◆短くわかる民事裁判◆
判決の更正申立て却下決定に対する即時抗告
「判決に計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りがあるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、いつでも更正決定をすることができる。」とされていて(民事訴訟法第257条第1項)、強制執行の関係などで、更正決定を得られるかどうかが当事者にとってけっこう重要な場面があることを「判決の更正」で説明しました。
当事者が更正の申立をしたのに対して、裁判所がこれを認めず(明白な誤りでないとか、それは更正でできる範囲でないとか)却下したとき、申立人はそれに対して不服申立て(即時抗告)できるでしょうか。
民事訴訟法は、裁判所が明白な誤りを認めて更正決定をしたときについては、即時抗告ができると定めています(民事訴訟法第257条第2項)が、更正の申立てを却下した決定については触れていません。1926改正前の民事訴訟法には、この場合不服申立てできないという規定があったけれども、改正でその規定が削除されました。しかし、戦前の大審院の判決や学説の多数説は、判決裁判所自身が明白な誤りがないと判断しているのだからという理由で即時抗告はできないという考えです。
戦後の裁判例では、東京地裁2007年3月31日決定(判例時報1613号114ページ)が、旧々民事訴訟法では更正申立てを却下する決定に対しては上訴できないという規定があったが現行民事訴訟法にはそのような規定がなくその可否は解釈に委ねられていること、判決に基づく執行を容易にする当事者の利益を保障する必要があること、更正決定に対しては相手方が即時抗告できその抗告審が更正について判断できるし判決に対する控訴審も原判決の明白な誤りを更正できることなどを理由に挙げて、更正申立てに対して実態判断をした上でなされた却下決定に対しても即時抗告を認めるのが相当であるとしています。
というあたりまでが、多くの本に書かれているのですが、私が思うに、「判決の更正」で紹介した最高裁2000年10月13日第二小法廷決定(判例時報1751号10ページ)が、死亡による損害(逸失利益:死亡しなければ得られた収入)の計算に際して用いる賃金センサス(平均賃金の統計)を誤ったため損害額計算を誤ったとしてなされた更正の申立てに対し、計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りであるとは認められないとして却下した原決定(東京高裁1999年10月15日決定)に対する許可抗告について抗告棄却しているのは、「明白な誤りであるとは認められない」として更正申立てを却下した決定に対する抗告が可能であることを認めているのではないでしょうか。却下決定に対して抗告ができないのであれば、最高裁は抗告棄却ではなく、抗告を却下するはずですから。
実務上必要性がある判決更正申立ての却下決定に対する即時抗告をせざるを得ないときには、よく引かれる東京地裁2007年3月31日決定だけではなくこの最高裁2000年10月13日第二小法廷決定も引用して説得すれば、入り口(即時抗告が可能なこと自体)は何とかなるのではないかと考えています。抗告審が判決の更正の範囲、明白な誤りと認めてくれるかはわかりませんけど。
判決については、モバイル新館の 「弁論の終結と判決」でも説明しています。
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