◆短くわかる民事裁判◆
判決裁判所の構成の違反:弁論終結時と別の裁判官による判決
民事訴訟法第249条第1項は、「判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする。」と定めています。この「基本となる口頭弁論」は、判決前の最終の口頭弁論期日と解されています。また、判決をするというのは判決内容を決定し判決書原本に署名押印することであり、判決の言い渡しは別の裁判官が(代読)してもかまわないとされています(最高裁1951年6月29日第二小法廷判決)。判決の代読は、裁判官の異動などの事情で、実務上、わりとあります。
以上の規定の解釈から、口頭弁論終結時と異なる裁判官が判決の内容を決定して判決書原本に署名押印している場合は、絶対的上告理由の「法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと」に当たると解されています。
弁論を終結した期日の口頭弁論調書に記載されている裁判官と判決書原本に署名押印している裁判官が異なる場合は、原判決は判決の基本たる口頭弁論に関与しない裁判官によつてなされたものとして破棄され(最高裁1950年9月15日第二小法廷判決、最高裁1957年10月4日第二小法廷判決、最高裁1965年2月18日第一小法廷判決:引用されている民事訴訟法の条項は現行民事訴訟法制定前の旧民事訴訟法のものです。最高裁1969年10月21日第三小法廷判決:判例時報588号19ページ〔1〕、最高裁1971年6月4日第二小法廷判決:判例時報662号4ページ〔1〕、最高裁1972年12月22日第一小法廷判決:判例時報708号14ページ〔1〕、最高裁2001年3月23日第二小法廷判決:判例時報1783号25ページ【1】、最高裁2001年10月11日第一小法廷判決:判例時報1783号33〜34ページ【8】、最高裁2002年1月18日第2小法廷判決:判例時報1814号34ページ【1】、最高裁2002年3月18日第二小法廷判決:判例時報1814号34ページ【2】)、最高裁は、このような場合に原判決を破棄して差し戻す判決をするために必ずしも口頭弁論を経る必要はないとしています(最高裁2007年1月16日第三小法廷判決、最高裁2018年3月30日第二小法廷判決:判例時報2420号8ページ【1】、最高裁2022年2月3日第一小法廷判決:判例時報2563号91〜92ページ【1】、最高裁2022年10月17日第二小法廷判決:判例時報2563号93ページ【5】:これらの判決が引用している民事訴訟法の条項はいずれも却下、棄却をする場合のもので、原判決を破棄する場合のものではなく、法解釈としてそれでいいのかという疑問は感じます)。(この理由で破棄されたケースがこんなにあるの、ちょっと驚きですね)
口頭弁論を終結した期日の口頭弁論調書に立会書記官の氏名の記載がなかったという事案で最高裁1968年9月27日第二小法廷判決は、この期日の口頭弁論調書には口頭弁論調書としての効力がなく、その結果、口頭弁論を終結した時期が明らかでないこととなり、「原審における最終の口頭弁論に関与した裁判所の構成が明らかでなく、判決書に署名した裁判官が基本たる口頭弁論に関与した者であるとは認めがたい。」として原判決を破棄して差し戻しました(引用されている民事訴訟法の条項は現行民事訴訟法制定前の旧民事訴訟法のものです)。
裁判所の記録上は、口頭弁論終結期日の裁判官と判決原本に署名押印した裁判官が一致しているが、当事者(代理人弁護士)に送達された判決正本には合議体の3名のうち1名の裁判官の氏名が異なり(口頭弁論終結期日ではなく判決言渡期日の裁判官の氏名が記載されている)、判決文の記載にも裁判所に保管されている判決原本と異なる記載があるという事案で、最高裁1999年2月25日第一小法廷判決は、当事者に送達された判決正本「に相応する判決原本が存在していたのではないかとの疑いが残り、これを払拭することができない。そうすると、原判決がその基本となる口頭弁論に関与した裁判官によりされたことが明らかであるとはいえないから、法律に従って判決裁判所を構成したということはできない。」として原判決を破棄して差し戻しました(引用されている民事訴訟法の条項は現行民事訴訟法制定前の旧民事訴訟法のものです)。
なお、上告理由の判断ではありませんが、同様の問題意識から、このような場合には民事訴訟法の根幹に関わる重大な違法があるから、全部勝訴した原告も控訴できるとした最高裁判決(最高裁2023年3月24日第二小法廷判決)もあり、これについては「全部勝訴者は控訴できるか:裁判手続の重大な違法」で説明しています。
上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
モバイル新館の「最高裁への上告(民事裁判)」、
「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。
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