◆短くわかる民事裁判◆
印紙額計算の基準:訴訟物の価額
訴え提起手数料は、訴訟の目的の価額を基準として算定します(民事訴訟費用法第4条、民事訴訟法第8条第1項。その算定額、早見表は「訴え提起手数料:訴状に貼る印紙」で説明しています)。
この「訴訟の目的の価額」は、原告がその訴えで主張する権利または法律関係について原告が持つ経済的利益を金銭評価したものです。これを「訴訟物の価額(そしょうぶつのかがく)」、略して「訴額(そがく)」とも言います。
訴訟物の価額は、原告の訴え、直接には請求の趣旨に基づいて客観的に評価します。
金銭請求の場合、請求額が基準となり、金銭以外の財産上の請求はその経済的評価をしますが、その種類に応じて、概ね評価方法が決まっています。法令ではないのですが、裁判実務がそれに従っている「訴訟物の価額の算定基準について」(1956年12月12日最高裁民事局長通知)はこちら
財産上の請求でない請求については、160万円とみなされ、財産上の請求でその評価が極めて困難の場合も160万円とみなされます(民事訴訟費用法第4条第2項)。
1つの訴えで複数の請求をする場合、それぞれの請求の訴訟物の価額を合算するのが原則です(民事訴訟費用法第4条第1項、民事訴訟法第9条第1項本文)。
しかし、財産上の請求でない請求とその原因となる事実から発生する財産上の請求がともに請求される場合は、合算ではなく多い方の額で計算します(民事訴訟費用法第4条第3項)。解雇事件での地位確認請求(財産上の請求ではない請求)とバックペイ(賃金請求:解雇が無効であれば認められる)や、離婚事件での離婚請求(財産上の請求ではない請求)と離婚による慰謝料の請求は、その典型例です。
また、複数の請求で原告が得られる利益が共通の場合も、合算されず多い方の額で計算します(民事訴訟費用法第4条第1項、民事訴訟法第9条第1項但し書き)。借主と保証人に対する貸金請求や、特定物の引渡とそれが不能(その特定物が破壊されていたとか)の場合の代償金請求や、売買代金請求と売買契約が無効となったり解除された場合の売買目的物の返還請求などがその典型例です。
元本とともに利息や遅延損害金を請求する場合、特定の物の引渡とともに賃料や賃料相当損害金を請求する場合、この利息や遅延損害金、賃料や賃料相当損害金の請求は「附帯請求(ふたいせいきゅう)」と呼ばれ、附帯請求は訴訟物に算入されません(民事訴訟費用法第4条第1項、民事訴訟法第9条第2項)。
地裁と簡裁の事物管轄の基準となる訴訟の目的の価額も同じように考えます。ただし財産上の請求でない請求や極めて算定が困難な場合のみなし額は、その場合「160万円」ではなく「140万円を超える」です(民事訴訟法第8条第2項。事物管轄の場合、140万円を超えるかどうかだけが問題なので)。
訴訟物の価額の算定方法の説明は、通常この程度ですが、これだけではわかりにくいので、別のページで実際の裁判に即して説明します。
貸金請求の例→「貸金請求の訴訟物の価額」
移転登記請求の場合→「移転登記請求の訴訟物の価額」
建物明渡請求の場合→「建物明渡請求の訴訟物の価額」
損害賠償請求の例→「損害賠償請求の訴訟物の価額」
解雇事件の例→「解雇事件の訴訟物の価額」
訴え提起手数料については「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の 「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
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