◆短くわかる民事裁判◆
判断の遺脱による原判決破棄:最高裁2006年3月10日第二小法廷判決
「絶対的上告理由:理由不備」で説明したように、最高裁1999年6月29日第三小法廷判決以降、最高裁は、判断の遺脱は絶対的上告理由の1つである理由不備(民事訴訟法第312条第2項第6号)には当たらないとし、判断の遺脱自体が上告理由とはせずに、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反(民事訴訟法第325条第2項)として職権破棄するようになっています。上告との関係では結論として破棄するのならば同じとも考えられますが、判断の遺脱は再審事由(民事訴訟法第338条第1項第9号)でもあり、最高裁の姿勢は上告での対応に関して再審の補充性(民事訴訟法第338条第1項但し書き)がどう扱われるか(その点は「9号再審事由(判断の遺脱)と控訴・上告対応」で説明しています)、またどのような場合に再審事由に該当するのかという関心もあり、最高裁の判断の遺脱に関する判断は注目しておきたいところです。
現在の最高裁の判断の遺脱とこれを上告・再審でどう扱うかについての考え方を理解するためにも、実際に判断の遺脱に該当するとされたケースを検討しておくことは重要で、意味があることと思います。
建物所有者である原告らが、敷地所有者である被告らに対して、借地権確認請求の訴訟を提起しました。
原判決は、原告らが借地権を有する土地の範囲が原告らが主張するとおりの範囲であることを認めることはできないとして原告らの請求を棄却しました。
原告らが上告し、最高裁2006年3月10日第二小法廷判決(判例時報1966号21〜22ページ【2】)は、「上告人らの本訴請求は、甲地又は乙地について上告人らの借地権が存在することの確認を求めるものであるが、甲地も乙地も図面上で特定された一定の範囲の土地であるから、借地権の存在がその全範囲にわたっては認められなくても、そのうち一部に借地権の存在が認められる場合には、その部分について借地権を有することの確認を求める趣旨の請求と解するのが相当である。」、「したがって、借地権の存在が上告人らの主張するとおり甲地又は乙地の全範囲にわたっては認められないからといって、直ちに上告人らの請求をすべて棄却することは許されない。」、「一部認容が可能であれば一部認容をしなければならない」、「原審はそのような判断を示すことなく、上告人らの借地権が甲地又は乙地の全範囲にわたって存在することが認められないというだけで、上告人らの請求をすべて棄却すべきものとしたのであり、この点において、原審の判断には判断遺脱があるといわざるを得ない。」、「以上によれば、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。原判決は破棄を免れない。そして、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」としました。
性質上一部認容が可能な請求について、請求の一部が認められるかを検討判断しなかったことが判断の遺脱だとされたものです。
もっとも、そうであれば、性質上一部認容が可能な請求かどうかは、請求自体、判決の請求の記載自体から判断できることですので、一部認容の可否を示さずに全部棄却することは、全部棄却の理由を示していないことになって、むしろ理由不備になるのではないかとも思えます。上告受理申立て事件ならば上告理由は上告受理申立て理由にならないという配慮から理由不備にしないということもありかなと思いますが、この事件は上告事件なので理由不備にした方が素直だと私は思います。
上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
モバイル新館の「最高裁への上告(民事裁判)」、
「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。
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