◆短くわかる民事裁判◆
自治体直営のゴミ焼却場に行政訴訟はできないか
自治体(市町村)以外の一般人(事業者)が一般廃棄物処理施設(ゴミ焼却場、最終処分場等)を設置する場合には都道府県知事の許可を得なければなりません(廃棄物処理法第8条)。この場合には、周辺住民は、この許可の取消訴訟を提起することができます。
自治体が一般廃棄物処理施設を設置する場合は、許可を要せず、都道府県知事に届出をするだけで設置できます(廃棄物処理法第9条の3第1項)。ただし、都道府県知事はその施設が技術上の基準に適合していないと認めるときは届出受理から30日以内(最終処分場は60日以内)に限り、計画の変更または廃止を命ずることができ、その機関内は設置を待たなければならないという制約はあります(廃棄物処理法第9条の3第3項、第4項)。
さて、以上のような現在の廃棄物処理法の下で、自治体直営のゴミ処理施設の停止を周辺住民が(人格権に基づく民事差止以外の方法で)訴えるにはどうすればいいでしょうか。
自治体の都道府県知事への「届出」を対象として、取消訴訟が可能でしょうか。一般的に見て、「届出」を行政処分と解することには、近年の処分性の拡大(緩和)傾向を考えてもなおハードルが高そうですし、届出に要件が定められていないので(環境影響調査とか書類の縦覧とかの手続要件はあるので、そこで闘える案件ならいいかもしれませんが)違法主張が難しそうです。
技術上の基準適合性がないとして、都道府県知事の変更廃止命令の義務づけ訴訟という途も一応はありそうですが、30日以内という制限をどう考えるのかで躓きそうです。
設置段階では難しいかも知れませんが、都道府県知事は、自治体が設置の届出をした一般廃棄物処理施設が技術上の基準や提出された設置に関する計画、維持管理に関する計画に「適合しないと認めるときは、その設置者又は管理者に対し、当該一般廃棄物処理施設につき必要な改善を命じ、又は期間を定めて当該一般廃棄物処理施設の使用の停止を命ずることができる。」とされています(廃棄物処理法第9条の3第10項)。この改善命令や停止命令の義務づけ訴訟であれば、周辺住民が提起することが可能ではないかと考えます。義務づけ訴訟は、原告適格(判例の傾向から考えて、環境影響調査書の対象範囲内の居住者には認められると思います)の他に「重大な損害を生ずるおそれ」「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」の要件も必要ですが、健康への影響が懸念される事態であれば、近年の傾向からは認められる余地が十分あると思います。
あるいは、ゴミ焼却場の運転が(自衛隊機の運行同様に)周辺住民に被害の受忍を強いる公権力の行使と捉えられるなら、行政訴訟としての差止めの訴えを提起することも可能と考えられます。差止めの訴えの要件は義務づけ訴訟とほぼ同じです。
※義務づけ訴訟(行政事件訴訟法第37条の2)、差止め訴訟(行政事件訴訟法第37条の4)は、いずれも、行政事件訴訟法の2004年改正で新設されたものです。
行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
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