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短くわかる民事裁判◆
事物管轄:複数の請求
 1つの訴え(1つの訴状)で複数の請求をする場合、事物管轄の基準となる訴訟の目的の価額(法律家の業界では「訴訟物の価額(そしょうぶつのかがく)」という言葉もよく使います)は、それぞれの請求についての価額を合算するのが原則です(民事訴訟法第9条第1項本文)。

 訴えで主張する利益が共通である場合はその限度では合算しないで多い方の額を基準とします(民事訴訟法第9条第1項但し書き)。
 私の得意領域の解雇事件の例で説明すると、解雇が無効だから労働者に労働契約上の権利を有する地位があるという地位確認請求とその結果解雇後も賃金が発生し続けているのでその未払い賃金(バックペイと呼ばれます)を支払えという請求は、主張する利益が共通(どちらも解雇が無効で労働者としての地位があるということの効果)です。地位確認請求は訴訟の目的の価額が算定不能で140万円を超えるものとみなされます。未払い賃金請求は提訴時点までに既に発生した額と提訴後1年間に発生する額の合計と扱われています。その多い方の額が基準となりますので、解雇を争う訴訟は常に地裁の管轄になります。
 パワハラやセクハラについて、使用者に対して、ハラスメントを防止しなかったことが労働契約上の安全配慮義務、職場環境配慮義務に違反するという債務不履行を理由とする損害賠償請求と、加害者の使用者として使用者責任を負うという不法行為を理由とする損害賠償請求を行う場合、同じセクハラやパワハラが原因であり、また損害が同じとも見られますので、やはり合算ではなく多い方(同額のことが多いとは思いますが)が基準となります。

 金銭請求の利息遅延損害金の請求は、訴えの目的の価額には算入しないこととなっています(民事訴訟法第9条第2項)裁判業界では、これらの請求を「附帯請求(ふたいせいきゅう)」と呼んでいます)。

 地裁でやりたいと考えるとき、弁護士は、これらのことを考えて、訴訟の目的の価額が140万円を超えるように請求を組み立てます(足りないときは、損害賠償請求をつけて、請求する慰謝料額で調整するとか)。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

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