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短くわかる民事裁判◆
理由不備による原判決破棄:最高裁2006年6月6日第三小法廷判決
 「絶対的上告理由:理由不備」で説明したように、最高裁1999年6月29日第三小法廷判決以降、最高裁が絶対的上告理由の1つである理由不備(民事訴訟法第312条第2項第6号)にあたりとするケースは、稀になっています。
 現在の最高裁の理由不備についての考え方を理解するためにも、実際に理由不備に該当するとされたケースを検討しておくことは重要で、意味があることと思います。

 共有する土地の10分6の共有持分を有する過半数持分権者(原告、控訴人、上告人)が、その土地の10分の4の共有持分を有しその土地上に建物を所有する少数持分権者(被告、被控訴人、被上告人)に対して、建物収去土地明渡と賃料相当額の不当利得返還を求めて提訴しました。第1審判決は被告は共有持分権者なので不法占有には当たらないとして原告の請求を棄却し、原判決は、少数持分権者であっても共有者は共有物を全面的に使用収益する権限を有しているから、土地について共有持分を有する者が他の共有持分を有する者に対し建物を収去して土地を明け渡すことを求めることはできないとして原告の控訴を棄却しました。
 最高裁2006年6月6日第三小法廷判決(判例時報1967号26〜27ページ【34】)は、「不動産の共有者は、当該不動産を単独で占有することができる権限がないのにこれを占有している他の共有権者に対し、当然にはその占有する共有物の明渡しを請求することができないが、その占有により自己の持分に応じた使用を妨げられているのであるから、自己の持分割合に応じて専有部分に係る賃料相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払いを請求することができると解すべきである(最高裁1966年5月19日第一小法廷判決最高裁2000年12月4日第二小法廷判決)。したがって、本件不当利得返還請求については、被上告人がこれを単独で占有することができる権限を有することが認定されてはじめて請求を棄却することができるというべきであるが、原審は、被上告人の上記占有権原について何ら確定することなく、被上告人は本件土地の共有持分に基づき本件土地を占有しているから上告人は被上告人に対して本件明渡請求をすることができない旨を説示しただけで、直ちに本件明渡請求及び本件不当利得請求をいずれも棄却した第1審判決を是認し、これに対する上告人の控訴を棄却した。そうすると、原判決のうち上告人の本件不当利得返還請求に係る控訴を棄却した部分は、民法703条について法令の解釈を誤っただけでなく、主文を導き出すための理由が欠けているといわざるを得ず、理由不備の違法がある。」と判示して、原判決のうち不当利得返還請求に関する部分を破棄して原裁判所に差し戻しました。
 この判決では、問題の部分についての主張の摘示(当時者の主張としての記載)は問題にされていません。共有関係が認定されている以上、それを前提にすれば、占有者が賃料相当損害金の支払いを免れるという主文の結論が導けないということなのでしょうけれども、それならば、有期契約期間中の解雇が無効であるというだけではその期間満了後の労働者としての権利を有する地位を認める主文を導けない最高裁2019年11月7日第一小法廷判決のケースも「判断の遺脱」だけでなく「理由不備」にも当たるというべきだろうと、私は思います。
※共有不動産について単独で占有している少数持分権者に対して多数持分権者が明渡し(建物収去土地明渡)請求することを否定した最高裁1966年5月19日第一小法廷判決は、少数持分権者の利益を守る楯になってきましたが、2020年4月1日施行の民法改正で民法第252条第1項後段が新設されたことにより、否定され、多数持分権者は(共有者間の合意によって少数持分権者が占有している場合を除き)少数持分権者を追い出せるようになっています。利息制限法違反の貸金業者に対する過払い金返還請求を認めた最高裁判決が、貸金業法の制定によって立法で否定されたのと似たような感じですね。過払い金請求は裁判所側の逆襲によりその後また過払い金請求ができるようになりましたが、こちらはいかに…

 上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「最高裁への上告(民事裁判)」もばいる「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。

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