地と当該最終処分場との近接の度合いによっては、その健康又は生活環境に係る著しい被害を受ける事態にも至りかねないものである。」とした上で、「産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民のうち、当該最終処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該最終処分場を事業の用に供する施設としてされた産業廃棄物等処分業の許可処分及び許可更新処分の取消し及び無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟及び無効確認訴訟における原告適格を有するものというべきである。」として周辺住民に原告適格を認め、「産業廃棄物の最終処分場の設置に係る許可に際して申請書の添付書類として提出され審査の対象となる環境影響調査報告書において、当該最終処分場の設置が周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の対象とされる地域は、最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等がその周辺の一定範囲の地域に広がり得る性質のものであることや、前記ア(ウ)においてみた上記の環境影響調査報告書に記載されるべき調査の項目と内容及び調査の対象とされる地域の選定の基準等に照らせば、一般に、当該最終処分場の種類や規模及び埋立ての対象とされる産業廃棄物等の種類等の具体的な諸条件を踏まえ、その設置により生活環境に影響が及ぶおそれのある地域として上記の調査の対象に選定されるものであるということができる。」として、環境影響調査報告書の調査対象地域内に居住する住民の原告適格を認めました(その範囲外の原告1名については原告適格なしの判断)。

 法令が周辺住民を保護する趣旨を含んでいるか(そもそも住民に原告適格が認められるか)の判断で施設との近接の度合い(距離)により被害の直接性・重大性が異なることに言及していること、原判決のように事実として住民に被害が及ぶ蓋然性を見るのではなく、法令がどの範囲の住民を保護する趣旨なのかを基準としている(だから法令上提出を求められている環境影響報告書の調査対象地域を基準とする)ことが注目されます。
 環境影響報告書は、許可申請書に添付することが廃棄物処理法第15条第3項で定められていますが、環境影響評価法に基づく環境アセスメントの対象となる処分場(30㏊以上)以外の場合、調査対象地域は、厚生省生活衛生局水道環境部が作成したガイドライン「廃棄物処理施設生活環境影響調査指針」に基づいて事業者が定めることとされていて、この事件での環境影響調査対象地域も事業者が選定したものです。それを原告適格の基準としていいのかについては批判があります。

 行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
  

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