◆短くわかる民事裁判◆
原発訴訟の原告適格:川内1・2号機福岡地裁判決
川内原発(鹿児島県薩摩川内市)1号機と2号機について、原子力規制委員会が2014年9月10日付で行った原子炉設置変更許可(福島事故後の設計変更の許可、事実上の再稼働許可)に対して、周辺住民及び全国各地の住民が取消訴訟を提起しました。
福岡地裁2019年6月17日判決は、次のように判示して施設から250kmの範囲内に居住する原告について原告適格を認め、それを超える富山県、静岡県、神奈川県、東京都、埼玉県、福島県等在住の7名については原告適格を認めないと判断し、その7名については訴え却下、その他の原告との関係では処分の違法性が認められないとして請求を棄却しました。
ICRP勧告の確率的影響の数字と低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書の記載から「本件各原子炉において重大な事故が発生し、放射性物質が放出されることによって、急性的ないし一時的に100ミリシーベルト以上の放射線に被ばくし又は長期的な被ばく状況下において1年当たり20ミリシーベルトを超える線量の放射線に被ばくすることとなる範囲に居住する者は、避難指示が発令され、移住を求められる等して、それまでの生活環境が一変することになる可能性があるから、本件各原子炉において発生する事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民に含まれるということができる。」(裁判所Web判決文97ページ)
「日本における最悪の原発事故である福島第一原発事故において、想定され得るシナリオの中で最悪の事態が発生した場合の影響等を検討した本件資料には、福島第一原発事故において、1号機ないし4号機からの放射性物質が放出され、2炉心分(福島第1原発でいえば約1100本の燃料集合体)の放射性物質が大気中に放出した場合、福島第一原発から250㎞離れた地点において、セシウム137の土壌汚染濃度が555キロベクレルを超えることになり、これによって、放射線の線量率は、初期線量率が1年当たり約37ミリシーベルトとなり、その後は、1年後に1年当たり18ミリシーベルトまで減衰し、その後も線量率は減衰していくとする旨の記載がある。」、「本件資料は、福島第一原発の4号機の格納容器内の放射性物質及び使用済み燃料プールに貯蔵されていた1535本の使用済み核燃料(548本を1炉心分とした場合、2.8炉心分)を前提としているところ、本件各原子炉には、使用済み核燃料が1946本貯蔵されており、福島第一原発よりも多い。また、福島第一原発の電気出力は、1号機が46万キロワット、2ないし4号機が78.4万キロワットであるのに対し、本件各原子炉の電気出力は、合計178万キロワット(各89万キロワット)である。」、「そして、福島第一原発と本件各原子炉の上記各規模を踏まえると、本件各原子炉において、深刻な事故が発生した場合に放射性物質が放射される範囲は、本件資料が想定するシナリオを下回ることはないと考えられる。したがって、本件各原子炉において事故が発生した場合に、急性的ないし一時的に100ミリシーベルト以上の放射線に被ばくし又は長期的な被ばく状況下において1年当たり20ミリシーベルトを超える線量の放射線に被ばくすることとなる範囲は少なくとも本件各原子炉から250㎞以上の地域に及ぶということができ、この範囲の地域に居住する者については、本件訴訟の原告適格が認められる。」(裁判所Web判決文100~101ページ)
要するに、福島事故時に近藤駿介原子力委員長が作成したいわゆる「最悪のシナリオ」(判決文中の「本件資料」)に基づき、その前提となる使用済み核燃料や原子炉の出力が福島原発より大きな川内原発で大事故が起こればさらに広範な放射性物質の漏洩があり得ることを考えると、250km圏内は原告適格を認めましょうということです。
福島原発事故後の行政訴訟での原告適格の判断としては常識的で妥当なところだろうと思います。
行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
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