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短くわかる民事裁判◆
法人でない社団の当事者能力
 非営利目的のグループでも、構成員(社員。従業員ではありません。従業員が兼ねてもいいですが)となる人(別の法人が構成員となってもよい)2人以上で、目的、名称、主たる事務所所在地、設立時の社員の氏名または名称及び住所、社員の資格の取得・喪失についてのルール、公告方法、事業年度等を定めた「定款(ていかん)」を作成して公証人の認証を受け、理事(代表者)を選任して、法務局で設立の登記をすれば、法人(一般社団法人)となることができます。
 一般社団法人を含め法人は、当然に訴訟の当事者となることができます。営利法人である会社も、また法人ではない自然人も(未成年者とか被後見人とかの訴訟能力がないとされる場合は別として)当然に訴訟の当事者となることができます。

 法人となる手続をしていない任意団体については、「代表者又は管理人の定めがあるもの」は訴訟の当事者になることができるとされています(民事訴訟法第29条)。
 どのような場合にそれに当たるかについて、最高裁は「団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない」としています(最高裁1964年10月15日第一小法廷判決最高裁1967年10月19日第一小法廷判決)。このような条件を満たす団体を、裁判業界・法学業界では「権利能力なき社団(けんりのうりょくなきしゃだん)」とか「法人格なき社団(ほうじんかくなきしゃだん)」と呼んでいます。言葉がちょっとミスリーディングですが、権利能力・法人格がないがそれでも当事者能力がある社団という趣旨です。

 法人の設立手続中の場合については訴訟の当事者となることが認められるのがふつうです。
 労働組合についても訴訟の当事者となることが認められるのがふつうです。
 町内会や住民運動団体も訴訟の当事者となることが認められることが多いですが、組織としての実情や活動の実情などから判断されるので、その継続性や実態がしっかりしていないと、認められないこともあります。

 最近の裁判で権利能力なき社団に当たるか争われたケースでの判断を少し紹介します。
 京都大学が吉田寮の学生に対して明渡しを求めた裁判で吉田寮自治会が権利能力なき社団に当たらないと主張しましたが、京都地裁2024年2月16日判決は吉田寮自治会は法人格なき社団に当たると判断しました(Web掲載判決23ページ)。
 オウム真理教犯罪被害者支援機構がオウム真理教の後継団体Alephに対してAlephが肩代わりを約束した被害者への損害賠償の支払を求めた裁判でAlephがオウム真理教犯罪被害者支援機構の当事者能力を争いましたが、東京地裁2019年4月10日判決はオウム真理教犯罪被害者支援機構の民事訴訟上の当事者能力を認めました(Web掲載判決14~16ページ)。
  当事者能力について争われたケースではこのように最高裁の判決の基準に即して詳しく検討判断されることになります。

 訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「訴えの提起(民事裁判の始まり)」でも説明しています。
  

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