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短くわかる民事裁判◆
判決の更正
 「判決計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りがあるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、いつでも更正決定をすることができる。」とされています(民事訴訟法第257条第1項)。

 現実には、判決の主文記載の金額が違う、当事者の表記(氏名とか住所)が違う、物件目録の記載が違うということで更正されることがあります。判決に基づいて強制執行しようとしたとき、金額が違っていればその金額でしか差押え等ができませんし、当事者の表記が違うと強制執行に支障があります(相手方=支払義務者の名前や住所が違うと人物の同一性の関係で差押えができない可能性があり、申立人=差押債権者の名前や住所が違うと例えば銀行預金を差し押さえたはいいが銀行が支払いに応じない可能性があるとか、登記義務者の住所の記載が登記簿の記載と違ってたら移転登記等の前に住所変更登記が必要になるなど)。物件目録の記載が登記簿と違うと、判決で勝訴しても登記手続ができないということにもなりかねません。そうすると、ささいな間違いに思えることでも更正してもらう必要があります。

 判決の更正でどこまでできるかについては、一義的に明確とはいいにくいところがあります。
 死亡による損害(逸失利益:死亡しなければ得られた収入)の計算に際して用いる賃金センサス(平均賃金の統計)を誤ったため損害額計算を誤ったとしてなされた更正の申立てに対し、計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りであるとは認められないとして却下した原決定(東京高裁1999年10月15日決定)に対する許可抗告が退けられた(抗告棄却された)例があります(最高裁2000年10月13日第二小法廷決定:判例時報1751号10ページ)。
 判決理由中で、請求の一部について理由がないことを判示しながら、主文で「その余の控訴を棄却する。」と書き忘れ、裁判所が職権で主文に「控訴人らのその余の控訴をいずれも棄却する。」を付加する更正決定を行ったのに対して、更正の範囲を超えている(主文を書いたのは裁判の脱漏:民事訴訟法第258条)という許可抗告が退けられた(抗告が棄却された)例があります(最高裁2016年6月10日第二小法廷決定:判例時報2348号6ページ)。
 前者は更正の範囲を超えていて、後者は超えていないということですが、いろいろ議論の余地はありそうです。

 判決の更正決定に対しては即時抗告をすることができます(民事訴訟法第257条第2項本文)。
 ただし、更正対象の判決に対して(適法に)控訴がなされたときは即時抗告はできません(民事訴訟法第257条第2項但し書き)。この場合は、更正決定についても併せてその控訴審で判断されることになります。
 更正申立てを理由なしとして却下した決定(更正申立て却下決定)に対して即時抗告ができるかは改めて別に検討します。→「判決の更正申立て却下決定に対する即時抗告」

 判決については、モバイル新館のもばいる 「弁論の終結と判決」でも説明しています。 

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