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短くわかる民事裁判◆
判決の確定(例外):一部上訴
 判決が一部勝訴(一部敗訴)の場合や、全部敗訴したがその一部について限定して上訴した場合、上訴されなかった部分は、上訴期間経過で一部確定するでしょうか。
 「判決の確定(例外):多数当事者」で説明したように、当事者が多数(裁判業界でいう「訴えの主観的併合(うったえのしゅかんてきへいごう)」)の場合は、必要的共同訴訟という特殊なケースを除き、一部というか当事者ごとにバラバラに確定し、上訴せず上訴されなかった人と相手方の間では部分的に確定します。
 これとパラレルに考えれば、請求が複数の場合(裁判業界でいう「訴えの客観的併合(うったえのきゃっかんてきへいごう)」)でも、上訴の対象にならなかった請求は、双方が不服をいっていないんだからそこで確定でしょと思えるかも知れません。

 しかし、この場合、上訴審が係属している当事者間では、一部確定ということにはなりません。
 当事者が判決の一部についてのみ不服申立てをした場合でも確定遮断の効果と移審の効果は全部について生じると解されています。裁判業界(というよりは民訴法業界、かな)ではこれを、「控訴不可分の原則(こうそふかぶんのげんそく)」と呼んでいます。
 控訴審係属中は、控訴をしなかった当事者(控訴人の相手方)は口頭弁論終結に至るまで附帯控訴をすることができ(民事訴訟法第293条第1項)、控訴審においても訴えの変更は(請求の基礎に変更がない範囲で)可能です(民事訴訟法第297条、第143条第1項)。
 もっとも、控訴審の口頭弁論は「当事者が第1審判決の変更を求める限度においてのみ、これをする。」(民事訴訟法第296条第1項)、「第1審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる。」(民事訴訟法第304条)などの規定からしても、不服申立てがない範囲は控訴審の対象外と扱っているわけで、このあたり、確定遮断効とか移審の効力とか執行力とかさまざまな概念が錯綜してわかりにくくなっている感じがします。
 被控訴人が控訴をしておらず、かつ附帯控訴権を放棄した場合は被控訴人敗訴(控訴人勝訴)部分が部分確定するという議論にもなりますが、そうでない場合、確定するといってみても、被控訴人が附帯控訴したら結局はそこも控訴審で審理対象となり変更されうることになってしまうので、実務的には意味がないということになります。

 判決については、モバイル新館のもばいる 「弁論の終結と判決」でも説明しています。

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