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短くわかる民事裁判◆
理由不備による原判決破棄:最高裁2007年6月11日第二小法廷判決
 「絶対的上告理由:理由不備」で説明したように、最高裁1999年6月29日第三小法廷判決以降、最高裁が絶対的上告理由の1つである理由不備(民事訴訟法第312条第2項第6号)にあたりとするケースは、稀になっています。
 現在の最高裁の理由不備についての考え方を理解するためにも、実際に理由不備に該当するとされたケースを検討しておくことは重要で、意味があることと思います。

 原告(上告人)の関連会社(イギリス法人)が、ニッケル納品業者が倉庫業者である被告(被上告人)の倉庫に納入するドラム缶入りのニッケル地金を商社から購入し、原告は原告の関連会社のために被告と商品の保管に関する寄託契約(きたくけいやく)をして、商社から原告の関連会社が購入すると商社が被告に引渡依頼書を送付して倉庫業者が押印して返送し商社が押印済の引渡依頼書を原告に送付し、それを確認して原告の関連会社が商社に代金を支払い、原告の関連会社が当該商品(ニッケル地金)を最終消費者に売却すると原告が被告に荷渡指図書を送付し、被告が倉庫から出庫する、納品業者の納品から最終消費者への納品のための出庫まで商品はドラム缶詰めのまま被告が保管した状態という取引をしていたところ、ニッケル納品業者が研磨粉や泥などの偽物を詰めたドラム缶を納品し、出庫直前に新製品とすり替えることを繰り返し、倉庫業者はそれを知っていたが、原告らに通知せずにいて、原告の関連会社が買い受けた量のニッケル地金が倉庫業者の倉庫にないことに不審を持ち、また偽物の納品の噂を聞いて品質検査をしたところ、偽物であることが発覚しました。原告が、関連会社から倉庫業者の不法行為に基づく損害賠償請求権を譲り受けて被告に対し、損害賠償請求訴訟を提起しました。
 原告は、関連会社から譲り受けた不法行為に基づく損害賠償請求権とともに、自らと被告の間の寄託契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権を主張ましたが、原判決は、原告は商品について所有権を侵害されたわけではなく、また商品代金を支払ったわけでもないから被告が通知したとしてもそれにより代金支払を免れる関係にもないから通知義務違反と損害の間の因果関係を認めることができないなどとして、債務不履行の主張について判断せずに、原告の請求を棄却すべきものとしました。
 最高裁2007年6月11日第二小法廷判決(判例時報2009号9〜12ページ【3】)は、原告(上告人)の請求のうち被告(被上告人)の通知義務違反に関する主張について、「上告人は(略)不法行為の主張とともに、寄託契約上の債務不履行の主張をもしているのであるから、原審において(略)請求を棄却するためには、不法行為の主張を排斥するだけでは足りず、上記債務不履行の主張をも排斥することが必要であることは明らかである。」、とした上で、さらに不法行為の主張についても、上告人は被上告人の通知義務違反により関連会社との委任契約に基づき関連会社の被った損害を填補する義務を負い、したがって関連会社が被った損害と同額の損害を被ったと主張しているのであるから、それを排斥するためには所有権がないとか代金を支払っていないというだけでは足りず、関連会社への損害填補義務がないとか、その損害を被ってもそれが通知義務違反を因果関係がないことなどを示す必要があることを指摘して「理由不備の違法があるというべきである」して、通知義務違反に関する部分について原判決を破棄して原裁判所に差し戻しました。

 損害賠償請求の際に不法行為の主張と債務不履行の主張をともにすることはよくあります。このケースは、損害が直接には当事者でない関連会社に発生していること、被告と関連会社の間には契約関係がなく自ら不正をしたわけではない(不正があったことを知っていたに留まる)被告に関連会社に対しても通知義務があるともいいにくいこtなどの事案の特殊性があって、不法行為と債務不履行の要件が相当程度変わってくるので、よくある不法行為と債務不履行をともに主張する場合に直ちに使えるかは検討する必要がありますが、頭に置いておく必要があるかと思います。

 上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「最高裁への上告(民事裁判)」もばいる「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。

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