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短くわかる民事裁判◆
簡裁から地裁への裁量移送
 簡易裁判所に事物管轄(じぶつかんかつ)があり、現に簡易裁判所で審理されている事件についても、簡易裁判所は相当と認めるときは、その簡易裁判所所在地を管轄する地方裁判所に移送することができます(民事訴訟法第18条)。これを裁判業界では「簡易裁判所の裁量移送(さいりょういそう)」と呼んでいます。「その所在地を管轄する地方裁判所」は、地裁支部がある場合でも本庁にも土地管轄はあります(その点については「土地管轄:本庁と支部」で説明しています)が、裁判所の事務分配の関係上、地裁支部に送っているようです(例えば、さいたま簡裁はさいたま地裁本庁に、川越簡裁はさいたま地裁川越支部にというように)。
 この裁量移送については、時期の制限はありません。
 移送は、当事者の移送申立てによっても、当事者が申し立てていないときに裁判所が職権で行うこともできます。移送の申立てがあったときは、裁判所は相手方の意見を聞かなければなりません。裁判所が職権で行うときは、当事者の意見を聞くことができるとされ、聞かずに決定してもいいことになっています。(民事訴訟規則第8条)

 私の経験上は、昔消費者金融に対する過払い金請求がかなり厳しい闘いだった頃(したがって、過払い金請求の広告をして依頼者を集めるような事務所など存在しなかった頃)、政府が貸金業者のために貸金業法に「みなし任意弁済」という過払い金請求が難しくなるような規定を作ったのをあれこれの法解釈でどうにか過払い金請求を認めさせていた時期に、過払い金債権者側の弁護士(私)と貸金業者側の弁護士の間で難しい議論になると、簡易裁判所の裁判官が、この事件は地裁でやってもらった方がいいですねと言い出して地裁に移送されるということがよくありました(その頃の話は、「みなし任意弁済との闘い」で説明しています)。単純に簡易裁判所の裁判官としては難しい法的判断はしたくないとか、手に余ると思うと地裁任せにしたというのが実情だと思います。裁判官によっては、最高裁の判断の余地を残した方がいいでしょう(1審が簡易裁判所だと、上告しても高裁までなので)などと言うこともありましたが。こちらとしては、やる気がない裁判官に判決をもらってもいいこともないので、特に異論を挟まずに従っていましたが、移送されるとそれだけで1か月あまり空転するので、困ったもんだなと思っていました。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

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