庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

短くわかる民事裁判◆
事物管轄:地裁か簡裁か
 1審の裁判所が地方裁判所(地裁:ちさい)か、簡易裁判所(簡裁:かんさい)かは、訴訟の目的の価額(裁判業界では「訴訟物の価額(そしょうぶつのかがく)」という言葉もよく使います)によって定まります。訴訟の目的の価額が140万円を超える事件は地裁、140万円以内の事件(したがって140万円の事件もこちら)は簡裁です(裁判所法第24条第1号、第33条第1項第1号)。訴訟の目的の価額が算定できないとき、あるいは算定が極めて困難であるときは事物管轄の判断上は140万円を超えるものと扱われます(民事訴訟法第8条第2項)ので、地裁になります。訴訟の目的の価額の算定は「印紙額計算の基準:訴訟物の価額」で説明しています。不動産に関する訴訟の目的の価額の算定は「移転登記請求の訴訟物の価額」「建物明渡請求の訴訟物の価額」で説明しています。
 不動産に関する訴訟は、訴訟の目的の価額が140万円以内の場合、地裁も簡裁もともに管轄があります(どちらに提訴することも可能です。裁判所法第24条第1号)。
 ただし簡易裁判所に係属した不動産に関する訴訟で、被告が、原告の請求の内容についての反論をする前に、地裁への移送(いそう)を求めた場合は、簡易裁判所は事件を地方裁判所に移送しなければなりません(民事訴訟法第19条第2項)。これについては「簡裁の不動産に関する訴訟の地裁への移送申立」で説明しています。

 訴え提起の後に訴訟の目的としたものが同じままで評価額が変動(例えば株式の引渡請求で株価、建物明渡請求で建物の固定資産税評価額が変動)して140万円のラインを超えて上下しても管轄には影響しません(民事訴訟法第15条)。しかし、訴え提起時に訴訟の目的の価額が140万円以内として簡易裁判所に係属(けいぞく)した事件の裁判中に訴えの変更をして訴訟の目的となるもの自体を増やしたり(例えば引渡請求をする株数を増やすとか、明渡を求める建物の範囲を拡げるとか)、金銭請求の請求額を増額したり(裁判業界では「請求の拡張(せいきゅうのかくちょう)」といいます)して訴訟の目的の価額が140万円を超えた場合、地裁に移送するという扱いがなされています(東京弁護士会の機関誌に掲載された東京簡裁書記官の説明によれば)。
※ただし、被告が拡張後の請求に対して、管轄違いの主張をせずに、(移送や却下を求める以外の原告の請求の内容についての)反論等をした場合、応訴管轄(おうそかんかつ)を生じる(民事訴訟法第12条)ので、移送の必要はなくなります。
※他方、地裁に係属中に訴えの変更で訴訟の目的となるものが減らされたり、金銭請求の請求額を減額したり(裁判業界では「請求の減縮(せいきゅうのげんしゅく)」といいます)して訴訟の目的の価額が140万円以下になった場合は、地裁は自らの判断でそのまま審理・判決をすることができます(民事訴訟法第16条第2項)。これを裁判業界では「自庁処理(じちょうしょり)」と呼んでいます。

 地裁と簡裁の間では、本来簡裁の事件が地裁に提訴されたときの地裁の裁量による自庁処理(じちょうしょり)、簡裁の事件についての簡裁の裁量による地裁への移送など、管轄の規定上は簡裁の事件について地裁が扱うことに柔軟なところがあり、地裁で審理して欲しいと考える当事者にはいろいろやりようがあるところです。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

**_**区切り線**_**

短くわかる民事裁判に戻る

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ

民事裁判の話民事裁判の話へ   もばいるモバイル新館 民事裁判の話