◆短くわかる民事裁判◆
判断の遺脱による原判決破棄:最高裁2004年1月16日第二小法廷判決
「絶対的上告理由:理由不備」で説明したように、最高裁1999年6月29日第三小法廷判決以降、最高裁は、判断の遺脱は絶対的上告理由の1つである理由不備(民事訴訟法第312条第2項第6号)には当たらないとし、判断の遺脱自体が上告理由とはせずに、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反(民事訴訟法第325条第2項)として職権破棄するようになっています。上告との関係では結論として破棄するのならば同じとも考えられますが、判断の遺脱は再審事由(民事訴訟法第338条第1項第9号)でもあり、最高裁の姿勢は上告での対応に関して再審の補充性(民事訴訟法第338条第1項但し書き)がどう扱われるか(その点は「9号再審事由(判断の遺脱)と控訴・上告対応」で説明しています)、またどのような場合に再審事由に該当するのかという関心もあり、最高裁の判断の遺脱に関する判断は注目しておきたいところです。
現在の最高裁の判断の遺脱とこれを上告・再審でどう扱うかについての考え方を理解するためにも、実際に判断の遺脱に該当するとされたケースを検討しておくことは重要で、意味があることと思います。
共同相続人が相続人の1名に対して郵便貯金を解約して払い戻しを受けたことなどについて不法行為として損害賠償請求した裁判で、原告である相続人の一部は、当該郵便貯金について被相続人から生前贈与を受けたことを主位的主張として、生前贈与が認められなくても相続財産であるのに勝手に解約して払い戻しを受けたことを予備的に主張し、その他の原告である相続人は相続財産を勝手に解約して払い戻しを受けたことが不法行為であることを主張しました。
原判決は、生前贈与の主張をした原告らについては、生前贈与の事実は認められないとし、相続財産についての解約払い戻しの不法行為については当事者の主張として判決に記載せず、判断も示さないまま、当該郵便貯金についての損害賠償請求を棄却し、(生前贈与の主張をしなかった)他の原告らについては、郵便貯金以外の遺産に関する不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容しましたが、当該郵便貯金についての解約払い戻しの不法行為については当事者の主張として判決に記載せず、判断も示さないまま、当該郵便貯金についての損害賠償請求を棄却しました。
原告らが上告し、最高裁2004年1月16日第二小法廷判決(判例時報1895号30〜31ページ【2】【3】)は、上告理由はいずれも適法な上告理由に当たらないとしつつ、職権で、当該郵便貯金について解約して払戻を受け不法に領得した不法行為の主張について判断しないで当該郵便貯金に関する損害賠償請求を棄却した点は判断遺脱の違法がありこの違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるという判断を示して、当該郵便貯金に関する損害賠償請求に関する部分を破棄して原裁判所に差し戻しました。
相続財産について一部の相続人が勝手に払戻を受けたという不法行為による損害賠償請求で、違法行為が主張されている対象財産(の一部)について不法行為と主張されている行為(領得)があったか否かは、判決の結論(損害賠償を命じるか否か、命じるべき金額)に直接に影響します。
多数の不法行為が主張されている中で判断を落としたのかも知れませんが、独立に不法行為として主張され、それに応じて損害の発生と金額が各別に出てくるのであれば、判断を落とすと判決の結論に影響することになり、判断の遺脱となることになります。
もっとも、多数の一連の不法行為が主張されているときにまとめて(包括的に)判断がされていると評価できるかどうか微妙なこともあり、事案と書きぶりに左右されることもありそうです。
上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
モバイル新館の「最高裁への上告(民事裁判)」、
「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。
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