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 みなし任意弁済をめぐる闘い

ここがポイント
 みなし任意弁済(利息制限法に引き直しできない支払)は、2006年1月13日の最高裁判決と法改正で否定されたが、それ以前は貸金業者と借り主側弁護士の間でかなり熾烈な闘いがあった
   
 貸金業者の多くが貸金業規制法のみなし任意弁済の主張をしないのは、多くの消費者側の弁護士たちの闘いのおかげです。
 現在では最高裁の2006年1月の一連の判決でみなし任意弁済の成立の余地がほぼなくなり、改正貸金業法の全面施行(2010年6月18日)でみなし任意弁済の規定も削除されましたので、昔話ともいえますが、そこに至るいきさつは決して簡単ではありませんでした。

  みなし任意弁済の条件

貸金業規制法第43条は、
貸金業者が貸金業規制法第17条に定める事項を記載した書面(契約書)を契約後、遅滞なく借り主に交付していること
貸金業者が貸金業規制法第18条に定める事項を記載した書面(受取証書)を、弁済(返済)を受けたとき、「その都度」「直ちに」借り主に交付すること
借り主が利息として任意に支払ったこと
がすべて満たされた場合には、利息制限法違反の支払も有効な利息の支払いとみなすとしていました。

  貸金業規制法の条件を満たす書面は作れない?

 多くの本には、みなし任意弁済の条件を満たすことは困難であるとか、ほとんど不可能であると書かれています。しかし、ことはそんなに単純ではありません(2006年1月の一連の最高裁判決が出るまでは簡単ではありませんでした)。
 貸金業者側の主張を、消費者側の弁護士が頑張ってねじ伏せ結果として適用を認めさせないできているのです。
 貸金業者も、せっかく勝ち取った貸金業規制法のみなし任意弁済ですから、何とか適用を受けようとしてきました。当然、契約書面や受取証書は、一見、貸金業規制法第17条や第18条の事項をすべて記載しているように作られています。貸金業者側の弁護士が見て、これで行けるはずだということで契約書や受取証書の用紙を作っているはずです。かつては、貸金業規制法の規定する事項を全部は記載していないという理由でみなし任意弁済を否定した裁判例も見られました。貸金業者もそれに学んでいますから、今時、みなし任意弁済を本気で主張してくる貸金業者(商工ローンと一部の消費者金融)で、記載事項自体が落ちているなどということはほとんど考えられません。
 近年の闘いの焦点は、
記載されている事項の内容が正しいことが必要か
特に18条書面の利息、元本への充当額の記載が正しいことが必要か
18条書面の「直ちに」の程度
期限の利益喪失約款(支払いが遅れると残額を一括で支払うという約定)があるときは任意の支払といえるか
にありました。

  例えば、エイワの場合

 現在、消費者金融で「みなし任意弁済」の主張を執念深くしてくる「エイワ」の場合について、私が担当した裁判での判決で、具体的に説明してみましょう。
 エイワは、多くの消費者金融と違って、枠内で自由に借りては返しができる契約ではなく、最初に借りた額を均等に返していき、追加貸付が必要になったときには、最初の借入は精算して新たな契約書を作り、切り替えます。例えば最初に27万円借りて毎月1万8900円ずつ返済していき、残額が20万3822円となったところで、追加借入をしたくなったとします。エイワでは貸付額を30万円に増額して、30万円の契約書を作り、実際には差額だけ渡します。そのとき、最後の返済から切り替え貸付(追加貸付)の日までに利息(経過利息)が生じています。これが223円だったとします。そうすると、エイワではそれより少し多い額を借り主が一旦払ったという扱いで伝票を切ります。例えば1000円払ったことにして経過利息はゼロとし、経過利息223円との差額の777円は元本分の支払をしたとして元本を減らしたことにします。元本はエイワの扱い上20万3045円になります。そして新たな金額30万円の借用証書の「従前の貸付の債務」欄に元本20万3045円、利息・損害金0円と記載します。ところが、実際には借り主はエイワから新たな貸付額30万円から残元本と経過利息を差し引いた9万5955円を受け取るだけで自分のポケットからお金は出しません。だから実態としては、新たな貸付額30万円には従前の残元本20万3822円と経過利息223円が含まれています。そうすると、この新たな契約書の「従前の貸付の債務」欄の記載は正しい記載ではありません。
 エイワはこのような場合、借り主が経過利息分プラスアルファを現実に支払っていると主張します。
 東京高裁2004年9月22日判決は、通常の毎月の弁済額と著しく額が違うことは不自然であることなどから借り主が現実に支払ってはいないと認定した上で、契約書の記載は事実に反し、貸金業規制法第17条の書面と認めることはできないと判断しました。
 また、エイワは、借り主が店舗に行って返済したとき(エイワでは店舗に行って支払うことが割合多い)は、受取証書をその場で交付していますが、振込で返済したときには受取証書は郵送もしていません。そうすると振込返済の場合には18条書面を交付していませんのでみなし任意弁済は成立しません。ここまでは裁判でエイワの弁護士も認めます。問題は、1度振込返済があった場合、その後店舗に行って返済したときに渡す受取証書に記載する利息と元本充当額は、以前の(みなし任意弁済の適用されない)振込での返済について利息制限法で計算した場合の金額を書かねばならないかです。エイワは当然振込返済のときもみなし任意弁済の適用があるという前提で計算した額を記載しています。消費者側の弁護士はこれを親亀子亀問題といっています。ようするに前の18条書面がこけたらあとの18条書面もこけるかということです。この問題はエイワに限らずすべての貸金業者に共通する問題です。実は、この問題については、最高裁の判決はなく、親亀子亀問題に理解を示さない裁判官も少なくないといわれています。東京高裁2004年9月22日判決はみなし任意弁済が適用されない振込返済があった後はそれ以後の受取証書にはすべてその振込返済について利息制限法の利息で計算した金額を記載すべきであり、そうでない不正確な記載をした受取証書は貸金業規制法第18条の書面と認めることができないと判断しました。これは理屈としては、エイワについては1回でも振込返済があれば、そのあとはすべて店舗での返済で受取証書をその場で交付していても、振込返済後はすべてみなし任意弁済の適用はなく利息制限法が適用されるということです。
 エイワは、この東京高裁判決に対して最高裁に上告受理申立をしましたが、2005年2月10日、最高裁はエイワの上告を受理しない決定をしました。最高裁の決定は理由を書いていません(上告不受理は理由は書かないことになっています)ので、最高裁判例だとまではいえませんが、最高裁も親亀子亀問題を否定はしなかったのです。
 かなり技術的で細かい問題を延々と書きました。ここらは、はっきり言って、弁護士に話してもすぐには理解してもらえないくらいマニアックな話です。
 ここでいいたかったのは、みなし任意弁済をめぐっては、微妙で熾烈な闘いが繰り広げられてきたということです。

  最高裁2004年2月20日判決、7月9日判決

 最高裁は、SFCG(旧商工ファンド)に対する2004年2月20日判決で、貸金業規制法第18条書面の交付については「弁済の直後」にしなければならないとし、弁済後20日あまりして交付したケースは直ちに交付したとはいえないとしています。さらに、イッコーに対する最高裁2004年7月9日判決は、弁済後7日ないし10日以上後に交付したケースについても弁済の直後に交付したものと見ることはできないとしています。弁済後どれくらいのところまで「直ちに」に当たらないかはなお残された課題でした。
 また、最高裁の2004年2月20日判決には滝井裁判官の補足意見として、期限の利益喪失約款がついている場合には、それを恐れてした弁済は任意になされたとはいえないという趣旨の見解が示されています。これが多数意見になる日が来れば、みなし任意弁済の適用の余地はほぼなくなります。

  最高裁2006年1月13日判決

 ついに滝井裁判官の補足意見が多数意見になりました!
  詳しくは「みなし任意弁済の適用の余地はほぼなくなりました」を見てください

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